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為替レートのボラティリティと企業の輸出行動

2000年 3月29日
木村武※1
中山興※2

日本銀行から

 本稿の作成にあたっては、松林洋一先生(和歌山大学助教授)、および多くの行内スタッフから有益なコメントを頂いた。なお、本稿の内容や意見は、筆者個人に属するものであり、筆者の所属する日本銀行の公式見解を示すものではない。

  • ※1日本銀行国際局兼調査統計局(e-mail : takeshi.kimura-1@boj.or.jp)
  • ※2日本銀行調査統計局(e-mail : kou.nakayama@boj.or.jp)

 以下には、冒頭部分(要旨)を掲載しています。全文(本文、図表)は、こちら (ron0003b.pdf 212KB) から入手できます。なお、本稿は日本銀行調査月報 3月号にも掲載しています。

要旨

 為替レートのボラティリティの増加は、企業活動の不確実性を増し、輸出や生産の減少をもたらすことで、マクロ経済に悪影響を及ぼすという見方がある。この点、円についてみると、円(実効レート)は主要先進国の中で最もボラティリティの高い通貨であり、特に円高局面ではボラティリティが増し、円高方向へ相場が加速しやすいという傾向が統計的に確認できる。そうした円のボラティリティの高さと非対称性は、わが国の輸出に対して大きな影響を及ぼしており、景気変動の振幅を拡大するよう作用してきたことが実証的に明らかとなった。具体的には、(他の条件を一定にした下で、)ボラティリティの1年間1%ポイントの増加は、輸出を最終的に(累積ベースでみて)数%のオーダーで押し下げる効果を持ち得る。こうした影響は、リスクヘッジ手段が拡充された1990年代に入っても確認でき、ヘッジ手段の拡充がボラティリティの輸出に与える影響を十分に遮断している訳ではないことを示唆している。

 本稿では、為替のボラティリティと輸出の関係に焦点をあて分析したが、現実には、為替のボラティリティは、輸出のみならず輸入も含めた貿易取引や資本取引活動全般に影響を与え、ひいては国際通貨としての円の位置付けにも関係してくると考えられる。したがって、今後、為替のボラティリティの高さの背景やボラティリティの抑制策について分析・検討を進めるとともに、ボラティリティと経済活動の関係について、より広く認識を深めていくことが重要な課題である。