このページの本文へ移動

銀行手数料ビジネスの動向と経営安定性

2006年12月
稲葉圭一郎*1
服部正純*2

要旨

本稿では、わが国商業銀行の手数料ビジネスの拡大が収益変動性と経営安定性に及ぼす影響を、パネルデータを使った分析によって検証する。米銀を対象とした先行研究では、手数料ビジネスの拡大が、収益の変動性を高め、それが経営安定性の低下につながったことが指摘されている。わが国商業銀行を対象とした本稿の分析結果によれば、1990年代後半までは、先行研究と同様に手数料ビジネス利益と資金利益の順相関関係が確認される。しかし、2001年度から2005年度にかけては、両者の間に有意な順相関が観察されず、手数料ビジネスの拡大が収益の変動性を高めるのではなく、収益増加を通じて経営安定性の向上に寄与している。その背景としては、2001年度以降においては、(1)企業の過剰債務削減の動きや極めて緩和的な金融環境のもとで、資金利益と景気変動との相関が弱まっていたこと、(2)規制緩和等により手数料ビジネスが急激に拡大していたこと、等を指摘できる。今後、金融環境の変化等により、手数料ビジネス利益と資金利益の順相関関係が復活すれば、収益の変動性が上昇し、そのこと自体は経営安定性の低下要因として作用し得る。もっとも、経営安定性は、収益の変動性のみならず、収益性や自己資本の充実度にも大きく影響される。よって、今後、金融システムの構造変化や銀行業務の多様化がさらに進むと予想される中、手数料ビジネスの拡大が収益の変動性を過度に高めることなく、収益性を押し上げ、資本の増強を容易にすることを通じて、銀行の経営安定性に資する要因となっていくかどうかが注目される。

本稿の作成にあたっては、市村英彦氏(東京大学)、北村行伸氏(一橋大学)、関根敏隆氏(BIS)、「金融マクロ経済学の現在」コンファレンス(現代経済学研究会<東北大学>・マクロ経済学研究会<大阪大学、京都大学>共催)の参加者、および日本銀行金融機構局スタッフから詳細なコメントをいただいた。また、同局経営分析担当スタッフの山縣良行氏(現、日興シティ証券)と片桐満氏の両氏からは分析に利用するデータの収集に協力を得た。ここに記して感謝したい。ただし、本稿で示されている意見は日本銀行あるいは金融機構局の公式見解を示すものではない。また、あり得る誤りは全て筆者に属する。

  1. *1日本銀行金融機構局大手銀行担当 Email: keiichirou.inaba@boj.or.jp
  2. *2日本銀行金融機構局経営分析担当 Email: masazumi.hattori@boj.or.jp

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。