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ロンドン市場における証券投資と日英間の資金フローについて

1998年 4月30日
畑瀬真理子※1

日本銀行から

 本論文中で示された内容や意見は筆者個人に属するもので、日本銀行の公式見解を示すものではありません。

  • ※1日本銀行国際局国際調査課<現金融市場局金融市場課>
    (E-mail: mariko.hatase@boj.or.jp)

 以下には、全文の冒頭部分(はじめに)および目次を掲載しています。全文(本文、図表)は、こちらから入手できます (ron9804a.lzh 99KB[MS-Word, MS-Excel])。なお、本稿は日本銀行調査月報4月号にも掲載しています。

1.はじめに

 ロンドン市場は、60年代以降のユーロ市場の発展と共に、多様な市場参加者が様々な金融取引を行う国際的な市場へと発展してきた。その後、86年のビッグ・バンによる証券市場や税制・法制の改革に伴う利便性の向上等を背景に、同市場は欧州や米国の機関投資家の欧州投資の拠点としての役割を高め、さらに90年代入り後は国際分散投資の拠点としての役割を高めてきた。このため、ロンドン市場を経由する欧州、日本をはじめとするアジア、米国等の各市場への証券投資に関連する資金フローのボリュームが拡大してきている。また、これを反映して、日英間の証券投資のフローのボリュームは、日米間と並ぶ大きさとなっている。

—— 因みに、96年中の日英間の証券投資にかかるグロスの資金フローを、地域別国際収支統計でみると、日米間が929億ドル(うち日→米は509億ドル、米→日は420億ドル)であるのに対し、日英間は921億ドル(うち日→英は85億ドル、英→日は836億ドル)(注1)となっている(図表1(注2)

  • 日・米・欧間の証券投資資金フロー
(注)
  1. 日米・日欧間の証券投資は、96年中の東京市場における円/ドルレートによりドルベースに換算。
  2. 米欧間の証券投資は短期債(期間1年以下)を除くベース。
  3. 米国から欧州への証券投資は、米国居住者が海外居住者と証券を取引した場合、当該国居住者発行の証券を取引したと仮定して試算(例えば米国居住者が英国居住者から株を購入した場合、英国株を購入したとみなす)。
  4. 日米・日欧間の証券投資は証券貸借を含むベース。
(資料)
日米・日欧間の証券投資:日本銀行「国際収支統計月報」「日本銀行月報」、米欧間の証券投資:U.S. Department of the Treasury, "Treasury Bulletin."
  • 日本を巡る地域別証券投資
(注)
  1. 東京市場における円/ドルレート(期中平均値)でドルベースに換算。
  2. 対外投資は95年まで証券を取引した市場別に集計、96年以降は発行体の国籍別に集計。
  3. 96年以降は証券貸借を含むベース。
(資料)
日本銀行「国際収支統計月報」「日本銀行月報」

 本稿では、こうした日英間の資金フローの内容を分析する手掛かりとして、投資家の行動に焦点をあて、(1)ロンドン市場の特性、(2)日本からロンドン市場への証券投資、(3)ロンドン市場を通じた各国投資家の日本への証券投資について、投資家の種類と投資目的の観点から考察することとする。

 なお、ポイントをあらかじめ整理すれば、以下の通り(注3)

  1. (1)本邦投資家は、英国経由で欧州諸国への証券投資を活発に行っている。特に最近では、投資対象国の多様化がみられるが、その程度にはそれぞれの投資家の投資期間が大きく影響しているとみられる(投資期間が長い年金は、株式や欧州の小国の証券にも投資対象を拡大。一方、投資期間が年金に比べてやや短いとみられる生保では、独仏英の国債投資が中心)。また、最近は個人投資家の投資も目立つ。
  2. (2)海外投資家の日本への証券投資のうち、株式投資については、比較的長期の投資期間を設定している機関投資家(年金等)が重要な役割を果しているとみられる。一方、債券については投資期間の短い先(銀行、証券、投資銀行、各国中央銀行等)、リスク選好度が高い先(ヘッジファンド等)が短期的な売買を行っているとみられる。
  3. (3)日系企業(日本国籍の企業およびその海外現法)の発行するユーロ債の市場は、債券の格付けによって投資家層が大きく異なっているのが特徴である。即ち、トリプルAや一部のダブルAクラスの格付けの債券(ドル建てが中心)には、海外の機関投資家も投資を行っているが、それ以外の格付けの債券(円建てが中心)については、購入者は本邦勢が中心であり、国内での規制回避等を狙った一種の迂回取引としての位置付けとなっていると考えられる。
  • (注1)英国から日本への証券投資額が、日本から英国への投資額を大幅に上回っているのは、前者には、英国以外の投資家による英国経由の日本への証券投資も計上されているため(地域別国際収支統計における国別ブレイクダウンの基準についてはボックス2参照)。
  • (注2)現行のわが国の国際収支統計においては、96年1月より証券貸借取引(いわゆるレポ取引<現金担保付債券貸借>を含む)が証券投資の計数に含まれているが、本稿で「証券投資」の用語を用いる場合、特に明記しない場合には、証券貸借を除いたベースを指す。ここでは証券貸借を含むベース。
  • (注3)日英間の証券投資にかかる資金フローには、(1)日本の投資家の英国市場(経由)への投資、(2)英国(経由)の投資家の日本市場への投資、(3)日本の発行体の英国市場での調達、(4)英国の発行体の日本市場での調達(サムライ債等)の4つのカテゴリーが考えられる。もっとも、実際には(4)に属するケースは殆どないとみられるため、本稿では(1)〜(3)について考察することとする。

目次

  • 1.はじめに
  • 2.日英間の資金フローとロンドン市場の特性
  • 3.ロンドン市場を経由する本邦投資家の証券投資
  • 4.ロンドン市場を経由する海外投資家の本邦への証券投資
  • 5.むすび
  • [ボックス1]機関投資家の債券・株式投資について
  • [ボックス2]日系企業の海外での起債による資金調達の国際収支統計等への計上方法について