わが国の賃金動向に関する論点整理
2023年2月15日
大久保友博*1
城戸陽介*2
吹田昂大郎*3
高富康介*4
幅俊介*5
福永一郎*6
古川角歩*7
法眼吉彦*8
要旨
本稿では、日本の名目賃金を上がりにくくしていた様々な要因について米欧と比較しつつ整理し、それらの一部については感染症拡大の前後において変化の兆しがみられることを示す。具体的には、人口動態も反映した労働供給面から生じる労働需給の引き締まり、パート労働者比率の上昇トレンドの頭打ち、転職市場が賃金上昇を伴う形で活発化する兆し、賃上げ交渉における物価上昇への意識の高まり、といった点を指摘する。今後の日本の賃金上昇のペースや持続性を展望するうえで重要な論点としては、(A)一般労働者の中でも相対的に雇用流動性が低い労働者も含めて賃金が幅広く上昇するか、(B)企業の成長期待が高まって投資活動が活発化し労働生産性の上昇につながるか、(C)スキルアップを通じた労働移動が円滑に行われるか、(D)低インフレのノルムのもとで賃上げが抑制されていた状況が変わって物価と名目賃金が共に上昇していくか、といった点が挙げられる。
- JEL 分類番号
- J20、J30
- キーワード
- 賃金、労働市場、物価
本稿の内容は、日本銀行の「コロナ禍における物価動向を巡る諸問題」に関するワークショップ・第3回「わが国の賃金形成メカニズム」(2022年11月25日)の第1セッションにて発表された。本稿の作成にあたっては、指定討論者の神林龍氏のほか、青木浩介氏、植田和男氏、川口大司氏、小枝淳子氏、陣内了氏、星岳雄氏、渡辺努氏および日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。図表の作成では、加来和佳子氏に助力をいただいたほか、Orsetta Causa氏からは米欧の労働市場に関するデータの提供を受けた。また、経済産業省「企業活動基本調査」および厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の調査票情報の提供を受けた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。
- *1日本銀行調査統計局 E-mail : tomohiro.ookubo@boj.or.jp
- *2日本銀行調査統計局 E-mail : yousuke.kido@boj.or.jp
- *3日本銀行調査統計局 E-mail : koutarou.suita@boj.or.jp
- *4日本銀行調査統計局 E-mail : kousuke.takatomi@boj.or.jp
- *5日本銀行調査統計局 E-mail : shunsuke.haba@boj.or.jp
- *6日本銀行調査統計局 E-mail : ichirou.fukunaga@boj.or.jp
- *7日本銀行調査統計局 E-mail : kakuho.furukawa@boj.or.jp
- *8日本銀行調査統計局 E-mail : yoshihiko.hougen@boj.or.jp
日本銀行から
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