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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2020年9月16、17日開催分)

2020年11月4日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2020年10月28、29日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2020年9月16日(14:00~15:40)
 
9月17日( 9:00~11:44)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
櫻井 眞 (審議委員)
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
安達誠司 (  審議委員  )
中村豊明 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 阪田 渉 大臣官房総括審議官
 
内閣府 茨木 秀行 大臣官房審議官(経済財政運営担当)(16日)
田和 宏 内閣府審議官(17日)
(執行部からの報告者)
理事 内田眞一
理事 清水季子
理事 貝塚正彰
企画局長 清水誠一
企画局政策企画課長 飯島浩太
金融市場局長 大谷 聡
調査統計局長 亀田制作
調査統計局経済調査課長 川本卓司
国際局長 福本智之
(事務局)
政策委員会室長 中島健至
政策委員会室企画役 本田 尚
企画局企画役 東 将人
企画局企画役 門川洋一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(7月14、15日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

企業等の資金繰り支援のための措置として、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペを実施した。また、国債買入れやドルオペなどによって、円貨および外貨を潤沢に供給したほか、ETFおよびJ-REITの積極的な買入れを行った。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は、-0.07から-0.01%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、幾分低下している。

株価(日経平均株価)は、企業業績の回復期待の高まりや予想を上回る経済指標などを背景とした米国株価の上昇に連れるかたちで、上昇している。長期金利は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。国債市場の流動性について、8月の「債券市場サーベイ」をみると、5月調査と比べて、市場の機能度判断DI(「高い」-「低い」)は、マイナス幅が大きく縮小している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、幾分円高方向の動きとなっている一方、円の対ユーロ相場は、欧州復興基金の設立合意等を背景に、ユーロ高方向の動きとなっている。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しつつある。前回会合以降に公表された各国の4から6月の実質GDPをみると、多くの国で過去最大のマイナス幅となっており、感染症拡大とロックダウン等の措置から、海外経済が大きく落ち込んだことが改めて確認された。その後の展開をみると、経済活動の再開やペントアップ需要の顕在化、挽回生産の動きなどから、企業の業況感は改善しており、世界生産や世界貿易量も足もと反発している。一方、夏場にかけて、米国などの一部国・地域では、感染者数が増加するもとでサービス消費の増勢テンポは緩やかなものとなるなど、海外経済ははっきりと持ち直すには至っていない。先行きの海外経済については、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、各国・地域の積極的なマクロ経済政策にも支えられて、持ち直していくとみられる。もっとも、当面は、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられる。また、感染症の帰趨や、それが海外経済に与える影響の大きさといった点については、引き続き、きわめて不確実性が大きい。

地域別に動きをみると、米国経済は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しつつある。個人消費は、夏場にかけての感染者数急増もあってサービス消費が落ち込んだ状態にあるものの、政府による家計所得の補填政策やペントアップ需要の一部顕在化などを受けて、財消費を中心に持ち直しつつある。住宅投資は、住宅ローン金利が既往最低水準を更新するもとで、ペントアップ需要もあって、増加している。設備投資は、機械投資の一部に持ち直しの動きがみられるものの、企業収益の減少などにより、全体としてみれば、依然として落ち込んだ状態にある。

欧州経済は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しつつある。ユーロエリアでは、個人消費は、最近の感染者数の増加もあってサービス消費が落ち込んだ状態にあるものの、政府による自動車の購入補助金の拡大やペントアップ需要の一部顕在化などを受けて、財消費を中心に持ち直しつつある。輸出や生産も持ち直しに転じている。設備投資は、一部に持ち直しの動きもみられるが、企業収益の減少などから、全体としてみれば、依然として落ち込んだ状態にある。

中国経済は、積極的なマクロ経済政策の効果発現やペントアップ需要の顕在化から、回復している。輸出は、増加している。個人消費は、一部で感染症の影響が残るものの、ペントアップ需要の顕在化により、全体として持ち直している。固定資産投資は、積極的なマクロ経済政策の効果発現に伴い、引き続き増加している。

中国以外の新興国経済は、一部に持ち直しの動きもみられるが、落ち込んだ状態が続いている。NIEs・ASEAN経済は、内需は落ち込んだ状態にあるが、輸出や生産面では持ち直しの動きもみられている。また、インドやブラジル、ロシア経済は、感染症が拡大するもとで、落ち込んだ状態が続いている。

