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インターバンク市場におけるレファレンス・レートの役割に関する理論的考察

2012年12月10日
武藤一郎*1

全文掲載は、英語のみとなっております。

要旨

本稿では、インターバンク市場におけるレファレンス・レートが、市場の安定化(あるいは不安定化)をもたらすメカニズムについて、理論的に考察する。具体的には、個々の銀行が、自らの関与する取引に影響を及ぼすショック(例えば流動性ショックや信用リスクに関するショック)の持つ性質を、不完全にしか認識することができないという状況設定を考える。こうした状況下で、レファレンス・レートの存在は、それがノイズ(報告誤差)を含まず、十分なサンプル数の取引に基づいて形成されている限り、市場全体の金利変動の安定化に寄与する。しかし、レファレンス・レートがノイズの要素を含む場合には、市場の安定化効果は著しく損なわれる。仮にノイズが個々の取引において個別的に発生しているのであれば、レファレンス・レートの算出基礎となる取引のサンプル数を増やすことで、ノイズのもたらす悪影響は軽減される。しかし、ノイズが複数の取引に共通する性質を持つならば、サンプル数の増加では悪影響は除去されない。これらの結果は、多数の取引を行う大銀行によって報告される金利にノイズが含まれれば、それは市場全体の金利変動を拡大させ、結果として金融政策のトランスミッション・メカニズムを毀損することを示唆している。

本稿の作成に当たっては、鎌田康一郎、青木浩介、小林照義、木村武、一上響、西崎健司、永幡崇、須藤直、小田剛正、の諸氏から貴重な助言・コメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。ただし、本稿で示した見解は筆者個人に帰属するものであり、日本銀行および調査統計局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : ichirou.mutou@boj.or.jp

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