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金融システムレポート(2015年4月号)

2015年4月22日
日本銀行

要旨:金融システムの総合評価

わが国の金融システムは、安定性を維持している。金融仲介活動は、より円滑に行われるようになっている。

金融システムの機能度

金融機関は、引き続き、国内外で貸出を積極化している。国内では、リスクを取る方向での業務運営を指向し、成長事業の育成・事業再生への取り組みを強めている。こうしたもとで、金融機関の国内貸出は、企業向けを中心に緩やかな増加を続けており、企業規模、業種、地域のいずれの面でも徐々に広がりが出てきている。海外においても、本邦企業のグローバル展開を支え、成長力の高いアジアなど海外諸国の金融ニーズを取り込んでいく観点から融資に積極的に取り組んでおり、海外貸出は高い伸びを続けている。有価証券投資では、高水準の円債残高を維持しつつ、外債、投資信託など運用の多様化を図り、リスク・テイクを徐々に強めていく姿勢を継続している。この間、国内長期債投資を中心としてきた主要機関投資家でも、リスク性資産への投資ウエイトを高める動きがみられている。金融資本市場を通じる金融仲介は、エクイティ・ファイナンスが引き続き高水準で推移するなど、良好な発行環境が維持されている。こうしたもとで、企業・家計の資金調達環境は、より緩和的になっている。一方、家計の金融資産運用は、預金中心の構図に大きな変化はないが、このところ投資信託等への純流入が続くなど、リスク性資産の比重が徐々に高まっている。

金融システムの安定性

以上のような金融仲介活動において、過熱を示す動きや過度な期待の強気化といった金融面の不均衡はみられていない。

金融機関は、全体としてみると、充実した財務基盤を有している。自己資本比率は規制水準を十分に上回っている。金融機関の負っているリスクは、前回レポート時に比べて信用リスク量の減少等からやや減少し、自己資本は利益の蓄積等から充実が進んだ。こうしたもとで、金融機関のマクロ的なリスクと財務基盤の適切なバランスは確保されており、金融システムは相応に強いストレス耐性を有している。ただし、経済・金融のショックの背景、程度、速さなどによっては、金融システムの安定性に影響が及ぶ可能性がある点には留意が必要である。また、資金流動性についてみると、金融機関は、円資金について十分な資金流動性を有している。外貨資金は市場性調達の比重が高い調達構造となっているが、一定期間調達が困難化しても資金不足をカバーできる流動性を確保している。

この間、資源価格が大幅に下落し、国際金融資本市場では幅広くボラティリティが高まった。ボラティリティの上昇は、ある程度本邦市場にも及んでいる。

将来にわたる金融安定の確保に向けて

わが国の金融システムは安定性を維持しているが、将来にわたってこれを維持していくには、引き続き、マクロ的な視点からみて、金融機関のリスクと財務基盤の適切なバランスを確保していくとともに、先々の脆弱性に繋がっていく可能性があるリスクの構造的な変化に対しても、着実に対応していく必要がある。

マクロ的なリスクの蓄積の観点から注目しておくべき点としては、(1)金融機関の国際業務、海外エクスポージャーの拡大、(2)金融機関の資産負債管理における市場運用の重要性、マーケット・エクスポージャーの高まりが挙げられる。リスクの構造的な変化の観点から注目しておくべき点としては、(3)大手金融機関のシステミックな重要性の高まり、(4)国内預貸業務(とくに地域金融)における収益性の低下が挙げられる。また、(5)家計の資産選択行動の変化や、(6)国際金融規制の実施に伴う金融システムへの影響を注視していく必要がある。

以上の点を踏まえて、個々の金融機関が対応していくべき経営面の課題としては、(1)リスク・テイクを積極的に進める分野、とくに海外業務と市場運用におけるリスク対応力の強化、(2)大手金融機関におけるシステミックな重要性への対応、(3)地域金融機関における基礎的収益力低下への対応が挙げられる。

日本銀行は、引き続き、金融システムにおけるマクロ的なリスクの蓄積状況や構造変化に関する実態把握と分析、ストレス耐性の検証等を行っていく。そのうえで、リスクの所在や課題を提示しつつ、幅広い関係者との間で認識の共有や協議を行っていくとともに、所要の対応を講じていく。金融機関との間では、量的・質的金融緩和による緩和的環境を活用した前向きな金融仲介活動を幅広くフォローしていくとともに、上述の諸課題に対応していく観点から、(1)国際業務、(2)ALM・市場運用、(3)大手金融機関のシステミックなリスク特性と経営管理、(4)地域金融機関の収益力、(5)産業力強化・企業活力向上に向けた取り組み、(6)金融機関・証券会社等のマーケット業務と金融商品販売業務の動向、に関する実態把握を強化し、意見交換を行っていく。

日本銀行から

本レポートは、原則として2015年3月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。
本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

金融機構局金融システム調査課

E-mail : post.bsd1@boj.or.jp