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国債市場の流動性:取引データによる検証

2015年3月19日
黒崎哲夫*1
熊野雄介*2
岡部恒多*3
長野哲平*4

要旨

市場の「流動性」が高い、あるいは低いといった表現は良く使われるが、その意味するところは必ずしも一様ではなく、「流動性」を定量的に測定することも容易ではない。そうした制約を踏まえたうえで、本稿では長期国債先物、現物国債、SCレポなどさまざまな市場の取引データを用いて新たな流動性の諸指標を構築し、国債市場の流動性について多面的に考察する。先物市場のビッド・アスク・スプレッドや値幅・出来高比率といった伝統的な指標をみる限りでは、2014年10月の量的・質的金融緩和の拡大以降も、国債市場の流動性は目立っては低下していないようにみられる。しかしながら、先物市場におけるいわゆる「板」の厚みや1回の取引が市場価格に及ぼす影響、現物国債市場における証券会社の提示レートのばらつき、SCレポ市場における国債の「貸借料」など、本稿が新たに取り上げる諸指標は、2014年秋以降、国債市場の流動性が低下していることを示唆している。これは、この時期の長期金利の急激な低下や短期・中期ゾ−ン金利のマイナス化を反映した一時的なものである可能性がある一方、日本銀行による巨額の国債買入れや市場の構造変化、金融規制の変化などを反映している可能性もあろう。国債市場の流動性については、今後とも幅広い指標を用いながら継続的かつ多面的に点検していくことが有益と考えられる。さらに、市場参加者とのコミュニケーションを通じて、上述のような各種指標に表れにくい市場流動性に関する見方なども丁寧に確認していくことが求められる。

キーワード
国債市場、市場流動性、取引データ、SCレポ

本稿の作成過程で日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。この場を借りて、深く感謝の意を表したい。なお、本稿の意見は筆者たち個人に属し、日本銀行の公式見解を示すものではない。また、ありうべき誤りはすべて筆者たち個人に属する。

  1. *1日本銀行金融市場局 E-mail : tetsuo.kurosaki@boj.or.jp
  2. *2日本銀行金融市場局 E-mail : yuusuke.kumano@boj.or.jp
  3. *3日本銀行金融市場局 E-mail : kouta.okabe@boj.or.jp
  4. *4日本銀行金融市場局 E-mail : teppei.nagano@boj.or.jp

日本銀行から

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