このページの本文へ移動

通貨危機の深度に影響を与える諸要因について

−ファンダメンタルズ、コンテージョン、国際資本取引の自由度−

2002年 7月3日
服部正純

日本銀行から

日本銀行国際局ワーキングペーパーシリーズは、国際局スタッフによる調査・研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは国際局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに対するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せください。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (iwp02j02.pdf 226KB) から入手できます。

要旨

 本稿では、メキシコ通貨危機(1994〜95年)と東アジア通貨危機(1997年)での通貨危機の「深度」を、分析対象国のファンダメンタルズに関連するいくつかの経済指標とコンテージョン(通貨危機の伝播)・チャネルによって実証的に分析することにより、これらの要因が通貨危機の深度に与える影響の大きさを評価した。

 本稿での実証分析の結果の要点は以下の通りである。

  1.  通貨危機理論が重要性を強調している経済指標の、通貨危機の深度に関する説明力は、個別の通貨危機で異なっている。1つの通貨危機で説明力がある経済指標であっても、他の通貨危機時に説明力を持つとは限らない。
  2.  「ファンダメンタルズが極端に悪く、同時に、流動性枯渇の可能性が高い場合のみ、ファンダメンタルズに関連する個別経済指標の悪化は通貨危機の深度を大きくする」といった仮説は、東アジア通貨危機のサンプルでは受け入れられないが、メキシコ通貨危機のサンプルでは受け入れられる。
  3.  コンテージョン・チャネルの説明力は確認された。特に、ファンダメンタルズ関連の経済指標の説明力が低い東アジア通貨危機では、コンテージョン・チャネルの効果も加えることによって、回帰式の説明力は大きく向上した。
  4.  各国が経験した通貨危機の深度は経済指標とコンテージョン・チャネルだけでは十分に説明できないことが示唆された。そこで、通貨危機の深度に影響を与える他の要因として、国際資本取引の自由度に注目し、東アジアの主要数カ国を対象として、東アジア通貨危機時の国際資本取引の自由度と通貨危機の深度の相関に関する予備的な考察を試みた。その結果、国際資本取引の自由度が高い国ほど、通貨危機の深度が大きいという因果関係の存在が示唆された。

 以上の分析結果は、通貨危機から被る影響を小さくするには、健全な国内経済政策(ISバランス、銀行貸出内容の健全性等)と良好な対外流動性ポジションが必要であることを示唆している。また、これまで十分に分析されていない国際資本取引の自由度と通貨危機の深度との関係の重要性も示唆されている。