海外の金融市場をみると、株価は、ワクチンの早期開発期待や、一部の良好な経済指標などを手掛かりに、期間を通してみれば上昇傾向を続けている。米国の長期金利は幾分上昇している。為替市場では、FRBによる低金利政策の長期化が意識されるもとで、小幅のドル安が進んだが、新興国通貨は、一部で下落がみられ、全体としてみれば横ばい圏内で推移している。この間、原油価格は、9月に入り、米国株価の調整などを受け、下落している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しつつある。先行きについては、経済活動が再開していくもとで、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、緩やかな改善基調を辿るとみられる。

輸出や鉱工業生産は、海外経済の動きを反映して、持ち直しに転じている。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、米欧中の自動車販売の回復を反映して、持ち直しに転じている。情報関連は、データセンター向けやパソコン関連を中心に増加している。一方、資本財は、世界的な設備投資先送りの動きを反映して、金属加工機械や建設用・鉱山用機械を中心に落ち込んでいる。先行きの輸出や生産は、世界的に感染症の影響が和らいでいくのに伴い、持ち直しを続けるとみられる。

個人消費は、飲食・宿泊等のサービスは依然として低水準となっているが、全体として徐々に持ち直している。財消費については、自動車販売は、6月以降は3か月連続で増加し、足もとでは年始の水準を回復している。家電販売は、在宅時間の長期化や特別定額給付金の効果もあって、持ち直し傾向にある。また、食料品や日用品などは、ひと頃に比べ増勢は鈍化しているが、「巣ごもり消費」の拡大を背景に底堅さを維持している。サービス消費は、緊急事態宣言が発令されていた4から5月をボトムに持ち直しの動きがみられるものの、7月以降の感染者数の増加もあって、そのペースは緩慢なものにとどまっている。水準でみても、外食や旅行などの対面型サービスを中心に、依然として低い状態にある。外食産業売上高は、5月以降、徐々に水準を切り上げているが、なお落ち込みの半分程度しか取り戻していない。旅行は、国内旅行は都道府県をまたぐ移動の自粛の緩和や「Go Toトラベル事業」を受けて低水準ながらも徐々に持ち直している一方、海外旅行は渡航制限の継続によりほぼ皆減の状態が続いている。先行きの個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費は相対的に低水準を続けるとみられるが、全体としては感染症の影響が和らいでいく中で、各種の所得支援策や需要刺激策にも支えられて、持ち直しが明確となっていくとみられる。

企業収益や業況感は、感染症の影響により悪化している。法人企業統計で4から6月の売上高経常利益率をみると、昨年後半から低下傾向にあったが、足もとでは、感染症の影響から一段と低下している。企業の業況感は、一部指標には持ち直しに向けた動きがみられるものの、中小企業を中心に大幅に悪化した状態にある。設備投資は、減少傾向にある。4から6月のGDPベースの実質設備投資(2次速報値)は、前期比-4.7%の減少となった。機械投資の一致指標である資本財総供給は、企業収益の悪化や先行き不透明感の高まりから、はっきりと減少している。建設投資の一致指標である建設工事出来高(民間非居住用)も、オリンピック関連の大型案件の一巡もあって、緩やかな減少傾向にある。先行きの設備投資は、企業収益の悪化や感染症に関する先行き不透明感の高さを背景に、減少傾向を続けるとみられる。

感染症の影響が続く中で、雇用・所得環境には、弱い動きがみられている。7月の労働力調査の就業者数は、前年比-1.1%と、4から6月並みの減少幅となった。この間、4月の緊急事態宣言を受けて急増した休業者数は、5から6月以降ははっきりと減少しており、7月は概ね3月並みの水準に復している。7月の名目賃金は、所定外給与と夏季賞与の減少を主因に、前年比-2%台の下落となっている。先行きの雇用者所得については、当面、感染症の影響による経済活動の落ち込みや企業収益の減少の影響から、減少傾向が続くと見込まれる。

物価面について、消費者物価の前年比は、除く生鮮食品は0%程度、除く生鮮食品・エネルギーは0%台半ばとなっている。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落などの影響を受けて、マイナスで推移するとみられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にあるが、企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっている。

