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企業の価格見通しの硬直性:短観DIを用いた分析

2010年2月
鎌田康一郎 *1
吉村研太郎 *2

要旨

『企業短期経済観測調査』(短観)の販売価格判断DIと仕入価格判断DIには、実際の物価指数の動向と比較して、それぞれ、「下落」超、「上昇」超になり易いという傾向(バイアス)がある。こうしたバイアスは、回答にあたっての企業心理が影響している面もあると考えられ、統計作成段階で修正することは難しい。そこで本稿では、定性データであるDIを、回答バイアスを除去した上で定量化する手法を提案する。同手法を短観の販売価格の先行き判断DIに適用したところ、製造業全体でみて、販売価格の上昇を予想している企業の7割に回答バイアスがあることが分かった。こうしたバイアスは、川下の業種ほど大きくなるという傾向がある。また、企業規模別の仕入価格変化率を推計し、販売価格動向と比較したところ、中小企業は、2000年代半ばの仕入価格の高騰を販売価格に転嫁できておらず、賃金や利益の圧迫要因となっていたことが分かった。さらに、こうした企業規模別の価格データをもとに、従来は計測の難しかった企業規模別の実質生産性上昇率の推計を行ったところ、一人当り名目付加価値の企業規模間格差の拡大は、価格転嫁力格差のみならず、実質生産性上昇率格差の拡大が背景になっていた点も明らかとなった。

本稿の作成に当っては、一上響、上田晃三、白塚重典、関根敏隆、中山興、西崎健司、肥後雅博、藤木裕、渕仁志の各氏をはじめとする日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂いた。また、柴崎彩奈氏からは、計数作成においてご協力を頂いた。この場を借りて感謝の意を表したい。もちろん、あり得べき誤りは、全て筆者に帰属する。なお、本稿に記された内容や意見は、全て筆者個人に属し、日本銀行および企画局、金融機構局、金融市場局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 現・金融機構局 E-mail : kouichirou.kamada@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 現・金融市場局 E-mail : kentarou.yoshimura@boj.or.jp

日本銀行から

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