このページの本文へ移動

最近の個人消費動向について

1998年 5月 1日
日本銀行調査統計局

日本銀行から

 以下には、要旨および目次を掲載しています。全文(本文、図表)は、こちらから入手できます (ron9805a.pdf 332KB/ ron9805a.lzh 426KB[MS-Word, MS-Excel])。

要旨

  1. わが国の個人消費は、93年秋以降、緩やかな回復傾向を辿り、96年末から97年初めにかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が加わって、大きな伸びを示した。しかし、97年4月の消費税率引き上げ実施後は、駆け込みの反動から大きく落ち込み、その後も、目立った回復を示すことのないままに、相次ぐ大型企業倒産や金融システム不安等を背景に消費者心理が萎縮したことから、低迷の度合いを強めてきた。また、こうしたことをひとつの契機として、景気全体は停滞し、下押し圧力を強めるに至った。
  2. このような97年中の個人消費の不振の背景を探るため、93年秋以降の景気回復局面における個人消費の動きを振り返ってみると、(1)GDPに占める個人消費の割合は、労働分配率の高まりなどを背景に、過去の景気回復局面に比べて上昇している、(2)消費支出の中で、必需性の高い非耐久財と半耐久財のウェイトが減少する一方、必需性が低く、支出のタイミングを選択的に決定しうる耐久財などの割合が上昇した結果、個人消費の振幅が拡大しており、GDPに占めるウェイトの高まりとも相まって、GDP全体の変動にも影響を及ぼしている、(3)70年代後半から上昇傾向を続けてきた消費性向が、90年代入り後は、横這いから低下気味に転じている、という3つの特徴点を挙げることができる。
  3. 消費支出の中でウェイトを高めてきている耐久財支出や、教養・娯楽や交通・通信といった選択的サービス支出の動きを分析してみると、(1)所得要因だけでなく、(2)耐久財については、ストック循環のメカニズムが働いており、さらに(3)両者とも、消費者のマインド変化の影響を受けやすい、という特徴が窺われる。このうち、(3)に関しては、必需性が低く、消費者が支出のタイミングを相当程度主体的かつ選択的に決めることができるという、これらの財の性質と強く関係していると考えられる。
  4. 耐久財などの支出動向に大きな影響を与える消費者の支出態度は、最終的には消費性向に集約的に投影されるが、この消費性向は、経済の成熟度や人口構成といった構造的な要因のほか、資産価値の増減や消費者マインドなどにも影響される。
     そこで、まず人口構成の変化の影響を考えてみると、従来は、高齢化の進行が、70年代後半から90年代初にかけての消費性向の上昇をもたらしたとされることが多かった。しかし、同時に進行している少子化による消費性向の押し下げ効果を併せて、一定の前提のもとで試算すると、これまでのところ、人口構成の変化は、消費性向を押し上げる方向には必ずしも働いておらず、むしろ、こうした人口構成の変化が消費性向に対して本格的な上昇圧力となるのは、2000年以降という結論が得られる。
  5. 次に、家計の保有する資産(実物資産も含む)と消費性向との関係をみると、資産価値の増減が支出態度に有意に影響するとの結果が得られる。したがって、90年入り後の消費性向の頭打ちには、バブル崩壊後の資産価格下落が何がしか影響を及ぼした可能性が高い。
  6. 3番目に、消費者マインドに関するアンケート調査をみると、90年代入り後は、若年世代を中心に老後の生活を心配する回答が増加している。また、消費者の平均的なマインドの状態を表わす消費者態度指数は、97年末にかけて、雇用環境に関する判断の悪化を主因に大幅に悪化し、98年入り後も目立った回復を示していない。これらのことから、97年夏以降の大型倒産によって多くの失職者が出たことなどを背景に、消費者の将来の雇用見通しや所得見通しが悪化したことが窺われる。
     このような消費者マインドの萎縮が、消費性向の一層の低下につながっている可能性があるが、それとともに、消費者のマインドのバラツキが示す先行きに関する不確実性の高まりが、消費性向に対して何がしかの影響を及ぼしている面があるとみられる。そこで、消費者マインドの動きが個人消費に及ぼす影響を定量的にみるために、消費者態度指数の水準とともに、先行きについての不確実性を示すものとして作成した「所得リスク」を用いて、消費性向との関係を分析してみると、すでに96年から「所得リスク」の高まりが消費性向の押し下げに効いていたほか、97年には、消費者態度指数の水準の低下と「所得リスク」の高まりの双方が消費性向の抑制要因として作用していたとの結果が得られる。
  7. このように、昨年の個人消費不振の背景を、消費税率引き上げ等による国民負担の増加や、景気の停滞に伴って雇用・所得環境が悪化し始めたことのみに求めることは難しい。消費支出の中で耐久財などのウェイトが高まって、消費支出自体が振れやすくなり、さらに景気の動向がこの影響を受けやすくなっているという構造的な変化の下で、(1)資産価格下落・低迷、(2)年金財政の破綻懸念の高まり等にみられるような将来所得見通しの下振れ、さらには(3)大型倒産や金融システム不安によって一層加速した先行き不透明感の増大、などが複合的に作用したと考えられる。
  8. 以上の分析を踏まえ、今後の消費回復の手がかりを探ると、所得形成の力が弱まっている現状においては、消費性向の回復、とりわけ消費者マインドを改善させることが重要となる。したがって、政策対応としても、単に需要創出策によって、当面の景気回復を促すだけでなく、消費者の将来にわたる所得見通しを改善させ、不透明感を払拭するような措置が求められていると言えよう。

目次

  • 1. 問題意識
  • 2. 93年秋以降の景気回復局面における個人消費の特徴点
  • 3. 消費支出の質的変化
    • (1)消費支出のウェイトの高まりと所得面の下支え
    • (2)消費支出の変動と財別構成の変化
  • 4.耐久財支出等の動向
    • (1)耐久財支出を規定する要因
      • (耐久財支出の動き)
      • (耐久財のストック循環と消費者マインド)
      • (耐久財支出の推計)
      • (2)選択的サービス支出
  • 5.消費性向の動きとこれを規定する諸要因
    • (1)高齢化・少子化の影響
      • (人口構成の変化)
      • (高齢化・少子化要因の影響)
    • (2)資産効果
    • (3)消費者マインド
      • (消費者マインドの慎重化・先行き不安の高まり)
      • (不確実性の高まりと消費性向)
  • 6.結びに代えて:当面の展望
  • [BOX 1]高齢化・少子化が消費性向に与える影響の試算方法
  • [BOX 2]「所得リスク」の計測方法