予想物価上昇率は、弱含んでいる。

企業の資金需要は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた売上げの減少や予備的な需要などを背景に増加している。企業の資金繰りは、感染症の影響を受けた売上げ減少などを背景に厳しさがみられる。中小企業の資金繰り判断DIは、緩やかに改善しているが、感染症拡大前の水準には復していない。もっとも、日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、低水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、6%台後半のプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、10%を超える高めのプラスで推移している。

この間、マネタリーベースは、前年比で11%台半ばの伸びとなっている。マネーストックの前年比は、8%台半ばの伸びとなっている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、米国を中心とした企業業績の回復期待の高まりなどから、ひと頃の緊張は緩和しているとの認識で一致した。もっとも、委員は、内外経済の不透明感が強いもとで、株式市場のボラティリティは依然として感染拡大前よりも高めの水準で推移するなど、引き続き、神経質な状況にあるとの見方を共有した。このうち一人の委員は、足もとでは、世界共通のショックに対して、各国・地域の財政・金融政策が同じ方向で実施されていることが金融市場の安定に繋がっているが、今後の情勢次第では、再びボラティリティが高まり得るため注意が必要であると述べた。また、別の委員は、市場参加者のリスク認識の偏りを示す指標について、株式市場のSKEW指数は高止まっており下方のテールリスク(大幅な株価下落)が意識されているほか、ドル/円のリスクリバーサルでは円高警戒感が高まっていると指摘した。

海外経済について、委員は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しつつあるとの認識で一致した。もっとも、多くの委員は、世界的に新型コロナウイルス感染症の影響が残る中で、経済活動の水準は依然として低いほか、サービス消費を中心に持ち直しのペースは緩慢であるとの認識を示した。また、一人の委員は、回復の軌道がはっきりとしたV字となっているセクターがある一方、未だ需要の回復目途が立たないセクターがあり、リーマン・ショック時と比較しても徐々にセクター間の対比が鮮明になりつつあると述べた。海外経済の先行きについて、委員は、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、各国・地域の積極的なマクロ経済政策にも支えられて、持ち直していくとみられるが、そのペースは緩やかなものにとどまるとの認識を共有した。また、何人かの委員は、先行き、感染症の帰趨に加え、米中間の緊張の高まり、英国とEUの通商交渉、米国大統領選挙などのリスク要因もあり、不確実性が大きいと指摘した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しつつあるとの認識を共有した。複数の委員は、住宅投資や自動車販売などに、実質金利の低下を通じた金融緩和効果が現れていると指摘した。また、一人の委員は、米国経済は財消費を中心に持ち直しつつあり、若年・中年層の成長期待が下振れているようには窺えないことから、先行きも持ち直しが続くとの認識を示した。ある委員は、経済の回復ペースに比べると、雇用の回復の勢いが鈍化していることが気がかりであると述べた。

欧州経済について、委員は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しつつあるとの見方を共有した。複数の委員は、ロックダウン解除後、欧州経済は持ち直しつつあるが、夏場にかけて、感染者数が再び拡大基調となっているもとで、高頻度データによれば、8月以降は景気の回復ペースが鈍っている点は気がかりであると述べた。また、一人の委員は、輸出・生産・財消費を中心に持ち直しつつあるが、輸出の動向を見通すうえでは、足もとのユーロ高の影響が懸念されると述べた。

中国経済について、委員は、積極的なマクロ経済政策の効果発現やペントアップ需要の顕在化から、回復しているとの認識で一致した。複数の委員は、相対的にみれば、中国は感染症の抑制に成功していると指摘した。もっとも、何人かの委員は、世界経済の回復ペースが緩慢である中、米中間の緊張の高まりなどの影響もあって、当面は外需主導での回復は見込み難いとの認識を示した。また、一人の委員は、中国のマクロ経済政策はバランスのとれた成長を重視したものとなっており、総需要は勢いを欠いているため、世界経済を牽引するほどの力強さはないとの見方を示した。

