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「店頭デリバティブ市場改革が金利スワップ取引価格に及ぼした影響」 曽根泰平、小田剛正(日本銀行)、宮川大介(早稲田大学)

Research LAB No. 23-J-2, 2023年8月22日

キーワード:
金利スワップ、規制改革、OTC、中央清算、証拠金
JEL分類番号:G12、G15、G18、G20、G28
Contact
takemasa.oda@boj.or.jp(小田剛正)

要旨

2000年代後半に発生した世界金融危機の教訓を踏まえ、店頭デリバティブ市場における規制の枠組みが国際的に検討され、わが国でも、清算集中の義務化や証拠金規制の導入が段階的に進められてきた。本稿では、わが国の店頭デリバティブ(円金利スワップ)取引の明細データを用いて、こうした規制の導入が、取引価格の異質性、特に、相対で清算される取引と中央清算機関で清算される取引の価格差である「OTCプレミアム」に及ぼした影響を評価した、Miyakawa, Oda, and Sone (2023) [PDF 3,489KB] の研究の概要を紹介する。その結果によると、円金利スワップ市場におけるOTCプレミアムは、(1)かつては、国際的な大手ディーラーが固定金利を受け取る取引を中心に小幅ながらも存在した可能性があること、(2)証拠金規制の導入前後に、その対応に係るコストの増加などから一時的に拡大した可能性があるものの、(3)その後は、一連の同規制の適用拡大が進むもとで消失したとみられること、などが示唆される。

店頭デリバティブ市場改革:(1)清算集中の義務化と(2)証拠金規制の導入

2000年代後半に発生した世界金融危機の教訓を踏まえ、2010年代には、店頭デリバティブ市場における規制の枠組みが国際的に検討された。わが国でも、(1)標準化された取引の清算集中の義務化や、(2)中央清算されない取引への証拠金規制の導入などが段階的に進められてきた(表1、表2)1。どちらの規制も、当初は、取引規模が大きい主体同士が当事者となっている取引を対象に適用が開始され、その後、対象となる主体の取引規模の閾値が順次引き下げられるかたちで、適用対象となる取引が拡大していった。そして、コロナ禍で一年間延期されていた当初証拠金の最終導入段階の適用が2021年9月と2022年9月に開始されたことで、一連の市場改革は一通り終着した。

表1.清算集中義務の適用対象と適用開始時期
適用対象主体 適用開始時期
大手金融機関(注3参照)2012年11月1日
取引規模1兆円以上2014年12月1日
取引規模3,000億円以上2015年12月1日
保険会社(3,000億円以上)2016年12月1日
  1. (注1)双方の取引当事者が、「金融商品取引法」が定める「金融商品取引業者等(金融商品取引業者又は登録金融機関)」のうち「取引情報作成対象業者」、すなわち「第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者又は登録金融機関である銀行、株式会社商工組合中央金庫、株式会社日本政策投資銀行、全国を地区とする信用金庫連合会、農林中央金庫若しくは保険会社」である取引が対象である。
  2. (注2)取引規模の閾値は、過去の一定期間における店頭デリバティブ取引の各月末残高(想定元本の合計額)の平均値で算定される。
  3. (注3)実質的には、日本証券クリアリング機構(JSCC)における清算参加者。清算集中の義務化が盛り込まれた「金融商品取引法改正」自体は、2012年11月1日に施行された。もっとも、JSCCは、それに先立ち同年10月から、その清算参加者を対象に金利スワップ取引の清算業務を開始した。
表2.証拠金規制の適用対象主体の取引規模の閾値と適用開始時期
当初証拠金(IM)の閾値 変動証拠金(VM)の閾値 適用開始時期
420兆円超/3兆ユーロ超420兆円超/3兆ユーロ超2016年9月1日
――420兆円以下/3兆ユーロ以下2017年3月1日
315兆円超/2.25兆ユーロ超――2017年9月1日
210兆円超/1.5兆ユーロ超――2018年9月1日
105兆円超/0.75兆ユーロ超――2019年9月1日
7兆円超/500億ユーロ超――2021年9月1日*
1.1兆円超/80億ユーロ超――2022年9月1日*
  1. (注1)適用対象となる取引は、表1の(注1)と(注2)と同様。
  2. (注2)*は、コロナ禍で適用開始時期が当初予定より1年間延期されたことを示す。

