このページの本文へ移動

GDPのナウキャスティング(足もと予測)のための新たな月次推計手法 :日本への応用例

2013年10月15日
原尚子*1
山根渉太郎*2

全文掲載は、英語のみとなっております。

要旨

本稿では、GDP成長率のナウキャスティング(Nowcasting、足もと予測)に関する新たな手法を提案する。ナウキャスティングとは、速報性に優れるデータを用いて、足もと未公表の指標の動きを予測する手法のことを指す。

GDPは、経済情勢を把握するうえで極めて重要な指標であるが、わが国の場合、対象となる四半期の終了から一次速報値の公表までに約6週間を要するうえ、四半期統計であるため、月々の景気情勢の判断や短期的な変動の分析に用いることはできない。こうした問題に対処するため、近年、学界をはじめ、各国中央銀行や国際機関において、高頻度データを用いたGDPのナウキャスティング手法の開発が急速に進められてきている。

本稿の手法は、速報性の高い多数の経済指標を利用して月次GDPを推計し、それを用いて足もと(前四半期)の実質GDP成長率を予測する、というものである。手法としての目新しさ、特徴としては、大きく下記の2点が挙げられる。

  1. 月次GDPを推計するためのモデルについては、(1)限られた代表的な変数(具体的には、鉱工業生産および第3次産業活動指数)のみを用いてGDP変動の大部分を説明した後、(2)多数のGDP基礎統計から抽出した主成分を用いて残りの変動部分を説明する、という2段階構造を採っている。近年、GDPのナウキャスティング手法の主流は、推計に用いるデータを予め厳選する「ブリッジ・モデル」から、多数の情報を少数の要素に集約して推計に用いる「ファクター・モデル」へと移ってきている。本稿の手法は両方の仕組みをバランス良く取り入れたものであり、わが国の経済変動における鉱工業生産指数等の重要性を考慮しつつ、約500系列もの基礎統計を数個の主成分に集約することで、予測作業の効率性も高めている。なお、モデルの推計にあたって、各期のGDPと同時点の情報のみを利用している点も特徴である。
  2. GDPの各基礎統計が持つ情報の種類の違いに着目し、多数の基礎統計を(1)需要側統計と(2)供給側統計に分けたうえで、それぞれを別個の主成分に集約する、という手法を採用している。さらに需要側統計については、需要コンポーネントに応じたグループ分けを行ったうえで、各グループから主成分を抽出している。本稿の分析からは、このように情報の種類に応じた基礎統計のグループ分けを行って主成分を抽出したことが、実際のGDPに対するモデルの当てはまりの向上に貢献した、との結果が得られている。

本稿の手法によるわが国の実質GDP成長率のナウキャスティングのパフォーマンスをみてみると、GDP1次速報値の公表の約6週間前という比較的早いタイミングにおける予測精度については、主要民間調査機関による予測を平均的に上回るという結果が得られた。また、2次速報値公表の約1週間前においても、本稿の手法による予測精度は、主要民間調査機関による予測を平均的に上回っている。

本稿で提案する手法は、GDP統計の作成方法をできる限り踏まえたうえで、大量のデータを最大限効率的に活用することを追求したものである。実践的には統計作成面の違いなどに配慮する必要はあるものの、原理的には、諸外国のGDP成長率のナウキャスティングにも応用可能と考えられる。

キーワード
ファクター・モデル、経済予測、ナウキャスティング、月次GDP、リアルタイム・データ
  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : naoko.hara@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局(現・金融市場局) E-mail : shoutarou.yamane@boj.or.jp

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せください。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局(post.prd8@boj.or.jp)までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。