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「調整インフレ」による政府債務の負担軽減は可能か?

債務の実質価値減少 対 利払い負担増加のシミュレーション分析

2000年 4月28日
松井聖 *1
藤原茂章*2

日本銀行から

日本銀行金融市場局ワーキングペーパーシリーズは、金融市場局スタッフ等による調査・研究成果をとりまとめたもので、金融市場参加者、学界、研究機関などの関連する方々から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、 論文の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融市場局の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに対するお問合せは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (kwp00j07.pdf 210KB) から入手できます。

  1. *1日本銀行 金融市場局 金融市場課 E-mail: sei.matsui@boj.or.jp
  2. *2日本銀行 金融市場局 金融市場課 E-mail: shigeaki.fujiwara@boj.or.jp

(要旨)

  •  調整インフレによる政府債務の負担軽減が議論されることがあるが、これを議論する場合には、インフレによる債務残高の実質的な減少効果と、インフレに伴う新規発行国債の金利負担の増加を比較考量する必要がある。本稿は、シミュレーション分析を通じてこの比較考量を行ってみたものである。
  •  シミュレーション結果によると、インフレ・ショックによって期待インフレ率が上昇しても、名目金利がそれに見合って上昇しなければ、言い換えれば、フィッシャー効果が作用しなければ、利払い費の負担増加は限定的なものに止まるため、インフレがもたらす政府債務の実質的な負担軽減効果は大きい。
  •  しかし、フィッシャー効果が作用する下では、利払い費の負担増加は限定的なものには止まらず、インフレによる債務残高の実質的な減少効果を概ね相殺し得るほどのインパクトを持つ。
  •  さらに、ゼロ金利およびゼロ・インフレの状態に対してインフレ・ショックを与えた場合には、期待インフレ率に上乗せする形で名目金利にプレミアムが要求される可能性があり、この場合には、インフレによる債務残高の実質的な減少効果を上回る利払い負担が生じる惧れもある。
  •  一方、インフレ・ショックが一時的に発生しても、中央銀行がインフレを十分抑制し得る場合には、政府債務の短期化は、金利負担増を抑える効果を持つ。しかし、中央銀行がインフレを抑制する能力を失ってしまう場合や、信認性の低下等により政府が債務の短期化に追い込まれるような場合には、その時々の高い市場金利に直面することとなり、金利負担は一段と増大してしまう。