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地域経済報告 —さくらレポート— (2012年4月) *

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2012年4月12日
日本銀行

目次

  • III. 地域別金融経済概況
  • 参考計表

I. 地域からみた景気情勢

各地の景気情勢を前回(12年1月)と比較すると、6地域(北海道、北陸、関東甲信越、近畿、中国、九州・沖縄)から、海外経済が減速した状態にあることや円高の影響などを背景に、「持ち直しのテンポは緩やかなものにとどまっている」、あるいは、「横ばい圏内で推移している」、「足踏み状態にある」など、前回から大きな変化はないとの報告があった。

一方、東海からは、「持ち直しの動きを続けている」、四国からは、「生産面でみられた弱めの動きが和らぎつつあるもとで、全体としては持ち直している」と、前回から改善方向の報告があった。

この間、東北からは、「震災関連需要による押し上げ効果もあって、被災地以外の地域では震災前を上回って推移しているほか、被災地でも経済活動再開の動きがみられるなど、全体として回復している」と、前回までの動きが継続しているとの報告があった。

表 地域からみた景気情勢
  12/1月判断 前回との比較 12/4月判断
北海道 持ち直しの動きが一服し、横ばい圏内で推移している 不変 横ばい圏内で推移している
東北 震災関連特需による押し上げ効果もあって、被災地以外の地域では震災前を上回る水準にまで復してきているほか、被災地の一部でも経済活動再開の動きがみられるなど、全体として回復している 不変 震災関連需要による押し上げ効果もあって、被災地以外の地域では震災前を上回って推移しているほか、被災地でも経済活動再開の動きがみられるなど、全体として回復している
北陸 全体としては持ち直しの動きが続いているものの、一部でそのペースが緩やかになっている 不変 全体としては持ち直しの動きが続いているものの、一部でそのペースが緩やかになっている
関東甲信越 海外経済の減速や円高の影響等から、持ち直しの動きに一服感がみられている 不変 海外経済の減速や円高の影響等から、横ばい圏内の動きとなっている
東海 持ち直しの動きを続けているが、そのテンポは緩やかになっている 右上がり 持ち直しの動きを続けている
近畿 足踏み状態となっている 不変 足踏み状態となっている
中国 持ち直しの動きが一服している 不変 横ばい圏内の動きとなっている
四国 生産面で弱い動きがみられるものの、全体としては持ち直し基調にある 右上がり 生産面でみられた弱めの動きが和らぎつつあるもとで、全体としては持ち直している
九州・沖縄 海外経済の減速等の影響が生産面で広がってきており、持ち直しの動きが鈍化している 不変 全体として持ち直しの動きが続いているが、そのテンポは緩やかなものにとどまっている
  • (注)前回との比較の「右上がり」、「右下がり」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「右上がり」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「不変」となる。

公共投資は、東北から、「大幅に増加している」、関東甲信越から、「増加している」との報告があったほか、東海、近畿、四国からも、「下げ止まりつつある」との報告があった。一方、他の4地域(北海道、北陸、中国、九州・沖縄)からは、「減少している」等との報告があった。

設備投資は、維持・更新投資や新製品対応投資、震災後の復旧関連投資などを背景に、6地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、中国、四国)から、「持ち直し」や「増加している」との報告があったほか、北海道からも、「全体として底堅く推移している」との報告があった。一方、近畿、九州・沖縄からは、「弱めの動きとなっている」との報告があった。この間、企業の業況感については、「生産増加を背景に改善している」という報告があった一方で、「慎重化している」、「足踏み状態にある」という報告があった。

個人消費は、自動車に対する需要刺激策の効果や被災地での震災関連需要などを背景に、6地域(東北、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国)から、「持ち直し」や「増加を続けている」、九州・沖縄からも、「底堅く推移している」との報告があった。一方、北海道や北陸からは、「横ばいで推移している」との報告があった。

品目別の動きをみると、大型小売店販売額では、消費マインドが改善するもとで高額品などが堅調なことから、ほとんどの地域から、「持ち直し」や「下げ止まり」の動きがみられているとの報告があった一方、北海道からは、「前年並み」、北陸からは、「横ばいで推移している」との報告があった。乗用車販売については、供給制約の解消に加えて、低燃費車の投入およびエコカー補助金の再導入の効果などを背景に、全地域から、「持ち直している」や「増加している」等との報告があった。一方、家電販売は、エアコンなどの季節商品やスマートフォンが好調なものの、アナログ放送終了前の薄型テレビなどへの駆け込み需要の反動により、ほとんどの地域から、「低調に推移している」、「減少している」との報告があった。この間、東北からは、「震災による買い替え需要や被災地(岩手県、宮城県、福島県)におけるアナログ放送終了前の薄型テレビの駆け込み需要もあって前年を上回った」との報告があった。こうした中、旅行関連需要は、多くの地域から、「持ち直し」や「減少幅縮小」等といった報告があったが、北海道からは、「持ち直しのテンポが緩やかになっている」、四国からは、「寒さが厳しかったことなどから、全体では弱めの動きとなっている」との報告があった。