新興国経済について、委員は、一部に持ち直しの動きもみられるが、大きく落ち込んだ状態が続いているとの認識を共有した。ある委員は、感染症の影響が長引いた場合、財政余力が乏しく対外債務の大きな国では、政策対応が難しくなる可能性があると述べた。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しつつあるとの見方で一致した。このうち何人かの委員は、わが国景気は4から6月に底打ちしたとみられると指摘した。この間、ある委員は、国内経済情勢は、前回会合時点でみていたよりも、幾分改善ペースが鈍いように窺われると指摘した。輸出や生産について、委員は、持ち直しに転じているとの認識で一致した。このうち、複数の委員は、内外の経済活動の再開に伴って、特に自動車関連を中心に復調の動きが明確になっていると述べた。ただし、別の複数の委員は、サービス輸出であるインバウンド需要は引き続き大きく落ち込んでいると指摘した。個人消費について、委員は、サービス消費は依然として低水準となっているが、財消費を中心に、全体として徐々に持ち直しているとの見方を共有した。一人の委員は、特別定額給付金の支給にも支えられて、最悪期は脱したとの見方を示した。もっとも、何人かの委員は、感染症の影響が残るもとで、特にサービス消費の持ち直しのペースは緩慢であるとの認識を示した。このうち一人の委員は、夏場には、外食や宿泊など対面型サービスは感染再拡大により足踏みしたと述べた。設備投資について、委員は、減少傾向にあるとの認識を共有した。一人の委員は、4から6月の法人企業統計では、収益の不透明感が強いもとで投資を手控える動きが窺われたとの見解を述べた。ある委員は、4から6月のGDPベースの設備投資の減少は概ね想定通りであったとの見方を示した。雇用・所得環境に関しては、委員は、弱い動きがみられているとの認識で一致した。そのうえで、複数の委員は、政府・日本銀行の政策の効果もあって、経済情勢の悪化に比べれば雇用の落ち込みは抑制されているとの見方を示した。

景気の先行きについて、委員は、経済活動が再開していくもとで、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策にも支えられて、改善基調を辿ると考えられるが、世界的に感染症の影響が残る中で、そのペースは緩やかなものにとどまるとの見方で一致した。また、委員は、その後、感染症の影響が収束すれば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済はさらに改善を続けるとの見解を共有した。一人の委員は、先行きについて、7月の展望レポートで示したメインシナリオの見方を大きく変える必要はないとの認識を述べた。その理由として、この委員は、わが国は、これまでの経験を活かし、経済社会全体として、感染防止と経済活動のバランスをとりながら、その双方を両立させ得る局面に入ってきているとの見方を付け加えた。ある委員は、当面は、感染症抑制と経済活動拡大の両立を模索しつつ、経済の回復ペースを慎重に点検することが肝要であるとの認識を示した。一人の委員は、わが国経済は、目先、輸出や生産に支えられて比較的はっきりと回復すると予想されるが、感染症の影響によりサービス消費を中心に内需の低迷が続く可能性が高いため、大幅な反発は見込みにくいと述べた。ある委員は、設備投資は、短観等の計画が例年よりも慎重に設定されており、雇用環境が悪化している中で、個人消費も回復の重石になるとみられることから、景気の回復ペースは緩やかと見込まれると述べた。そのうえで、多くの委員は、政策効果もあって、倒産や失業者の大幅な増加が回避されているもとで、現時点で成長期待は大きく低下していないが、今後、企業収益や雇用者所得が弱い状態が暫く続くと見込まれるため、企業や家計の支出行動が想定以上に慎重化することがないか、しっかりと点検する必要があるとの認識を示した。このうち一人の委員は、年金不安や長寿リスクが消費の重石となっていたもとで、今回の感染症により予期せず将来の所得が減少するリスクが認識されたことで、家計の貯蓄性向が更に高まり、消費の下押し圧力となることが懸念されると述べた。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、除く生鮮食品は既往の原油価格下落の影響などにより0%程度、除く生鮮食品・エネルギーは0%台半ばとなっており、予想物価上昇率については、弱含んでいるとの認識を共有した。何人かの委員は、消費者物価の品目別価格分布がマイナス方向に歪んでいくといった状況にはなく、現時点では、デフレ期にみられたような、値下げにより需要喚起を図る価格設定行動は拡がっていないとの見方を示した。このうちのある委員は、需要減少が感染防止のための経済活動抑制によるもとでは、企業は価格引き下げによる需要喚起が見込めないと考えているのではないかと述べた。

