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消費者物価への非線形なコストパススルー:閾値モデルによるアプローチ

English

2023年5月22日
佐々木貴俊*1
山本弘樹*2
中島上智*3

要旨

本稿では、企業のコスト上昇による消費者物価上昇率への影響(パススルー)に、コスト上昇の大きさに応じた非線形性が存在するかを検証する。具体的には、コストの上昇率がある一定の閾値を超えるとパススルーの度合いが大きくなるかを、わが国のデータを用いて実証分析する。主な実証結果は以下の3点である。(1)企業物価や為替、賃金の上昇率がそれぞれの閾値を超えた場合、消費者物価上昇率へのパススルーの度合いは大きくなる。(2)このようなパススルーの非線形性を勘案したモデルは、データへのフィットおよび予測精度が従来の線形モデルよりも優れており、線形モデルから得られたパススルーの度合いは、閾値を上(下)回った場合に過小(大)評価であることが示唆される。(3)企業物価と為替の変動の非線形なパススルーは一過性であることが多い一方、賃金変動はそれ自体に高い慣性がみられることから、賃金上昇の非線形なパススルーは持続的な傾向がある。これらの結果は、今後の消費者物価の動向を考えるうえで、賃金上昇の非線形的なパススルーの発現が重要な論点の一つであることを示唆している。

JEL 分類番号
C24、E31、E58

キーワード
インフレ率、パススルー、非線形性、閾値モデル

本稿の作成にあたり、Luiggi Donayre氏、Benjamin Wong氏、代田豊一郎氏、30th SNDE Annual Symposiumでのセミナー参加者、および日本銀行スタッフから有益なコメントを頂戴した。また、平田篤己氏には分析の補助をして頂いた。記して感謝の意を表したい。もちろん、本稿のあり得べき誤りは、全て筆者たち個人に属する。なお、本稿に示される内容や意見は、筆者たち個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail : takatoshi.sasaki@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : hiroki.yamamoto@boj.or.jp
  3. *3一橋大学経済研究所および日本銀行企画局 E-mail : nakajima-j@ier.hit-u.ac.jp

日本銀行から

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