地域経済報告―さくらレポート―(別冊シリーズ)* 人手不足感が強まるもとでの地域企業の投資・事業戦略
- 本報告は、上記のテーマに関する支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2025年5月20日
日本銀行
要旨
幅広い業種・企業規模の地域企業が、「人手不足感の強まり」を経営上の優先課題と捉えており、人手不足が事業活動の制約になっているとの声が多く聞かれた。こうしたもと、地域の企業は、投資・事業戦略面で様々な対応や工夫を進めていることが確認された。ヒアリングで聞かれた最近の特徴的な取り組みとしては次の4点があげられる。
第1に、労働投入量の節約や人員一人当たりの収益力を高めることを目的に、AI等のデジタル技術の活用が広がっている。その背景として、同技術を用いたサービス等を提供する企業が増える中、そのコストが低下していることがあげられる。賃上げが広がるもと、労働投入コストが上昇し、ソフトウェア等への投資コストが相対的に安価になったとの指摘も聞かれている。
第2に、労働力の追加投入を要する規模拡大戦略からの脱却が進んでいる。既存ビジネスにおいて、製商品・サービスの高付加価値化など質的向上に集中し、労働力の追加投入を抑制しながら収益を強化する戦略が広がっているほか、店舗の無人化を図るビジネスなど、人手を要しない新たなビジネスを展開する動きもみられ始めている。
第3に、人手不足感の強まりを受け、人員配置や事業・サービスを抜本的に見直す動きが広がっている。収益性の高い事業への重点的な人員配置が進んでいる。また、人手不足を理由に低利益率のサービスを廃止する動きが増えているほか、人手が十分に確保できず採算の低い事業から撤退する動きや、他社への事業譲渡を検討・実施する動きも広がっている。
第4に、自社だけでは対応困難なビジネス領域において、企業をまたいで人材等の経営資源の共用化を図り事業活動を展開する動きもみられている。
現行の生産年齢人口の先行き見通しは、この年齢層からの追加的な労働供給の余地が今後も縮小していくことを示唆しており、人手不足感の強まりは中長期的にも継続することが見込まれる。そうしたもとで、各地域の企業が事業を継続していくためには、上述したような労働生産性を高める取り組みを続けていく必要がある。
日本銀行としては、引き続き、地域企業の行動が人手不足感の強まりを受けてどのように変化し、各企業の労働生産性の向上につながっていくのか、さらに、地域経済を押し上げる方向に作用するのか、注目していきたい。
日本銀行から
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