先行きについて、委員は、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落などの影響を受けて、マイナスで推移するとみられるが、その後は、景気が改善していくもとで、プラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。一人の委員は、企業が余剰人員を抱えた状況が続くと、感染症の収束後も賃金の上昇が抑制され、サービス価格が上がりにくくなる惧れがあるものの、必要な政策対応を続け、需給ギャップがプラスに転じる過程で、物価上昇のモメンタムを取り戻すことが可能であるとの見方を示した。別のある委員は、構造改革や規制改革の機運は高まっており、こうした改革が奏功して成長期待が高まれば、雇用慣行の見直しや消費および投資行動の前向きな変化を通じて、やや長い目でみて、物価上昇率も高まっていくのではないかと述べた。他方、一人の委員は、消費者物価の前年比は、当面、はっきりとしたマイナスになると見込まれる中、追加的な悪材料が重なれば、家計や企業のコンフィデンスが一段と損なわれる惧れがあり、物価上昇のモメンタムが再び強まっていく時期にも影響し得ると指摘した。ある委員は、需給ギャップや予想物価上昇率が下押し圧力として作用しているもとで、予測可能な将来に、消費者物価の前年比が勢いをもって2%に近接していく姿を見通すことは、引き続き困難であると述べた。

経済・物価見通しのリスク要因として、委員は、新型コロナウイルス感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさといった点について、引き続き、きわめて不確実性が大きいとの認識で一致した。更に、委員は、感染症の影響が収束するまで、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要であるとの認識を共有した。何人かの委員は、感染症の影響を中心に、下振れリスクについて、慎重にみていくべきとの考えを示した。このうち一人の委員は、感染症の影響を受けて、家計や企業のマインドや行動様式、企業の価格設定行動や予想物価上昇率の形成がどのように変化していくかといった、セカンド・ラウンド・エフェクトについて、慎重に点検していく必要があると述べた。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、全体として緩和した状態にあるが、売り上げの減少などを背景に企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっているとの認識で一致した。もっとも、委員は、日本銀行・政府の措置と民間金融機関による積極的な取り組みにより、銀行借入やCP・社債発行といった外部資金の調達環境は、緩和的な状態が維持されているとの見方を共有した。ある委員は、こうしたもとで、現時点では、倒産や廃業の増加は抑制されており、金融システムは引き続き全体として安定性を維持しているとの認識を示した。そのうえで、この委員は、感染症の影響が続くと、年末・年度末にかけて資金繰りから支払い能力へと問題が移行していく中で、経済・物価に下押し圧力がかかる可能性には注意が必要であると述べた。この間、別のある委員は、金融仲介機能は適切に発揮され、かつてない規模で貸出の増加が続いているものの、銀行の株価純資産倍率の低迷などにみられている市場の評価は、金融システムの安定に対する懸念を映じている可能性があると指摘した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

当面の金融政策の基本的な運営スタンスについて、大方の委員は、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFなどの積極的な買入れ、の「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しており、引き続き、この「3つの柱」により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが適当であるとの認識を共有した。ある委員は、その理由として、企業金融面へのストレスはかかり続けるとみられるほか、金融市場も感染症の帰趨により再び大きく不安定化し得ることを強調した。一人の委員は、当面の金融政策の優先課題は、企業の資金繰り支援と雇用の維持に努めることであると述べた。ある委員は、失業や倒産の急速な増加は回避されており、企業の資金繰り対応も進んでいるとみられるため、当面は政策効果を見極めていくことが適切であると指摘した。一人の委員は、当面は、現在の金融政策の方針を維持し、その効果と副作用を慎重に点検すべきとの認識を示した。また、ある委員は、「3つの柱」により金融緩和を続けることは、経済の下支えを通じて「物価安定の目標」を実現することに繋がると述べた。この間、別のある委員は、「3つの柱」による対応は効果を発揮しており、成長分野への投資など企業の前向きな動きに繋がるよう継続的に後押ししていくことが重要としつつも、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいと述べた。

そのうえで、委員は、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとの認識で一致した。ある委員は、仮に今後の回復が遅れる場合には、企業の信用コストの上昇と金融仲介機能の低下を招き、これが倒産の増加や雇用情勢の悪化に繋がる可能性があるため、必要と判断される場合には、躊躇なく政策対応を行うことが重要であるとの考えを強調した。