これらの規制は、システミック・リスクの軽減や取引ネットワークの簡素化などを通じて、店頭デリバティブ市場の安定性および透明性・効率性の向上に資することが期待されている。一方、これらの規制が同市場、ひいては金融システム全体にもたらす影響やそのコストの多寡については、まだ実証的に明らかとなっていない点が多く、国際機関や各国金融当局にとって、その影響度評価が重要な課題の一つとなっている。

  1. 1これらのほか、金融商品取引法改正および内閣府令により、取引情報蓄積機関への報告義務や電子取引基盤の使用義務なども規定された。

先行研究の紹介:OTCプレミアム

欧米では、近年、金融当局などが収集する店頭デリバティブ取引の高粒度データを活用して、その取引行動や取引価格を分析する試みが進んできた。経済主体の取引行動や取引価格の動向を実証的に探究するうえでは、主体毎・取引毎に属性情報を適切に調整する必要があるため、高粒度データを活用することの意義が大きい。

上記の金融規制との関連で例を挙げれば、店頭デリバティブ市場において、相対で清算される取引(以下「相対清算取引」)と中央清算機関(CCP)で清算される取引(以下「中央清算取引」)との間には、取引価格に有意な差が生じることが指摘されていた。この価格差は、計量分析手法によって取引の想定元本や満期、取引当事者の業態など、取引を規定する基本的な情報をコントロールしたうえでも観察され、Cenedese et al. (2020)などによって「OTC(Over-the-Counter Premium)プレミアム」と呼ばれている。

Cenedese et al. (2020)は、バーゼルIIIの導入以降(ただし前述の店頭デリバティブ取引に対する規制の強化以前)に執行された個別取引のデータをもとに、ディーラーDが固定金利を受け取る(逆に顧客Cが変動金利を受け取る)金利スワップ取引(以下「D2C取引」)において、OTCプレミアムが存在したことを実証的に確認している。そして、OTCプレミアムは、バーゼルIIIの資本チャージに起因する、後述の「価格評価調整(XVA)」、特にCVAとKVAを映じたものであることを示している。同時に、その逆の取引(C2D取引)においては、OTCプレミアムが観察されなかったことから、その存在および非対称性が双方の取引当事者の価格支配力や信用力の差異にも左右されることを指摘している。

このほか、Du et al. (2019)Hau et al. (2021)は、それぞれクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)取引や為替フォワード取引においても、OTCプレミアムの存在を示す結果を得ている。その際、取引相手や参照資産の信用力、取引主体の熟練度、電子取引基盤の利用有無、担保受渡の有無などの様々な要素が取引価格に及ぼす影響も合わせて検討している。

これらの先行研究に対し、Miyakawa, Oda, and Sone (2023) [PDF 3,489KB] は、わが国の店頭デリバティブ市場について、Cenedese et al. (2020)の分析の一部に対する追試を行っている。具体的には、一連の店頭デリバティブ取引への規制強化の過渡期(厳密には清算集中の義務化が施行されて以降、証拠金規制の導入前後を含む期間)に執行された個別取引のデータをもとに、OTCプレミアムの存在有無を、期間別・取引形態別に評価している。

金融規制と取引価格(OTCプレミアム)の関係:XVAを通じた影響

世界金融危機後の金融規制の強化は、複合的な経路を通じて、金利スワップ取引の価格(スワップ・レート)に影響を及ぼしたと考えられる。そのうち代表的な経路は、デリバティブ取引における価格評価調整(XVA)である。XVAには、評価対象の違いに応じて、いくつかの種類が存在する(表3)。

