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学習行動を導入した最近の金融政策ルール分析 −経済構造に関する知識が不完全な下での期待形成と政策運営−*1

2004 年 2月
武藤一郎*2

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局広報課までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

以下には(要旨)を掲載しています。

  1. *1本稿の作成に際しては、青木浩介助教授(ポンペウ・ファブラ大学)、Seppo Honkapohja 教授(ヘルシンキ大学)、および鵜飼博史氏、木村武氏、小田信之氏をはじめとする日本銀行企画室のスタッフから貴重なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。ただし、あり得べき誤りは筆者に属する。また、本稿で示される内容や意見は、筆者個人に属するものであり、日本銀行および同企画室の公式見解を示すものではない。
  2. *2日本銀行 企画室 e-mail: ichirou.mutou@boj.or.jp

(要旨)

金融政策ルールに関する従来の分析では、「民間主体も中央銀行も、マクロ経済の構造に関して正確な知識を持っている」という完全知識の仮定が置かれることが多かった。しかし、現実の経済では、両主体が先験的に正確な知識を持ち合せているということは考え難い。人々の知識は少なくとも事前的には不完全であり、過去ないし現在の経済を観察することによって、経験的に知識を習得していると考えるのがむしろ自然であろう。

こうした考え方に基づき、近年、金融政策ルール分析の分野では、人々の知識が不完全で、学習(learning)により知識を習得する行動を導入した研究が活発に行われている。知識が不完全である場合、人々は先行きの経済に対して合理的期待を形成できないため、学習により得た知識を基に期待を形成する。中央銀行が経済を安定的にするためには、適切な金融政策ルールを選択することにより、学習に基づく期待を合理的期待へと収束させる必要がある。

本稿は、学習を導入した最近の金融政策ルール分析をサーベイし、「人々の知識が不完全であるという現実的な想定の下では、中央銀行はどのような政策運営を心掛ける必要があるか」という観点から、理論的含意を取り纏めたものである。

キーワード:
金融政策ルール、合理的期待、不完全知識、適応的学習、E-stability、テイラー・プリンシプル、流動性の罠
JEL分類番号:
D83、D84、E52、E58