委員は、金融政策運営に関連する各種の留意点についても議論を行った。何人かの委員は、政府とは、引き続き、それぞれの役割を踏まえてしっかりと連携していくことが必要であるとの認識を示した。このうち一人の委員は、迅速な政策対応を行ううえでは、政府と中央銀行、および主要中央銀行間の緊密な情報交換などの協力・連携体制を堅持しておくことが重要であるとの見解を述べた。また、別のある委員は、政府との連携・協調は、特に、経済危機の際に効果的であるとしたうえで、大規模金融緩和は、生産年齢人口が減少する中でも雇用者数や所得を増加させ、新卒者の就職難をもたらさずに、貧困数も減らすなど雇用・所得面の効果があったこと、また、世界標準である2%の「物価安定の目標」を掲げて主要中央銀行と政策スタンスを揃えたこと、といったこれまでの成果と教訓を踏まえ、ウィズ・コロナ時代の金融政策のあり方について検討を深めるべきであると述べた。

委員は、成長戦略や構造改革の重要性についても議論した。ある委員は、中長期的には、わが国が構造改革や成長戦略に取り組んでいく中で、金融機関の目利き力や市場メカニズム等を通じて企業の成長を促し、潜在成長率を高めていくという視点が重要であると指摘した。また、別の委員は、「物価安定の目標」の実現には、中小企業を中心に、費用削減にとどまらない生産性向上のための改革が不可欠であり、政府や民間の取り組みをしっかりと分析・評価し、必要に応じて金融政策面から、民間の改革を支援していくべきであるとの考えを示した。もう一人の委員は、今後、感染症の抑制と経済活動を両立させていくというウィズ・コロナの視点から、デジタル化や非正規雇用の脆弱性の是正といった構造問題に、金融政策としてどのように貢献しうるか、議論していく必要性が生じると述べた。

その他の留意点として、ある委員は、2%の「物価安定の目標」を堅持することが必要であるが、金融緩和の長期化が見込まれる中、副作用への対応も含め、政策の持続性を確保していくことが重要であるとの認識を示した。この間、一人の委員は、経済情勢が大きく変化する中で「物価安定の目標」達成への筋道が見えなくなっている状況を踏まえ、目標達成に向けた戦略について改めて総合的に検討することが必要ではないかと述べた。

委員は、FRBの新たな金融政策の戦略等との関連についてもコメントした。複数の委員は、日本銀行では、オーバーシュート型コミットメントを採用し、従来から、インフレ率が景気の変動などを均してみて平均的に2%となることを目指しており、今回、FRBがインフレ目標について、時間を通じて平均して2%を目指すこととしたのは、日本銀行のこれまでの政策運営の考え方と軌を一にしたものであるとの認識を示した。また、何人かの委員は、日本銀行の政策金利のフォワードガイダンスについて、緩和方向を意識しながら金融緩和を継続していくという政策運営スタンスを明確化したものである旨を強調した。委員は、これらの点を、対外的に明確に説明していくべきとの意見を共有した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。」

これに対し、ある委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。なお、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2021年3月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

また、3月以降、日本銀行が新型コロナウイルス感染症の影響への対応として、導入・拡充してきた措置について、委員は、引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくとの認識で一致した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、デフレの定着を容認せず、かつ具体的な条件下で行動することを約束する観点から、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

