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金融市場レポート

2005年後半の動き

2006年 1月27日
日本銀行金融市場局

以下には、要旨を掲載しています。全文は以下のとおりPDFファイルで入手できます。

表 金融市場レポート
内容 ファイル
要旨 [PDF 335KB]
I.2005年後半の金融市場動向
  1. 短期金融市場
  2. 国債市場
  3. 株式市場
[PDF 748KB]
  1. クレジット市場
  2. 外国為替市場
[PDF 724KB]
II.市場機能面の課題と日本銀行の取組み [PDF 500KB]
BOX [PDF 644KB]

要旨

1. 2005年後半の金融市場動向

2005年後半のわが国金融市場は、(1)株価がこのところのレンジを抜け、海外との比較でも力強く上昇するなかで、(2)長期金利の上昇は緩やかなものであり、(3)円相場は主要通貨に対して下落傾向を続けた。景気の回復が明確になる下で、各経済主体の自信が深まったことが、株価の上昇やその他資産への投資姿勢の積極化に繋がったと考えられる。

市場毎にみると、金利は、消費者物価指数前年比が小幅のマイナスからゼロとなるなかで、量的緩和の解除時期やその後の金利上昇ペースを巡る思惑の強まりから、短期から中期の金利が上昇した。一方、長期金利の上昇は小幅であり、04年ピークをなお下回っている。

株式市場をみると、景気回復と企業収益の堅調さが確認される下で、日経平均株価は2000年10月以来となる1万6千円台に達した。新興株式市場の株価も既往最高値圏の水準にあり、売買高・売買代金も80年代のバブル期を超え既往最高水準を記録した。わが国株式に対する海外投資家の旺盛な需要が続いたほか、個人投資家のインターネット取引や信用取引の拡大など投資家の裾野が広がった。企業の自社株買いやM&Aも拡大した。

クレジット・スプレッドは、企業業績の改善と低金利環境が続く下で、投資家の社債等クレジット資産への需要、利回り追求の動きに大きな変化は窺われず、総じて低位安定傾向を続けた。このように調達環境が引き続き良好ななかで、特殊要因調整後の銀行貸出が今期から増加に転じ、CP・社債発行も増加するなど企業の調達行動は積極化する兆しが窺われた。調達企業の多様化や、証券化やシンジケート・ローンなど新たな信用仲介経路(クレジット・チャネル)の拡大も着実に進んでいる。

円は主要通貨やアジア通貨に対して全面安の展開となった。円の対ドルレートは12月上旬にかけ03年 3月以来の121円台まで下落した。その後、年末にかけて、円高に転じたが、年前半に比べればなおかなりの円安水準にある。

こうした市場の動きの背景として、次の3点が注目される。第1に、長期金利の上昇が小幅であった背景として、先行きのインフレに対する内外市場の見方が落ち着いていたことである。第2に、株価上昇など、資産価格形成の背景として、低金利環境下での内外投資家の利回り追求行動が続いたことである。第3に、円安の背景として、欧米などで利上げが続く下で、内外の短期金利差が拡大し、個人を含むわが国投資家の海外への投資が拡大したことである。

この間のわが国金融市場の動きをグローバルな市場動向や国際的な資本フローとの関連で整理すると、欧米などにおいても株価が上昇傾向を辿った一方で、長期金利は比較的落ち着いて推移した。こうした下で、投資家の利回り追求の動きは、グローバルにみられ、株式やクレジット市場のほか、ヘッジファンド投資やコモディティ投資なども活発に行われている。こうした流れのなかで、海外投資家が日本株保有比率を高める傾向が続き、わが国株価の力強い上昇の一因となった。日本国債については、海外保有比率は依然限定的であるが、債券先物市場などでの海外投資家のプレゼンスは着実に高まっており、日米の長期金利の連動性も上昇した。わが国の投資家による海外投資は、機関投資家や金融機関の外債投資に加え、個人投資家による海外投資型投資信託や売出外債の購入、外為証拠金取引の拡大など、様々な主体・形態で続いた。こうした動きが、原油高に伴う貿易黒字の縮小等と相まって、需給面から円安傾向に繋がったものと考えられる。

2. 市場機能面での課題と日本銀行の取組み

日本銀行は、市場の機能や効率性の向上に貢献する観点から、短期金融市場や国債市場をはじめ、様々な市場で調査活動やインフラ整備のための取組みを行っている。06年度にかけての主要な課題は、次の3点である。

(1)短期金融市場

量的緩和の下で、短期金融市場での取引は大きく縮小した。今後の情勢次第では、市場参加者行動が変化していくなかで、短期金融市場にもより効率的な仲介機能が求められるようになる。この間、金融機関の統合進展、バランスシート、構造の変化等が進み、市場の取り手・出し手の顔ぶれが変化しているほか、RTGS(即時グロス決済)化により日中の資金変動も大きくなるなど、短期金融市場を取り巻く環境も構造的に変化しており、機能回復に向けた課題も少なくない。日本銀行としては、資金繰りや金利リスクの運営・管理などの観点からの市場参加者の行動変化や、それが短期金融市場に及ぼす影響、市場機能の向上に向けての課題といった点について、市場参加者との意見交換を深めていく方針である。

(2)クレジット市場

日本銀行は、02~03年にかけて、わが国金融機関の信用仲介機能が万全とは言えない状況にあったなかで、揺籃期にあった資産担保証券市場の発展を支援していく観点から、資産担保証券の買入れなどの時限措置を導入した。その後、資産担保証券市場は着実に成長してきており、市場の発展の初期段階を支援するという本措置の目的は達成したと考えられるほか、本措置導入当時と比較すると、企業金融を巡る環境も大幅に改善してきている。こうした現状を踏まえ、時限措置を予定通り06年 3月で終了することを公表した。日本銀行は、資産担保証券、シンジケート・ローン、クレジット・デリバティブなどの新しいクレジット・チャネルが発展していくことは、わが国の信用仲介システム全般の効率性、安定性向上にとって重要な課題と考えている。今後とも、市場関係者との意見交換を通じて、クレジット市場の動向を注視し、新たな対応の方向性を探るとともに、流通市場の整備、ディスクロージャーや市場データの充実などの課題に取り組み、日本銀行の諸取引においても担保利便性を高めることなどを通じクレジット市場関連商品を使いやすくしていく方針である。

(3)災害時における市場機能の継続(市場レベルBCP)

01年 9月の米国同時多発テロなどをきっかけに、内外の市場関係者の間で、災害時の業務継続体制(BCP:Business Continuity Plan)の充実は、市場が備えるべき不可欠の要素であるとの認識が強く共有されるようになっている。災害時に必要最低限の市場機能を維持することは、市場参加者の利益に適うだけでなく、金融市場や経済全体の安定にも資するものである。災害時において、市場取引を成立させるには、関係者間の人的繋がりや代替的通信手段の確保など、市場におけるネットワークを維持する必要がある。日本銀行は、市場レベルBCPの重要性についての認識の共有を進めるとともに、各市場における議論に参画し、関係者の取組みを後押ししてきた。今後も、必要な対応事項の整理、市場間の連繋強化、ウェブサイトの構築・運営など具体策の推進支援などを行っていく方針である。