住宅投資は、4地域(東北、関東甲信越、中国、九州・沖縄)から、「増加している」や「持ち直している」との報告があったほか、東海からは、「底堅く推移している」、近畿からは、「底打ち感がみられている」との報告があった。一方、北海道からは、「持ち直しの動きが鈍化している」、北陸や四国からは、「弱い動きとなっている」との報告があった。

生産については、海外経済の減速や円高の影響に伴う輸出の弱まりなどを背景に、5地域(北海道、関東甲信越、近畿、中国、九州・沖縄)から、「横ばい圏内の動き」等との報告があった。一方、東北や東海からは、「増加している」との報告があったほか、北陸は「回復している」、四国は、「持ち直し基調が続いている」との報告があった。

業種別の主な動きをみると、輸送機械は6地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、四国、九州・沖縄)から、「増加している」、「高水準の生産を維持している」との報告があった一方、中国からは、「横ばい圏内の動き」との報告があった。一般機械も、多くの地域から、「増加している」、「高水準の生産を続けている」との報告があった。また、鉄鋼は多くの地域から、「増加している」、「高い生産水準を維持している」との報告があった一方、北陸や中国から、「横ばい圏内の動き」との報告があった。こうした中、電子部品・デバイスについては、東海から、「持ち直しつつある」、九州・沖縄から、「下げ止まりつつある」との報告があった。

雇用・所得動向については、多くの地域から、「引き続き厳しい状況にあるが、改善の動きがみられる」との報告があった。

雇用情勢については、ほとんどの地域から、「改善傾向」との報告があった。また、雇用者所得についても、多くの地域から、「下げ止まっている」等との報告があった。

需要項目等

表 需要項目等
  公共投資 設備投資 個人消費 住宅投資 生産 雇用・所得
北海道 減少傾向にある 全体として底堅く推移している 一部に持ち直しの動きがみられるものの、全体としては横ばい圏内で推移している 持ち直しの動きが鈍化している 横ばい圏内の動きとなっている 雇用・所得情勢は、総じて厳しい状況にあるが、労働需給は緩やかに持ち直している
東北 震災復旧関連工事の発注を中心に、大幅に増加している 増加している 震災関連需要に加え、雇用環境の改善もあって増加を続けている 震災に伴う建替え需要等から持家を中心に増加している 海外経済減速の影響がみられるものの、堅調な内需やタイ洪水後の挽回生産、被災企業の復旧等から、増加している 雇用情勢をみると、改善している
北陸 北陸新幹線関連の大口工事の発注が一巡したことなどから、減少傾向にある 総じてみれば製造業を中心に緩やかに持ち直している このところ横ばいで推移している 弱い動きとなっている 海外経済減速による影響が一部にみられるものの、全体としては生産水準が回復している 雇用情勢をみると、持ち直している。雇用者所得は、前年並みとなっている
関東甲信越 茨城県などにおいて被災した社会資本の復旧工事がみられていることなどから、増加している 震災で被害を受けた地域を中心に設備を修復する動きが続いていることなどから、増加している 一部に弱さが残っているものの、全体としては持ち直しの動きが続いている 持ち直しの動きが続いている 横ばい圏内の動きとなっている 雇用・所得情勢は、改善の動きがみられるものの、厳しい状況が続いている
東海 下げ止まりつつある 製造業を中心に持ち直している 緩やかに持ち直している 底堅く推移している 自動車関連を中心に増加している 雇用・所得情勢は、生産の増加を受けて、改善の動きがみられる
近畿 下げ止まりつつある 企業収益が悪化している中、弱めの動きとなっている 全体として緩やかな持ち直しの動きが続いている 底打ち感がみられている 一部に持ち直しの動きがみられるものの、海外経済減速などの影響から、全体として弱めの動きが続いており、在庫も高めの水準が続いている 雇用情勢はなお厳しさを残しながらも徐々に改善しつつあり、賃金も下げ止まってきている。こうしたもとで、雇用者所得は、前年比マイナス幅が縮小してきている
中国 基調としては減少している 製造業を中心に持ち直している 全体としては持ち直している 持ち直している 横ばい圏内で推移している 雇用情勢は、厳しい状況が続く中、有効求人倍率の改善の動きは一服している。雇用者所得は、全体として企業の人件費抑制等を背景に弱い動きが続いているが、幾分改善傾向にある
四国 一部で補正予算執行等に伴う発注が増加していることから、下げ止まりつつある 増加している 持ち直している 弱めの動きとなっている 一部でみられた弱めの動きが和らぎつつあるもとで、全体としては持ち直し基調が続いている 雇用情勢は、改善基調にある。雇用者所得は、概ね下げ止まっている
九州・沖縄 減少している 弱めの動きとなっている 全体として底堅く推移している 緩やかな持ち直しの動きが続いている 全体としては横ばい圏内の動きながら、一部に持ち直しの動きがみられる 雇用・所得情勢は、全体としてはなお厳しい状態にあるが、労働需給は幾分改善している