表3.デリバティブ取引における主な評価調整項目
名称 内容(評価対象コスト)
CVA (Credit Valuation Adjustment) 取引相手(および自社)の信用コスト
KVA ('K'apital Valuation Adjustment) 規制資本に係る調達コスト
FVA (Funding Valuation Adjustment) 時価変動への担保(変動証拠金)の調達コスト
MVA (Margin Valuation Adjustment) 当初証拠金等の調達コスト
  1. (備考)それぞれの考え方や算定方法などの詳細については、例えば、Gregory (2015)や斎藤(2016)を参照。

世界金融危機後に導入されたバーゼルIIIの資本規制(自己資本比率規制やレバレッジ比率規制)のもとでは、店頭デリバティブ取引の実施に伴い、カウンターパーティーのデフォルトや信用力の変化に備えて(リスクアセットやエクスポージャーの額に応じた)資本配賦が求められている(CVAやKVAの発生)。一方、店頭デリバティブ取引に対する規制強化によって、CCPの利用や証拠金の受渡がなされる場合には、こうしたCVAやKVAが軽減される一方、CCPを含むカウンターパーティーとの間で授受し合う証拠金等の分だけ、MVAやFVAが増大するという、一種のトレード・オフが生じる。したがって、証拠金の受渡を伴わない相対清算取引の価格(CVAやKVAを映じたもの)が、証拠金の受渡を伴う中央清算取引の価格(MVAやFVAを映じたもの)に比べて割高であるか否か、すなわち、(プラスの)OTCプレミアムが存在するか否かは、優れて実証的な問題である。この点、前述のCenedese et al. (2020)は、店頭デリバティブ市場改革以前に執行された金利スワップ取引については、CVAやKVA に起因したOTCプレミアムが存在したことを、実証的に示していることになる。

わが国の円金利スワップ市場におけるOTCプレミアム

ここでは、Miyakawa, Oda, and Sone (2023) [PDF 3,489KB] によるOTCプレミアムの推計結果の概要を示す。手始めに、そこで使用されている円金利スワップ取引の明細データの基本統計量を確認する(表4)。このデータセットには、新規実行された取引フローについて、取引当事者の名称や価格、想定元本・満期、参照金利の種類などの情報が、取引1件毎に日次で記録されている。サンプル期間を2013年4月初営業日から2021年10月末営業日までとして、異常値や欠損値などを処理した結果、推計等に使用された取引サンプルのサイズ(件数)は、約60万件(単月当たり平均約6千件)である。この取引サンプルを中央清算取引と相対清算取引に分けてみると、前者は、後者に比べ平均的に想定元本が大きく、満期が長いほか、スワップ・リターンが平均的に低くなっている。前述のとおり、こうした両取引のスワップ・リターンの差が、OTCプレミアムと呼ばれるものを内包している可能性がある。

表4.円金利スワップ取引データ・サンプルの基本統計量
全サンプル
(N=603,038)
中央清算取引
(N=424,129)
相対清算取引
(N=178,909)
想定元本(億円) 96.0
(215.7)
105.1
(225.4)
74.2
(188.8)
満期(年) 9.66
(6.66)
10.35
(7.02)
8.00
(5.35)
スワップ・リターン(bps) 4.28
(21.73)
0.56
(12.76)
13.09
(33.09)
  1. (注1)各セルの上段(括弧なし)が平均値を、下段が(括弧あり)が標準偏差を示す。
  2. (注2)スワップ・リターンは、スワップ・レートのベンチマーク・レート(市場提示レートの中央値)からの乖離幅で定義されている。

続いて、Cenedese et al. (2020)の手法に倣い、取引主体を、国際的な店頭デリバティブ市場におけるディーラー(D)とそれ以外の主体(C)に分け、取引形態別にOTCプレミアムを推計する。ここで、ディーラーとは、米国ニューヨーク連邦準備銀行が主催する「OTC Derivatives Supervisors Group(ODSG)」のメンバーである国際的な大手金融機関に対応する2。全サンプル期間についての推計結果をみると(表5)、C2C以外の取引形態について「相対清算取引であるか否かを示すダミー変数」の係数がプラスで統計的に有意となっている。つまり、わが国の円金利スワップ取引について、清算集中の義務化以降の約10年間でみて、平均的には小幅ながらも、OTCプレミアムが存在したことが確認される。また、D2C取引の方がC2D取引よりもOTCプレミアムの推定値や有意水準が大きくなっているという意味で、両取引間に非対称性が存在した様子もみてとれる。

