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求人広告情報を用いた正社員労働市場の分析

2023年3月15日
古川角歩*1
城戸陽介*2
法眼吉彦*3

要旨

本稿では、オンライン求人サイトに2015年から2022年の間に掲載された約580万件の正社員求人広告情報を使用し、わが国正社員労働市場の需給や賃金の動向について分析を行った。分析の結果、公的統計だけでは捉えきれない同市場の側面が幾つか明らかとなった。第一に、求人と求職者がマッチする割合(マッチ率)が低下しており、企業は、求人倍率などが示す以上に、人材獲得の困難さに直面している可能性がある。第二に、こうしたマッチ率低下の背景として、企業が求める人材の「スキル」が高まっている。企業が無形固定資産を蓄積するもとで、それらと補完的な高スキル人材への需要が増加していると考えられる。第三に、求人の募集賃金は、労働需給全般が引き締まる中、高スキル人材への需要拡大が牽引する形で、はっきりと上昇している。第四に、こうした求人市場における募集賃金の上昇は、ラグを伴ってマクロでみた正社員の平均賃金を押し上げていくことが示唆される。具体的な波及経路としては、(1)従業員にとって転職を検討する際の賃金(外部オプション)が上がり、人材を引き留めるために企業が賃金を引き上げる経路(外圧効果)と、(2)求人を掲載している企業が、募集賃金との整合性を取るために自社の従業員賃金を引き上げる経路(内圧効果)の存在が示唆された。

JEL 分類番号
J23、J24、J30

キーワード
求人広告情報、オルタナティブデータ、募集賃金、労働需要、要求スキル

本稿の作成にあたっては、青木浩介氏、安藤雅俊氏、木全友則氏、代田豊一郎氏、陣内了氏、長野哲平氏、福永一郎氏、および日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。また、経済産業省「企業活動基本調査」および厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の調査票情報の提供を受けた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : kakuho.furukawa@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : yousuke.kido@boj.or.jp
  3. *3日本銀行調査統計局 E-mail : yoshihiko.hougen@boj.or.jp

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
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