IV.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 政府は、新型コロナウイルス感染症への対応として、2度にわたる補正予算を策定し、過去最大となる事業規模約230兆円を超える措置を講ずるとともに、医療提供体制の確保などに向けて予備費使用を決定するなど、感染拡大防止と社会経済活動の両立に取り組んできた。引き続き、感染拡大の防止に努めるとともに、雇用の維持、事業の継続、生活の下支えに万全を期していく。
  • また、7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」(「骨太方針2020」)などに沿って、ポストコロナ時代を見据え、新たな日常の構築による質の高い経済社会の実現を目指していく。
  • 新内閣の組閣に際し、菅総理より、麻生財務大臣に対し、「日本銀行と緊密に連携し、新型コロナウイルス感染症の経済、資本市場への影響について、企業金融の円滑化と金融市場の安定に努め、事態を収束させるためにあらゆる手段を講ずるとともに、感染収束後に経済を再び確かな成長軌道へと回復させていくために、政府・日本銀行一体となって取り組む」との指示があった。日本銀行におかれても、これまでと同様に、感染症への対応をはじめ、必要とされる措置を適切に講じられることを期待している。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 4から6月期のGDP2次速報は、実質成長率が年率換算で-28.1%と、比較可能な1980年以降で最大の落ち込みとなった。わが国では、4から5月に緊急事態宣言のもとで、経済をいわば人為的に止めていた影響によって、個人消費をはじめ、内需が大きく下押しされるなど、大変厳しい結果となった。一方で、月次の動きをみると、個人消費は感染者数の増加や豪雨災害の影響等で一部に足踏み感もみられるが、6月以降、持ち直しが続いている。
  • 昨日、菅総理のもとで新内閣が発足したところである。政府としては、経済を内需主導で成長軌道に戻していくことができるよう、引き続き、緊急経済対策や補正予算の迅速な執行を通じて、事業・雇用・生活を守り抜くとともに、感染拡大防止と社会経済活動の両立をしっかりと図っていく。また、「骨太方針2020」に基づき、新たな日常を通じ、誰もが成長を実感できる質の高い経済社会を早期に実現することを目指し、デジタル・ニューディールをはじめ、必要施策について政策目標とスケジュール等を明らかにする実行計画を年末までに策定し、来年度予算、税制、規制改革など制度改正を含めて、強力かつ総合的に実行していきたいと考えている。政府は、感染状況や内外の経済動向を見極めながら、必要に応じて臨機応変に、かつ時機を逸することなく対応することとしている。
  • 日本銀行におかれても、事態の推移を注視して、引き続き、適切な金融政策運営を行って頂きたい。日本経済を新型コロナウイルス感染症の影響から早期に回復させるべく、これまで同様、政府との間で危機感を共有しつつ、緊密な連携を行っていただきたい。

V.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員、中村委員
反対:
片岡委員

片岡委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。なお、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2021年3月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行う。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員
反対:
なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、新型感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

VI.議事要旨の承認

議事要旨(2020年7月14、15日開催分)が全員一致で承認され、9月24日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。」 本文に戻る

別紙

2020年9月17日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする1
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1] ETFおよびJ-REITについて、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う2
      2. [2] CP等、社債等については、それぞれ約2兆円、約3兆円の残高を維持する。これに加え、2021年3月末までの間、それぞれ7.5兆円の残高を上限に、追加の買入れを行う。
  2. わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しつつある。海外経済は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しつつある。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は持ち直しに転じている。一方、企業収益や業況感は悪化しており、設備投資は減少傾向にある。雇用・所得環境をみると、感染症の影響が続くなかで、弱い動きがみられている。個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費は依然として低水準となっているが、全体として徐々に持ち直している。住宅投資は緩やかに減少している。この間、公共投資は緩やかな増加を続けている。わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にあるが、企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっている。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、既往の原油価格下落の影響などにより、0%程度となっている。予想物価上昇率は、弱含んでいる。
  3. 先行きのわが国経済は、経済活動が再開していくもとで、ペントアップ需要(抑制されていた需要)の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、改善基調を辿るとみられる。もっとも、世界的に新型コロナウイルス感染症の影響が残るなかで、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられる。その後、世界的に感染症の影響が収束すれば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済はさらに改善を続けると予想される。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落などの影響を受けて、マイナスで推移するとみられる。その後、経済の改善に伴い物価への下押し圧力は次第に減衰していくことや、原油価格下落の影響が剥落していくことから、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、プラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
  4. リスク要因としては、新型コロナウイルス感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさといった点について、きわめて不確実性が大きい。さらに、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要である。
  5. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。
    引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。
    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員、中村委員。反対:片岡委員。片岡委員は、今後の物価下押し圧力の強まりへの対応と、企業・家計の金利負担軽減を企図して、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、新型感染症の深刻な影響を念頭におくと、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る

  1. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る
  2. ETFおよびJ-REITの原則的な買入れ方針としては、引き続き、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行い、その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。 本文に戻る