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家計の賃金予想の形成メカニズム:
物価予想との連関

2026年3月30日
近藤卓司*1
高富康介*2
高橋優希*3

要旨

本稿では、わが国の家計向けアンケート調査の個票データを用いて、家計の賃金予想が、物価予想にどの程度連関して形成されているか、定量分析を行った。期間別に推計した結果をみると、わが国の家計においては、近年、賃金予想と物価予想の連関度が高まっていることが分かった。また、家計属性別に連関度の違いを検証すると、労働者の組合加入状況や所得水準に加え、労働需給の逼迫度や雇用流動性といった労働者が直面する雇用環境が、家計間の連関度の違いに統計的に有意に関係していることが分かった。わが国では、人口高齢化等の影響もあって、追加的な労働供給余地が縮小しつつあるが、こうした構造的な要因が、近年の連関度の高まりに対して、一定程度寄与している可能性が考えられる。さらに本稿では、こうした連関度の高まりが、家計の支出スタンスにどのような影響を及ぼすか検証した。分析結果をみると、連関度が高い家計ほど、物価上昇局面において、実質所得予想の悪化が抑制され、支出意欲が相対的に高く維持される傾向にあることが分かった。この結果は、賃金予想が物価予想に適度に連関して形成されることが、消費の低迷を防ぎ、持続的な経済成長を達成する上で重要な要素の1つである可能性を示唆する。

JEL 分類番号
D12、D84、E21、E24、E31
キーワード
物価予想、賃金予想、賃金交渉力、支出スタンス、サーベイデータ

本稿の執筆に当たっては、伊藤雄一郎氏、奥野聡雄氏、落香織氏、開発壮平氏、加藤直也氏、倉知善行氏、黒住卓司氏、中島上智氏、中村康治氏、南貴大氏、宮崎順子氏、八木智之氏ほか、日本銀行スタッフから有益なコメントを頂戴した。また、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブから、「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート」(連合総合生活開発研究所)の個票データの提供を受けた。ここに記して感謝したい。ただし、残された誤りは全て筆者らに帰する。なお、本稿の内容と意見は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail : takuji.kondou@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : kousuke.takatomi@boj.or.jp
  3. *3日本銀行企画局(現・前橋支店) E-mail : yuuki.takahashi@boj.or.jp

日本銀行から

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