表5.OTCプレミアムの推計結果<全サンプル期間>
全取引 D2D取引 D2C取引 C2D取引 C2C取引
相対清算取引ダミー
(OTCプレミアム)
1.527***
(0.373)
2.288**
(0.889)
2.575***
(0.718)
0.652*
(0.364)
0.127
(0.421)
想定元本(対数値) -0.906**
(0.392)
-0.379**
(0.149)
-0.303***
(0.104)
-0.158**
(0.068)
-2.773**
(1.289)
満期 -0.094*
(0.048)
-0.014
(0.016)
-0.054***
(0.019)
-0.023
(0.016)
-0.260*
(0.153)
固定効果(買手ID×売手ID×月、日付) Yes Yes Yes Yes Yes
調整済み決定係数 0.62 0.23 0.39 0.33 0.72
サンプル・サイズ 603,038 169,415 150,911 149,439 133,273
  1. (注1)サンプル期間は、2013年4月初営業日~2021年10月末営業日。被説明変数は、各取引のスワップ・リターン。いずれのケースでも、固定効果として「買い手のID×売り手のID×年月」と「日付」を考慮している。
  2. (注2)Z2X取引等の表記は、Zが固定金利を受け取る(Xが変動金利を受け取る)取引であることを示す。
  3. (注3)( )内の数値は、クラスタリングに対して頑健な標準誤差を示す。***、**、*は、それぞれ1%、5%、10%有意であることを示す。

一方、この推計期間を証拠金規制の導入前後(大まかに2016年度までと2017年度以降)に分けてみると(表6)、OTCプレミアムは、その導入前の期間で有意となる一方、導入後の期間では有意でないことがわかる。前述のCenedese et al. (2020)の主張に依拠すると、この事実は、相対清算取引でも証拠金が受渡されるもとでは、CVAとKVAが軽減され、OTCプレミアムが消失したと解釈できる。つまり、少なくとも取引価格面では、相対清算取引と中央清算取引の均等化が進んだ可能性を示唆している。また、CCPの利用や電子取引基盤の利用などが普及するなか、市場の透明性や競争度が向上したことで、ディーラーの価格支配力が弱まった――その結果、D2C取引におけるXVAのパススルーが弱まった――可能性も考えられる。

表6.OTCプレミアムの推計結果<サンプル期間別>
全期間:2013~21年度 前半:2013~16年度 後半:2017~21年度
全取引 1.527***
(0.373)
1.953***
(0.422)
0.057
(0.427)
D2D取引 2.288**
(0.889)
4.234***
(1.234)
-0.161
(0.436)
D2C取引 2.575***
(0.718)
3.056***
(0.840)
0.395
(0.569)
C2D取引 0.652*
(0.364)
0.701
(0.426)
0.454
(0.521)
C2C取引 0.127
(0.421)
0.477
(0.345)
-1.430
(1.136)
  1. (注)表5の(注1)~(注3)と同じ。
  1. 2ここでは、Cenedese et al. (2020) の定義を踏襲し、16先としている。ただし、メンバーが随時見直されており、現在では15先となっている。

OTCプレミアムに対する証拠金規制の導入の影響

さらに、上記の結果について、証拠金規制の導入がOTCプレミアムの消失に寄与した可能性をより直接的に確認する。そのために、個々の取引について、時間を通じた規制対象の段階的な拡大も踏まえつつ、取引当事者を証拠金規制の適用対象であるか否かを丁寧に選り分けたうえで3、取引形態別にOTCプレミアムの推計を試みる。その結果(表7)、適用対象外の主体間の取引では、OTCプレミアムが有意となり、D2C取引とC2D取引の間の非対称性も確認される一方、適用対象の主体間の取引では、その有意性が確認されない。

