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対内直接投資の産業間スピルオーバー効果

2013年7月18日
岩崎雄斗*1

要旨

わが国への対内直接投資は極めて低い水準であるが、先行き、対内直接投資が拡大した際に、わが国経済の成長・生産性に与える影響について明らかにすることは、わが国の経済成長を展望する上で重要である。海外を対象とした実証分析では、外資系企業の参入自体に伴う直接効果や、直接投資が行われた企業から他の企業へのスピルオーバー効果について、国内経済の生産性に対してプラスとの報告が多くみられる。一方、わが国を対象とした分析では、直接効果については多くの研究でプラスとの結論が得られているものの、他企業へのスピルオーバー効果に関する先行研究は少なく、とりわけ、直接投資が行われた企業と関連する他産業へのスピルオーバー効果(産業間スピルオーバー効果)を対象とした先行研究は、筆者の知る限り存在しない。

本稿では、わが国製造業企業を対象に、2000年代以降の企業レベルデータを用いて、スピルオーバー効果の計測を含む実証分析を行った。その結果、外国資本比率の高まりは、投資を受けた企業の生産性を改善するだけでなく、製品の納入先など関連産業に属する他の企業にもプラスの影響を与えうることが示唆された。具体的には、産業連関上の「川上」に位置する産業の外国資本比率が高まると、その「川下」に位置する製造業企業の生産性が統計的に有意に上昇すること、すなわち川上産業から川下産業へのプラスのスピルオーバー効果が存在することが明らかになった。「生産性が高い企業ほど、外国資本比率が高まりやすい」という逆の因果関係から生じる内生性の問題を考慮したケースや、外国資本の定義をより厳しくしたケースでも、こうした結果の頑健性が確認された。

これらの結果は、生産性の高いグローバル企業の国内参入が、企業間の技術のスピルオーバー等のチャネルを通じて、わが国製造業全体の生産性向上に望ましい影響を与えてきた可能性を示唆している。

  1. *1日本銀行調査統計局(現・総務人事局) E-mail : yuto.iwasaki@bc.edu

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