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金融政策決定会合における主な意見
(2018年10月30、31日開催分)1

2018年11月8日
日本銀行

I.金融経済情勢に関する意見

経済情勢

  • わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。先行きも、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、景気の拡大が続くとみられる。
  • 外需について、世界経済の成長率をみると、IMFの見通しが若干下振れたものの、当面3%台後半の高めの成長率が続く姿は変わらない。内需も増勢が続いており、9月短観では、企業の設備投資スタンスの強さが改めて確認された。
  • 自然災害のわが国経済に対する影響については、過去の貴重な教訓を活かした官民挙げての取り組みも奏功し、一時的なものにとどまるとみられる。
  • わが国の景気は、緩やかに拡大している。先行き2018年度は、潜在成長率を上回る成長を続けると見込まれる。2019年度以降は、消費税率引き上げの影響等で成長ペースは鈍化すると考えられる。また、海外経済の下振れリスクには注意が必要である。
  • わが国経済は緩やかな拡大を続けているが、自然災害や米中の貿易問題などの影響から、足もと景気拡大に向けたモメンタムはやや弱まっている。海外経済を巡る不透明感は強まっており、十分に注視する必要がある。
  • 貿易摩擦や米国の金利上昇を背景に、世界経済は踊り場の状態になりつつある。保護主義的な動きや英国のEU離脱交渉などを巡る不確実性は、前回会合以降高まっている。
  • 最近の株価下落が米中通商摩擦による損失を予測しているという議論もあるが、その影響はまだ明らかではない。ただ、日本の株価を業種別に見ると、外需型企業の下落が大きく、内需型企業の下落が小さいことから、株価下落が通商摩擦の影響をある程度反映していることは間違いないようである。
  • グローバルに株価が大きく変動しているが、内外ともに、経済のファンダメンタルズは良好である。
  • 米中貿易摩擦のわが国経済に対する影響を評価するに当たっては、極端な悲観論に傾斜しないように留意すべきである。
  • 米国では、財務制限条項を緩めたコベナンツライト・ローンの増加やサブプライム自動車ローンの延滞率の上昇等がみられており、今後の動向を注視している。

物価

  • 消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
  • 物価の前年比は、4~6月を底に徐々に持ち直しており、短観の販売価格DIがプラス圏で定着するなど、物価上昇の基本的なメカニズムはしっかり作動している。
  • 消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、緩やかにプラス幅の拡大を続けていくとみられる。しかし、その動きは弱く、かつ不安定であるため、2%に達するには暫く時間がかかると見込まれる。
  • 需給ギャップが拡大するもとで現実の物価が上昇し、「適合的期待」を通じて予想物価上昇率も上がることがメインシナリオであるが、その前提となる海外経済で下振れリスクが高まっている。
  • プラスの需給ギャップのもとで物価上昇が遅れているが、これは供給面における生産性向上が物価上昇を抑制するなど、物価変動メカニズムが複雑化しており、先行きの不確実性も高まっていることが影響している。

II.金融政策運営に関する意見

  • 「物価安定の目標」の実現には時間がかかるものの、2%に向けたモメンタムは維持されていることから、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが必要である。
  • 息長く経済の好循環を支えて、「物価安定の目標」の実現に資するべく、現在の金融政策方針を継続すべきである。
  • 景気拡大や労働需給の引き締まりに比べると、基調としての物価は引き続き弱めの動きとなっているため、きわめて緩和的な金融環境を息長く続けていく必要がある。
  • 金融システム面の副作用について慎重に点検しつつ、需給ギャップのプラスを維持する現行の金融緩和政策を続けることで、物価上昇を粘り強く待つことが肝要である。
  • 7月の政策対応以降、経済・物価情勢に応じて国債金利が多少変動するようになっている。これは、強力な金融緩和効果がしっかりと確保されている範囲内の動きと評価できる。
  • 2%に向けて物価に加速感が見られない現状は重く受け止めるべきである。こうした現状では、市場の一部で言われているような更なる長期金利変動レンジの柔軟化は、2%の実現に対するコミットメントを揺るがしかねない。
  • 長期金利を長期にわたり「ゼロ%程度」に誘導した場合に、インフレ期待への影響がかえって低減しないかどうか注意が必要である。枠組みとしては緩和方向を維持しつつ、金利変動幅や金利操作目標年限等について、柔軟に検討していくことが重要である。
  • 金融業の規模に対して、十分な借入需要がないという構造問題を、金融政策で解決することはできない。金融政策にできることは、十分な金融緩和を早期に行うことでデフレを防ぎ、名目GDPを拡大し、金融業を含むすべての産業の名目の生産額を増大させることで、経済の調整コストを引き下げることである。
  • 地域金融機関では、貸出金利が低下傾向にある中で相対的にリスクの高いミドルリスク企業向け貸出等を増やしており、仮に景気後退局面となり信用コストが顕在化した場合には、加速度的に収益悪化が進む恐れがある。こうした点に十分留意が必要である。
  • 金融システムに関するリスクの点検に当たっては、モデルで必ずしも描写しきれない構造変化など、様々な要因についても目配りする必要がある。
  • 金融仲介機能の低下といった問題に対応するための政策ツールとして、金利変更など金融政策に焦点を当てた見方も見受けられるが、プルーデンス政策の重要性を見落としてはならない。
  • 消費税増税等を巡る経済の不確実性が高い中、需給ギャップが一本調子で拡大する可能性は低い。需給ギャップから物価への波及度合いも弱まっている可能性がある。こうした中、適合的期待形成を通じて物価が上昇する経路が本格的に機能し始めるには、想定以上の時間を要するとみられる。したがって「物価安定の目標」の早期達成に向けて予想インフレ率に直接的に働きかけることが、より重要である。金融緩和の強化とともに、政府との政策連携も、もう一段強化することが必要ではないか。
  • 金融政策では財政の持続可能性や潜在成長率の低下という日本経済の課題を解決することはできないとの考え方もあるが、現実には、「量的・質的金融緩和」の導入以降、雇用や財政は改善し、潜在成長率も安定している。

III.政府の意見

財務省

  • 今般、一連の災害の被災地の復旧・復興等に対応するために、平成30年度補正予算案を臨時国会に提出した。
  • 消費税率について、少子化対策や社会保障に対する安定財源を確保する等の観点から、来年10月に8%から10%へ引き上げる予定であり、消費税率引上げが経済に影響を及ぼさないよう万全を期す。
  • 日本銀行が、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

内閣府

  • 全世代型社会保障への改革や第4次産業革命の実現について、年内に中間報告を取りまとめ、3年間の「工程表」を含む実行計画を来年夏までに決定する。
  • 来年の消費税率引上げについて、前回の引上げの経験を活かし、あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう、全力で対応する。
  • 日本銀行においては、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の実現に向けて、金融緩和を着実に推進していくことを期待する。

以上


  1. 「金融政策決定会合における主な意見」は、(1)各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、(2)議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。 本文に戻る