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金融システムレポート(2016年10月号)

2016年10月24日
日本銀行

目次

要旨:金融システムの総合評価

金融資本市場の動向

国際金融資本市場では、EU離脱を支持する6月下旬の英国国民投票の結果を受け、投資家のリスク回避姿勢が一時的に強まったが、その後は徐々に落ち着きを取り戻していった。先進国の低水準の長期金利を背景に、利回り追求の動きが再び活発化する兆しもみられており、グローバルな資金フローが急速に変化しないか注視する必要がある。この間、わが国でも株価下落や円高進行など海外の影響を受ける局面もみられたが、9月に日本銀行が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入したもとで、きわめて緩和的な金融環境が維持されている。

金融仲介活動の点検

金融機関の国内貸出は、積極的な融資姿勢のもと、幅広い業種での資金需要を受けて、前年比2%程度のプラスで推移している。海外貸出についても、北米など先進国向けを中心に高めの伸びを続けている。有価証券投資では、円債残高がなお高水準にあるなか、外債や投資信託などを一層積み増している。保険会社・年金などの機関投資家、ゆうちょ銀行・系統上部金融機関など市場運用を中心とする預金取扱機関は、外債等のリスク資産を積み増す傾向が一段と強まっている。この間、家計の資産運用は、昨夏以降、株安・円高の影響もあって、資産ポートフォリオ多様化の動きが弱まっている。金融資本市場を通じる金融仲介については、エクイティ・ファイナンスは不安定な株式相場を背景に弱めの動きとなっているが、社債市場では良好な発行環境を背景に超長期債発行の動きが拡がっている。こうしたもとで、企業や家計の資金調達環境はきわめて緩和した状態にある。

以上の金融仲介活動において、行き過ぎたリスクテイクや信用量の増加といった過熱感は、総じて窺われない。もっとも、低金利環境が続くもとで、銀行の貸出姿勢はバブル期以来の積極性を示している。貸出姿勢の積極化は、金融緩和の効果の重要な波及経路であるが、一方で、金融機関同士の競争が過度に進んだ場合には、貸出採算の悪化等を通じて金融機関の収益基盤を脆弱にするとともに、金融システムを不安定化させるリスクもあるため、注視していく必要がある。また、不動産市場は、現時点では、全体として過熱の状況にはないと考えられるが、大都市圏では一部に投資利回りが低水準となる高値取引がみられているほか、不動産業向け貸出も伸び率を高めている。今後、投資家の期待利回りの過度な低下や高値取引の地方圏への拡がりが生じていくことがないか、注意深く点検していく必要がある。

金融システムの安定性

わが国の金融システムは、安定性を維持している。すなわち、金融機関の自己資本比率は規制水準を十分に上回っており、マクロ的なリスク量との対比でも総じて充実した水準にある。マクロ・ストレステストの結果も、金融システムが相応に強いストレス耐性を備えていることを示している。また、流動性の面では、金融機関は十分な円資金を有している。外貨資金についても、一定期間調達が困難化しても、資金不足をカバーできる流動性を確保しているほか、外貨資産の売却を余儀なくされるストレス・シナリオのもとでも、金融機関の健全性は維持されることが確認できる。ただし、市場性調達の比重はなお高く、金融機関は引き続き外貨資金の安定調達基盤の拡充に取り組んでいく必要がある。

金融機関の収益性低下に伴う潜在的な金融脆弱性

現状では、金融機関は充実した資本基盤を備えており、当面収益力が下押しされるもとでも、リスクテイクを継続していく力を有している。今後、金融機関のポートフォリオ・リバランスが、経済・物価情勢の改善と結びついていけば、基礎的収益力の回復に繋がっていくと考えられる。もっとも、人口減少や高齢化の進展などの構造問題は、地域金融機関の預貸業務の収益性を今後も下押し続けるとみられる。そうしたもとで、マイナス金利の影響も加わり、足もとの収益力の減少傾向が長引いた場合には、損失吸収力の低下する金融機関が増加し、金融仲介機能が低下する可能性も考えられる。

一方で、マイナス金利の影響などから貸出や有価証券投資の収益性が低下するなかで、金融機関が収益維持の観点から過度なリスクテイクに向かうことになれば、金融システムの安定性が損なわれる可能性があることにも留意が必要である。

以上のように、金融機関の収益性低下に伴う潜在的な脆弱性としては、マクロ的なリスク蓄積や資産価格等への影響が行き過ぎる過熱方向のリスク、収益の減少に歯止めがかからず金融仲介が停滞方向に向かうリスクの両面について注視していく必要がある。

マクロプルーデンスの視点からみた課題

金融システムが将来にわたって安定性を維持していくためには、潜在的な脆弱性に繋がり得るリスクの蓄積や構造的な変化に対して、金融機関は着実に対応していく必要がある。収益性低下の問題に対しては、金融仲介能力の向上を通じた地域経済・企業への支援強化など、収益力の安定・向上に向けた経営方針の具体化が望まれる。また、国際業務や市場運用など、わが国金融機関が積極的にリスクテイクを進めている分野におけるリスク対応力の強化も重要である。このほか、大規模金融機関では、システミックな重要性の高まりを踏まえ、リスク蓄積に対する強い財務基盤と経営管理体制の強化、ストレス発生時の秩序ある対応に向けた準備などが一段と強く求められる。日本銀行も、金融システムの安定確保に向けて、モニタリング・考査等を通じてこれらの課題に引き続き対応していく。

日本銀行から

本レポートは、原則として2016年9月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。
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