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金融システムレポート(2009年3月号)

2009年3月
日本銀行

金融システムの現状と評価:概観

金融システムの現状評価

1.わが国の金融システムは、全体として安定した状態を維持してきたが、国際金融資本市場における緊張の持続や内外経済環境の悪化が、有価証券関係損失の拡大や信用コストの高まり等を通じて、金融仲介機能・金融システムの頑健性の両面に影響を及ぼしてきている状況にある。
 すなわち、わが国金融システムの動向をみると、昨年秋以降、CP・社債市場の機能が低下するなど、企業を取り巻く資金調達環境は厳しい状態となった。こうしたなか、わが国の金融機関は、資本市場調達が困難となった企業の資金調達をサポートするなど、企業金融が全体として逼迫するもとでも、金融仲介機能を相応に維持してきた。また、わが国の金融機関は、財務基盤を強化してきたことに加え、海外証券化商品への投資が比較的限定されていたこともあって、国際金融システムが大きな動揺を示しているにも拘わらず、これまでのところ、一定の頑健性を示している。しかし、先行きを展望すると、わが国の金融機関を取り巻く収益環境は厳しさを増しており、今後とも、銀行部門が十分な頑健性を備え、金融仲介機能を適切に発揮していくか注意深く点検していく必要がある。

2.わが国銀行の収益をみると、内外経済環境の悪化を受けて、大手行、地域銀行とも減益傾向が鮮明になった。2008年度上期の当期純利益をみると、大手行では上期として2年連続の減益となったほか、地域銀行でも特殊要因を除くと上期として3年連続の減益となった。また、2008年10〜12月期決算でも減益傾向が一段と鮮明化した。この背景としては、景気悪化に伴う信用コストの増加に加え、有価証券関係損失の拡大や非資金利益の減少が重なったことが挙げられる。このほか、2008年度上期末の自己資本比率は、全体として横ばい圏内で推移した。

金融仲介機能の動向

3.わが国企業部門の資金調達環境をみると、CP・社債市場では、発行残高の落ち込みやスプレッドの拡大がみられるなど、資本市場を経由した企業の資金調達環境は厳しい状態が続いている。また、企業部門では、急激な売上げ・収益の落ち込み等を背景に、短期の負債や借入金利息の支払能力を示す財務指標が急速に悪化している。

4.わが国金融機関の貸出動向をみると、資本市場の機能低下等を背景とした大企業からの資金需要が増加していることなどから、大企業向け貸出は、このところ高い伸びを示している。また、中堅・中小企業の資金繰り状況をみると、業況悪化に伴う信用コスト増大懸念を背景とする銀行の貸出姿勢の慎重化に加え、企業間信用の収縮もあって、厳しい状況が続いてきている。こうした状況を受けて拡充された信用保証協会の緊急保証制度等に関し、金融機関サイドでは、これに積極的に取り組む姿勢を示している。
 このように、わが国の金融機関は、資本市場調達が困難となった企業の資金調達をサポートするなど、企業金融が全体として逼迫するもとでも、金融仲介機能を相応に維持してきたといえるが、今後については、景気悪化のもとでの企業の資金需要の変化に対して、適切に対応していけるかどうか、注意深くみていく必要がある。

金融システムの頑健性

5.銀行部門が抱えるリスク量をみると、これまで減少傾向にあった信用リスクが大手行、地域銀行ともに増加に転じたほか、大手行では株式リスク、地域銀行では金利リスクが引き続き増加した。わが国銀行の株式保有残高は、このところほぼ横ばいで推移してきたが、株価の大幅な下落に伴い、多額の株式償却損や評価差損が計上されている。足許では、株価が不安定な動きを続けていることを踏まえると、わが国の銀行にとって、株式リスクへの対応が引き続き重要な経営課題となっている。

6.先行きについて複数の厳しいマクロ経済環境を想定し、わが国銀行部門の損失見込み額を試算したところ、一時的にコア業務純益を大幅に上回る可能性があるものの、中核的自己資本(TierI)比率を著しく低下させるほどの規模にはならないとの結果が得られた。このことから、わが国金融システムの頑健性は、全体として維持されていると評価できる。もっとも、景気悪化と株価低迷が共に顕在化する場合には、銀行部門——特に、経営体力が相対的に弱い銀行群——のTierI比率が1990年代末期から2000年代初頭並みかそれ以下の水準に止まる惧れがある。そうした状況を踏まえ、わが国の銀行が先行きの自己資本制約を強く意識するようになる場合には、マクロ的にみた金融仲介機能が円滑に発揮されなくなる可能性も考えられる。

7.わが国では、景気が大幅に悪化し、厳しい金融環境が続くなかで、金融機関が十分な自己資本基盤を持ち、金融仲介機能を適切に発揮していくことの重要性が一段と高まっている。この点、わが国では、金融機関の資本増強や与信管理を含め、経営体力の強化に向けた様々な取り組みがみられる。また、長い目でみると、自己資本の源泉としての安定的な収益力の確保が、金融システムの安定性の観点からも重要な課題である。

わが国金融システムの安定化に向けた取り組み

8.わが国では、国際金融資本市場における混乱への対応として、金融システム面での様々な施策が講じられている。すなわち、金融機関の資本増強という面では、金融機能強化法が改正され、金融仲介機能を強化する狙いから公的資金活用の枠組みが整えられた。また、自己資本比率規制の一部弾力化や、企業の資金繰り支援を狙った緊急保証制度の拡充、時価の算定方法や債券の保有目的区分変更に関する会計基準の見直しなども行われた。

9.日本銀行では、金融面からわが国経済を支えるため、昨年秋以降、政策金利の引き下げに加え、金融市場安定化のための措置、企業金融を支援する措置を実施してきた。すなわち、政策金利については、誘導目標である翌日物の無担保コールレートを2008年10月と12月に各0.2%ずつ引き下げ、0.1%とした。金融市場の安定化を巡っては、米ドル資金の供給オペレーションを開始したほか、金融緩和の効果をより浸透させる狙いから、資金供給面で様々な拡充策を講じた。また、企業金融を巡る環境が一段と厳しさを増している状況を踏まえ、企業金融支援特別オペを導入・拡充したほか、CP等の企業金融に係る金融商品の買入れや民間企業債務の適格担保範囲を拡大した。さらに、金融機関による今後の株式保有リスク削減努力を支援し、これを通じて金融システムの安定確保を図る観点から、金融機関からの株式の買入れを再開した。
 日本銀行では、わが国の金融システムが安定性を確保するとともに、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復することができるよう、今後とも、中央銀行としてなし得る最大限の貢献を行っていく方針である。

本件に関する照会先

日本銀行金融機構局経営分析担

E-mail: post.bsd1@boj.or.jp

日本銀行から

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特に断りがない限り、本レポートは2009年2月27日時点までの情報に基づき作成されています。