表7.主体分類別・取引形態別のOTCプレミアムの推定値
売手/買手 NR_D NR_C R_D R_C
NR_D 4.612***
(1.319)
【7.1】
3.093***
(0.840)
【14.3】
2.134
(1.248)
【3.3】
1.615***
(0.551)
【1.2】
NR_C 0.756*
(0.434)
【14.1】
0.642**
(0.311)
【14.4】
-0.477
(1.240)
【1.5】
-4.181*
(2.047)
【0.8】
R_D 0.616
(0.887)
【3.2】
3.009
(2.136)
【1.6】
-0.325
(0.314)
【14.5】
0.749
(0.559)
【7.8】
R_C 0.099
(0.871)
【1.2】
-3.198
(3.867)
【2.4】
0.489
(0.499)
【8.0】
-0.412
(1.012)
【4.5】
  1. (注1)表5の(注1)および(注3)と同じ。【 】内の数値は、取引件数の割合を示す。
  2. (注2)Dは前述のG16ディーラー、Cはそれ以外の主体をさす。また、R_とNR_は、それぞれ各時点で証拠金規制の適用対象である(とみられる)主体と適用対象でない(とみられる)主体を意味する。
  3. (注3)各セルの数値は、各属性(DかCか、R_かNR_か)の売り手(行)と買い手(列)との間で実施された金利スワップ取引のOTCプレミアムの推定値に対応する。

さらに興味深いことに、取引当事者のうち一方だけが適用対象となっている取引でも、その有意性が概ね確認されない4。このことは、証拠金規制の導入および適用対象の拡大に伴い、(規制対象外の取引であっても)一定程度の証拠金を受け渡し合う商慣行が、規制対象外の主体を含めて(少なくとも金融機関の間では)浸透してきた可能性を示唆している5。その背景としては、(a)金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」のなかでも、金融機関等を相手方とする相対清算取引において、証拠金の授受が促されていることや、(b)清算集中の流れを受けて、中央清算取引を実施したことがある金融機関は、少なからず証拠金に関するノウハウを共有してきたこと、などが考えられる。

最後に、OTCプレミアムに対する証拠金規制の限界的な影響をより動学的に調べるために、「証拠金規制の導入または適用対象拡大を示すダミー変数」と「相対清算取引を示すダミー変数」の交差項を説明変数に加えた推計も実施する。その結果(表8)、OTCプレミアムは、最初の変動証拠金規制の導入のタイミングで一時的にワイド化した様子が観察されるとともに、その後の適用対象の拡大に伴い、段階的に縮小していった様子がみてとれる。このことは、規制導入の直前直後では、短期的に規制対応の事務的なコスト増加などが強く意識された一方、その後は、規制に対応した主体の増加とともにXVAの軽減効果が発揮されていった、と解釈することができる。

表8.証拠金規制の導入の影響に関する推計
全取引 D2D取引 D2C取引 C2D取引
相対清算取引ダミー 1.918***
(0.412)
4.215***
(1.212)
2.964***
(0.819)
0.705*
(0.414)
相対清算取引ダミーとの交差項
× IM規制1ダミー -1.141*
(0.578)
-2.335**
(0.860)
1.102
(0.703)
× VM規制1ダミー 9.365*
(5.296)
16.491***
(1.179)
× VM規制2ダミー -1.270*
(0.660)
-4.829***
(1.311)
-1.762*
(0.997)
0.672
(0.862)
× IM規制2ダミー -5.065**
(2.038)
-7.926***
(0.495)
-4.477***
(1.002)
× IM規制3ダミー 0.093
(1.391)
1.082
(1.242)
-0.420
(2.034)
-0.800
(0.829)
× IM規制4ダミー -1.098
(0.711)
0.624
(0.476)
-1.557
(1.109)
-1.977*
(1.046)
× IM規制5ダミー -1.604***
(0.433)
-1.325***
(0.448)
1.315*
(0.739)
-1.558
(1.506)
想定元本(対数値) -0.905**
(0.392)
-0.372**
(0.148)
-0.299***
(0.103)
-0.157**
(0.068)
満期 -0.096*
(0.048)
-0.019
(0.016)
-0.057***
(0.019)
-0.024
(0.016)
固定効果(買手ID×売手ID×月、日付) Yes Yes Yes Yes
決定係数 0.615 0.230 0.387 0.326
サンプル・サイズ 603,038 169,415 150,911 149,439
  1. (注1)表5の(注1)~(注3)と同じ。
  2. (注2)証拠金規制ダミー(VM規制1・2、IM規制1~5)は、それぞれ表2の適用開始時期別のものに対応し、適用対象とみられる取引で1、そうでない取引で0をとる。