II. 地域の視点

各地域における最近の個人消費の動向とその背景

各地域における最近の個人消費の動向は、雇用・所得環境が労働需給を中心に改善の動きがみられる中で、自動車の需要刺激策や消費者ニーズを汲み取った企業サイドの各種施策の奏功などもあって、地域によるばらつきを伴いつつも、「持ち直している」とか、「底堅く推移している」など改善方向にある。

こうした動きの背景についてやや詳しくみると、まず、震災後の経済活動の持ち直しに伴い、有効求人倍率が緩やかに回復していることなどにより、多くの地域から、「雇用環境の厳しさの緩和が、個人消費にプラスに働いている」との声が聞かれている。この間、一部の地域からは、「雇用・所得環境の改善の動きが極めて緩やかであることが、消費者の根強い低価格志向に繋がっている」との声も聞かれている。

最近の消費者行動の特徴として、(a)高齢者の積極的な消費行動に加えて、(b)震災を契機に強まった「防災」意識や「安全・安心」志向、いわゆる「絆消費」なども、個人消費の押し上げに寄与しているといった点が挙げられている。また、(c)最近は「メリハリ消費」(日常的な支出への低価格志向と高額品等の非日常的な支出の併存)の強まりから、高額品への支出が増えているという声も聞かれている。
すなわち、団塊の世代が定年退職の時期を迎えている中、元気な高齢者——いわゆるアクティブシニア——が増加しているもとで、「これら高齢者は時間や金銭面での余裕があることもあって、趣味や余暇、生活の質の向上、家族向けに高価格帯の財・サービス消費に積極的」との声がほとんどの地域から聞かれている。
また、高齢者の家族向け消費とも関連するが震災を契機とした消費者の家族等との絆意識の高まり(いわゆる「絆消費」)や、消費者の防災意識、安全・安心志向の強まりも、最近の個人消費の押し上げに寄与している。
さらに、メリハリ消費については、多くの地域から、「日常的な財・サービス支出は低価格・節約志向を強めている一方、趣味やこだわりなどの消費者ニーズに合致した財・サービス支出は金額にかかわらず盛り上がっており、中でも高額品への支出が増えている」との声が聞かれている。こうした中、「女性の積極的な支出スタンスが目立つ」という声も聞かれる。

一方、最近の個人消費の改善には、供給サイド等の取り組みも寄与しており、具体的には、(a)高齢者向け財・サービスの充実化や、(b)情報提供チャネル等の多様化、(c)大型商業施設の開設や地域連携の強化、(d)一部の地域での交通インフラの充実などが挙げられる。
すなわち、団塊の世代を中心に消費者に占める高齢者のプレゼンスが高まる中、個人消費関連企業は高齢者の財・サービスに対するニーズを取り込むべく、企業努力を継続している。また、個人消費関連企業では、スマートフォンの普及や、ソーシャルネットワークサービスの利用者増加等を受けて、情報提供チャネル等の多様化に取り組んでおり、そうした取り組みが奏功している先もみられている。さらに、一部の地域では大型商業施設の相次ぐ開設・増床等が周辺地域からの集客力の向上に繋がっているほか、競合関係にあった企業等が地域で連携して、需要の取り込みを図る事例もみられている。この間、新幹線の開通や高速道路の開通・延伸といった交通インフラの充実も個人消費の押し上げに寄与している地域が一部でみられる。

こうした中、被災地やその周辺地域(東日本が中心)では、個人消費において特徴的な動きがみられている。すなわち、被災地では、生活機能復元需要がみられているほか、復旧・復興支援者の流入が個人消費の押し上げ要因となっているとの声も聞かれる。一方で、震災に伴う被災地からの人口流出が個人消費の押し下げ要因となっている地域もみられる(受け入れ側の地域では個人消費の押し上げ要因となっている)。この間、震災時の公共交通機関の混乱などを経験した東日本を中心に、震災以降も自宅近くでの消費を増やす動きが続いている。
なお、地域の中には近隣の商業施設開設や増床等に伴い、消費需要がシフトし、マイナスの影響が出ているという声も聞かれている。

先行きの個人消費については、多くの地域が、「当面、現状の持ち直しの動きが続く」とか、「底堅く推移するだろう」との見方をしている。しかしながら、人口減少や高齢化が着実に進む中で、企業の海外シフトや国内生産拠点の集約化の動きも相俟って、先行きの個人消費について慎重な見方もある。実際、一部の地域から、「人口減少に伴い、商店街の空き店舗の増加に歯止めがかからない」とか、「出先工場の撤退や縮小の動きに伴い、消費マインドが悪化している」という声が聞かれている。こうした構造的問題が進展するもとで、多くの地域からは、「確実に増加していく高齢者需要の獲得が、今後の各地域における個人消費の動向を左右する大きなポイント」との声が聞かれている。

日本銀行から

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