このように、Miyakawa, Oda, and Sone (2023) [PDF 3,489KB] の推計結果からは、店頭デリバティブ取引に係る一連の規制の適用が進むにつれて、中央清算取引と相対清算取引が、少なくとも取引価格面では、多くの取引主体にとって無差別となったことが示唆される。その意味で、同規制は、所期の目的どおり、店頭デリバティブ市場の効率化に寄与したように窺われる。

  1. 3各取引主体について、過去の取引実行額(フロー)を積み上げることで、各時点における取引規模(残高)を近似的に算出し、その近似値が規制の適用対象となる閾値(表2参照)を超えるか否かにもとづいて、各取引主体がその取引執行時点で規制対象であるか否か(R_かNR_か)を判定する。
  2. 4ただし、取引当事者の一方だけが適用対象主体である取引については、いずれもサンプル・サイズが小さいため、その推計結果(有意性)は幅を持ってみる必要がある。
  3. 5証拠金授受の寄与をはっきりと確認するためには、各取引における証拠金授受の有無に関する情報を利用することが望まれるが、当該データセットにはそれが含まれていない。

おわりに

本稿では、わが国の円金利スワップ取引の高粒度データを用いて、店頭デリバティブ市場における規制改革がその取引価格(特にOTCプレミアム)に与えた影響を実証的に評価したMiyakawa, Oda, and Sone (2023) [PDF 3,489KB] の研究の概要を紹介した。ただし、この研究では、同規制強化後のOTCプレミアムの存在有無を実証的に評価してはいるものの、データ制約もあって、その背後にある各規制や各メカニズムの影響度を定量的に識別できていない。また、本研究は、店頭デリバティブ市場改革について、あくまで取引価格への影響に焦点を当てており、それに伴う広義のコストとベネフィットを総合的に比較するまでには至っていない。こうした点は、規制の見直しなどを企画するうえで、金融当局にとって引き続き重要な検討課題である。

参考文献

  • Cenedese, G., A. Ranaldo, and M. Vasios (2020), "OTC Premia," Journal of Financial Economics, 136, pp. 86-105.
  • Du, W., S. Gadgil, M. B. Gordy, and C. Vega (2019), "Counterparty Risk and Counterparty Choice in the Credit Default Swap Market," Working Paper.
  • Gregory, J. (2015), "The XVA Challenge: Counterparty Credit Risk, Funding, Collateral and Capital," John Wiley & Sons, Hoboken, New Jersey.
  • Hau, H. P. Hoffmann, S. Langfield, and Y. Timmer (2021), "Discriminatory Pricing of Over-the-Counter Derivatives," Management Science, 67, pp. 6629-7289.
  • Miyakawa, D., T. Oda, and T. Sone (2023), "Regulatory Reforms and Price Heterogeneity in an OTC Derivative Market [PDF 3,489KB]," BOJ Working Paper Series 23-E-12, Bank of Japan.
  • 斎藤祐一(2016)、『金融規制の複合的影響を考慮したXVA』、IMES Discussion Paper Series No. 2016-J-13、日本銀行金融研究所.

日本銀行から

本稿の内容と意見は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではありません。