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【挨拶】わが国経済・物価情勢と金融政策:マクロ的な需給バランス、物価、賃金の関係について

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沖縄県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 白井 さゆり
2014年5月29日

目次

1.はじめに

皆様、おはようございます。本日はご多忙のところを、沖縄県の行政ならびに経済界を代表する皆様にお集まり頂き、有難うございます。当地を訪問し、懇談の機会を頂きましたことをとても嬉しく思っております。また、皆様には、日頃から日本銀行那覇支店の業務運営にご協力頂いており、この場をお借りして、改めて御礼を申し上げます。

まず初めに、本日の私からの挨拶の流れについてご説明いたします。日本銀行は本年4月末に公表した「経済・物価情勢の展望」(以下、「展望レポート」)において2014〜2016年度の経済・物価の見通しを示しましたので、まずはこの内容をご紹介したいと思います。次に、これに関連して、日本銀行が掲げる、2%の物価安定目標の実現に向けた道筋を考えるうえで重要なキーワード―景気の強さを測る尺度の一つである「マクロ的な需給バランス(需給ギャップ)」―に焦点を当てて、それらが物価や賃金とどのように関わっているのかについてお話しいたします。最後に、沖縄県の経済情勢について簡単に触れたいと思います。その後、皆様方から、当地経済の実情に関するお話や、日本銀行の金融政策に対する率直なご意見等をお聞かせ頂ければ幸いです。

2.わが国の経済・物価情勢の展望

それでは、展望レポートをもとに、わが国の経済・物価情勢についての日本銀行の「中心的な見通し」とその見通しの上振れ・下振れ(リスク)要因について、私の見解と併せてご説明します。その後、日本銀行の対外的なコミュニケーションの方針について、展望レポートで行った工夫にも触れつつご紹介したいと思います。

(1)経済の見通しと上振れ・下振れ要因

わが国の景気は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられていますが、基調的には緩やかな回復を続けています。2013年度の経済成長率は、輸出が伸び悩んだことを主因に、昨年10月と本年1月の見通し対比で下振れましたが、国内需要が堅調に推移するもとで、景気の前向きの循環メカニズムはしっかりと作用し続けています。

なお、輸出の伸び悩みについては、海外生産移管の拡大、国際競争力の低下、世界経済の回復力の弱さのほか、米国での悪天候による経済活動の減速や国内の駆け込み需要への対応から国内向け出荷を優先するといった一時的な要因も影響したとみています。この点、私は昨年10月に、展望レポートにおける景気見通しのリスク評価について、「上下にバランスしている」との議長案に反対し、輸出が想定よりも弱含むリスク等から「下振れリスクを意識する必要がある」と主張しました。結果として、この私の懸念が顕在化するかたちになったと思います。

他方、内需は堅調に推移しています。この背景には、公共投資、住宅投資、消費に支えられて非製造業の活動が活発化したことで、労働需給が引き締まったことや設備の過剰感が概ね解消したことがあります。従いまして、景気は着実に回復しており、日本銀行の基本シナリオから外れていないと判断しています。

経済の中心的な見通しについては、国内需要が堅調さを維持する中で、海外経済が先進国を中心に緩やかに回復するにつれて、輸出も緩やかながら増加していくと見込まれ、生産・所得・支出の好循環は持続するとしています(図表1)。また、金融緩和的な環境も経済活動を引き続き下支えします。さらに、政府による成長戦略の推進、企業による生産性向上と内外需要の掘り起こし等もあって、企業・家計の中長期的な成長期待は緩やかに高まると見込まれます。このため、見通し期間(2014〜16年度)を通じて、経済成長は潜在成長率を上回ると予想しています。

ここで私の見解を申し上げますと、この中心的な見通しにほぼ沿っていますが、政策委員見通しの中央値対比では幾分慎重にみています。本年4−6月は、駆け込み需要の反動で経済成長率は一旦はマイナスとなりますが、その後は回復基調に復し、見通し期間を通して、経済成長率は潜在成長率を上回って推移すると予想しています。

続いて、経済の中心的な見通しに対するリスク要因として、展望レポートでは、輸出動向、消費税率引き上げの影響、企業・家計の中長期的な成長期待、財政の中長期的な持続性を挙げつつ、全体として「リスクは上下にバランスしている」と評価しています。

この点の私の見解としては、昨年10月及び本年1月対比では幾分リスクは低下しているとみていますが、引き続き「下振れリスクを意識する必要がある」と判断しています。具体的には、まず、輸出が想定より緩やかに留まるリスクがあります。米国経済では住宅市場の回復や長期失業者・非自発的なパート労働者の雇用改善が遅れて内需・輸入が堅調に改善しない可能性があります。また、新興諸国経済のもたつき、欧州のディスインフレ、地政学的問題等がもたらす下振れリスクも注視しています。さらに、国内の消費の基調も弱まるリスクがあります。これは、名目賃金の改善が(消費税率引き上げを含む)物価上昇率に追いつかずに実質所得の減少が見込まれること、それにより消費者マインドや中長期的な成長・所得期待が改善しない可能性があるからです。

なお、所得環境の評価に関して、私は本年1月から4回連続して、金融政策決定会合の「対外公表文」のリスク要因の記述に関して、反対を表明してきました。これは、先行きのリスク要因として海外要因のみが挙げられ、「国内の雇用・所得環境の改善ペース」について触れられていないことに違和感を覚えたからです。しかし、この私の懸念について、今回の展望レポートでは、昨年10月の同レポートの記述をほぼ踏襲する形で、リスク要因として「消費税率引き上げの影響」を明記しています。また、雇用・所得環境、物価の動向に加えて、新たに「消費者マインド」の変化によっても消費が影響を受け得ることを指摘しており、私の懸念が共有されていることが確認できたと考えています。

(2)物価の見通しと上振れ・下振れ要因

総合から生鮮食品を除く消費者物価(以下、CPI[除く生鮮食品])の前年比は、ひところに比べてプラス幅を拡大しており、このところ1%台前半で推移しています1。物価上昇率に影響を及ぼす主たる要因は、「需給ギャップ」、「中長期的な予想物価上昇率」及び輸入物価ですが、これらの動きを点検すると、需給ギャップは改善しており、最近では過去の長期平均並みのゼロ%近傍に達しているとみられます。中長期的な予想物価上昇率は、全体として上昇しています。また、輸入物価については、エネルギーを中心とした物価への押し上げ効果は幾分弱まりつつあります。

物価の中心的な見通しについては、物価上昇率は暫くの間、現在の1%台前半で推移したあと、2014年度後半から再び上昇傾向をたどり、「見通し期間の中盤頃に2%程度に達する可能性が高い」とみています。その後次第に2%を安定的に持続する成長経路へと移行していくと予想しています(図表2)。この背景ですが、需給ギャップは、駆け込み需要の反動が一服した後、改善を続けて物価の押し上げに寄与すると見込まれます。また、中長期的な予想物価上昇率は、全体として緩やかな上昇傾向を続けるとみています。輸入物価は、国際商品市場や円安のラグ効果が弱まるもとで、エネルギーを中心とした物価の押し上げ効果が本年夏頃にかけて減衰していくと予想しています。

私の物価見通しを申し上げますと、2014年度の物価上昇率は、エネルギーの押し上げ効果の減衰や昨年上昇した品目の裏の影響から夏頃までは(1%台を維持しつつも)幾分低下した後、2014年10−12月頃から緩やかに上昇に転じるとみています。しかし、この転換期において、(以前から横ばいで推移している)家計の中長期の予想物価上昇率が上昇傾向を示すには時間がかかるとみられることから、物価上昇率は中心的な見通しよりも緩やかなペースになると考えています(図表3)。

2015年度以降の私の見通しについては、「2015年度平均で1%半ばかそれを若干上回る程度に達し、見通し期間の終盤にかけて2%に達している可能性が高い。その後、次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していく」との見方をしています。私は、昨年4月以降、「2015年度末には2%程度に近づいていく」との判断を示したうえで、「見通し期間の後半にかけて、2%程度に達する可能性が高い」とする展望レポートの中心的見通し表現の「下限」にぎりぎり収まると判断してきました。しかし、今回、新たに2016年度までの予測を示すに際し、「2%程度」という幅のある表現ではなく、日本銀行の物価安定目標である「2%」の達成時期を、明確に示すべきだと判断しました2

物価の中心的見通しのリスク要因については、展望レポートでは、企業・家計の中長期的な予想物価上昇率の動向、マクロ的な需給バランス、物価上昇率のマクロ的な需給バランスに対する感応度、輸入物価の動向を挙げつつ、全体として「リスクは上下に概ねバランスしている」と評価しています。

この点、私の見解を申し上げますと、昨年10月及び本年1月対比ではリスクは幾分低下していますが、引き続き「下振れリスクを意識する必要がある」とみています。2%の実現に向けた道筋はこれまでのところ概ね順調ですが、先行きの「2%の達成時期」、その後の「2%を安定的に持続する成長経路へと移行していく時期」については不確実性があります。とくに、2%が安定的に持続すると判断するには、2回目の消費税率引き上げ後の動向を確認する必要があると思います。

なお、私の経済・物価の見通しは、「2%の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、量的・質的金融緩和を継続する」との現行の枠組みのもとで、2015年以降も金融緩和が継続されることを前提にしています。重要な点は、日本銀行は一時的に2%を実現すればよいと考えているのではなく、持続的な成長を伴いながら「2%の安定的な実現」を目指して金融緩和を実施していることです。この「フレキシブル・インフレーション・ターゲティング」の枠組みのもとで、家計・企業に対して過大な調整負担を掛けずに2%を達成するには、私は「2年」よりも長く時間が掛かるとかねてより考えています。また、そうした経路が2%を安定的に持続する社会の実現性を高めますし、望ましいとみています。この経路についての私の見解は後程お話しいたします。

  1.   1  消費税率3%の引き上げは、消費税の影響を受けない品目があるため、フル転嫁を仮定した場合、CPI(除く生鮮食品)への直接的な押し上げ効果は2%程度と推計されます。4月分については、公共料金の一部について旧税率を適用する経過措置の影響から1.7%程度と推計されます。
  2.   2  4月末の金融政策決定会合において、私は物価の中心的な見通しの表現について独自の提案を行いました。概要は、「2%の『物価安定目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで『量的・質的金融緩和』を継続するもとで、見通し期間の終盤にかけて2%に達している可能性が高い」への修正です。私の見通しを示す表現としてだけでなく、中心的な見通しを示す表現としても適切との判断に基づいています。政策委員見通しの中央値は、2015年度1.9%、2016年度2.1%ですので、2%の実現は2016年度となります。見通し期間を2016年度まで示すにあたり、「2%」の目標実現にコミットしている観点から、物価見通しの記述は「2%程度」との幅のある表現ではなく、「2%」の実現時期に焦点を当てた表現が適当と考えています。

(3)日本銀行のコミュニケーションについて

今回の展望レポートでは、日本銀行のコミュニケーションについても工夫が加えられていることをご紹介したいと思います。まず、同レポートでは、冒頭部分に、「概要」を挿入しています。その中で、日本銀行の「物価安定の目標」のもとでの「二つの柱」、すなわち、「中心的な見通し(第1の柱)」と「これに対する上下双方向のリスク要因(第2の柱)」、による点検を行うことを予め説明しています。「二つの柱」については、私は昨年の4月と10月に、展望レポートの分かり易さ向上の観点から記述方法を改めた方が良いとして異なる提案を行いましたが、今回の見直しは、私の10月提案が主に反映されていると考えています。また、私はかねてから冒頭に簡潔な要約を挿入することが望ましいと主張してきましたが、その趣旨も反映されていると思います。このように、日本銀行では、読者の分かり易さに配慮した記述に向けた改善の試みを、少しずつですが着実に進展させていこうと考えています。

こうした改善は、本年3月末に日本銀行が公表した「中期経営計画」において盛り込まれた「対外コミュニケーションの強化」を具現化する一例と言えます。今回の中期経営計画では、2%の物価安定目標の達成に向けて組織の力を結集して取り組んでいくと表明したうえで、日本銀行に対する信認を幅広く得ていくために、「対外コミュニケーションの強化」を掲げている点に特徴があります。対外コミュニケーションの強化は、これまで私が就任以来、強く重要性を訴えてきた点です。具体的な事例としては、例えば、(1)専門家向け・一般向けそれぞれに対する分かりやすさを高めるためにホームページ等による情報発信の改善や本支店見学の充実、(2)様々な人々や組織とのネットワーク構築・強化による意見交換やニーズの積極的な把握、(3)調査分析成果の効果的な発信、(4)金融広報中央委員会等の活動支援を通じた金融リテラシーの向上、を挙げています。この目的のもとで、日本銀行の関係部署は既に具体的な対応策を実施に移し始めています。2%の物価安定目標の実現は、国民の理解があって初めて可能になりますので、中期経営計画で示した方針をしっかり果たしていくよう努めて参ります。

3.わが国経済のマクロ的な需給バランス(需給ギャップ)

世界金融危機以降のわが国では、財・サービスの供給力に比べてその需要量が不足する状態にあり、デフレの原因となってきました。足許では景気回復が続き、この状態がようやく解消されつつあります。そこで本日は、この背景について関連するキーワード「需給ギャップ」に焦点を当てながら、今後、2%の物価安定目標を達成していく経路について、私の考えを中心にお話いたします。

需給ギャップの考え方とその動向

まず「需給ギャップ」とは、需要量と供給力の差を意味する専門用語です。ここで言う「需要量」とは「実際」の国内総生産(GDP)を指します。一方、「供給力」は「潜在GDP」とも呼ばれていますが、日本銀行では、労働や設備(資本)が平均的に用いられた場合に(その時点での経済構造のもとで)達成される財・サービスの生産水準を表すとみなして推計しています。一般的に、景気の良し悪しを判断する場合、労働や設備が平均的な稼働状態にあるときの供給力に対して需要量が上回る「需要超過」の状態、或いは逆に需要量が平均的な供給力を下回る「需要不足」の状態にあるのかを判断します。「需要超過」の状態では需給ギャップの符号は「プラス」となり、「需要不足」の状態では符号は「マイナス」となり経済水準が停滞していることを指します。また、「プラス」方向への変化が起こる際には「物価上昇圧力が高まっている」と判断され、「マイナス」方向への変化は「物価下落圧力が高まっている」と判断されます。わが国では、2013年度からは、実質GDPの成長率が潜在GDPの成長率(又は潜在成長率)を上回る状態が続いており、需給ギャップは大きく改善しています。

そこで、需給ギャップに関連する指標を見てみましょう。図表4では、日本銀行による需給ギャップの推計値と日本銀行の「短観加重平均D.I.」の推移を示しています。日本銀行の推計値では、需給ギャップは2013年7−9月期の1%程度のマイナスから10−12月期には概ねゼロ%近傍へと改善しており、ほぼ需給がバランスしたことを示しています3。また、日本銀行の短観加重平均D.I.は、労働や設備の稼働状況から需給ギャップを測る指標で、「全国企業短期経済観測調査」(短観)から入手した雇用人員判断D.I.と生産・営業用設備判断D.I.の加重平均値を採っています。短観加重平均D.I.の符号がプラスならば企業からみて人員と設備に過剰感が、マイナスであれば不足感があることを示しています。前掲図表4は、短観加重平均D.I.が2013年に「不足超」に転じたことを示しています。短観加重平均D.I.の方が不足感が強く、需給ギャップ推計値よりも強めの数値となっている理由として、短観D.I.では回答企業の比重が各社等しいため、中小企業の人手・設備の不足感が反映され易いことが考えられます。企業規模を考慮した経済全体でみると、短観加重平均D.I.は日本銀行の需給ギャップ推計値と整合的に、需給はほぼバランスしていると判断できると思います。

  1.   3  なお、内閣府では、2013年7−9月期は、マイナス1.5%程度、10−12月期はマイナス1.6%程度、2014年1−3月期はマイナス0.3%程度と推計しています。

需給ギャップの推計に関する注意点

もちろん、内閣府の推計値では、同じ時期で比べても日本銀行の推計値よりも需給ギャップのマイナス幅が大きくなっている点からも分かるとおり、需給ギャップの推計値自体については、不確実性も高く、相当の幅を持ってみるべきだと思います。そうした点も踏まえたうえで、日本銀行の推計方法に関して、以下、4つの点を指摘したいと思います。

第一に、そもそも需給ギャップや潜在GDPの推計においては、データの取り扱いや推計方法によって生じる推計誤差が考えられます。これは、実際のGDPデータについては内閣府の「国民経済計算」から入手できますが、潜在GDPには公式データがなく、各機関や研究者が様々な労働や設備等のデータをもとに多様な統計手法で推計していることによるものです。また、推計方法に関する違いとしては、日本銀行では需給ギャップを推計してから、実際の経済成長率を適用して潜在成長率を推計する手順を踏んでいるのに対して、内閣府では潜在成長率を推計してから、実際の経済成長率を当てはめて需給ギャップを推計している点が挙げられます(図表5)4。両推計値ともやや長い期間をとれば改善を示している点は共通しています。

これに関連しますが、第二に、潜在成長率の推計値の違いが考えられます。わが国の潜在成長率については、日本銀行は0%台半ば程度と推計している一方で、内閣府は0.7%程度と推計しており、その分だけ日本銀行の需給ギャップの推計値の改善幅が大きく表れている可能性があります5。日本銀行の推計によると、潜在成長率は世界金融危機前後から低下を示しており、これには人口動態および既存設備の物理的な廃棄や陳腐化・摩耗による資本ストックの減少等の反映方法が影響しているように思います。

第三に、足許では人手不足から労働市場の需給が引き締まる傾向にありますが、その影響についても、日本銀行の需給ギャップの推計において確認できます。需給ギャップは、短観加重平均D.I.のように生産要素の稼働状況をもとに、「労働投入ギャップ」と「資本投入ギャップ」に分けることができます(図表6)。労働投入ギャップの符号がプラスならば、現在の労働投入量が平均的な労働投入量を上回り、人手不足気味と判断されます。逆に、符号がマイナスの場合、現在の労働投入量が平均的な労働投入量を下回り、人余り気味と判断されます。労働投入ギャップは足許までの改善が明確です。この背景には、就業者数の減少と労働時間の低下が継続的に生じるもとで、2012年以降は団塊世代が65歳を迎えて減少に拍車がかかったことから、平均的な労働投入量が減少していることが挙げられます。この状況下、2013年からの景気回復により、労働集約的な非製造業で急速に労働需給が引き締まったのです。この点は、短観の雇用人員判断D.I.が非製造業で「不足超」に転換していること(図表7)、失業率が本年2月には3.6%へと改善して「構造的失業率」に近づいていること(図表8)、賃金の前年比伸び率がプラスの領域で推移していること(図表9)と、整合的です。

第四に、日本銀行の推計では「資本投入ギャップ」についても非製造業を中心に設備の不足感が高まっています(前掲図表6)。世界金融危機以降に、設備投資が抑制的に推移する中で、景気回復による資本稼働率の上昇が資本投入ギャップの改善をもたらしました。とくに建設業では設備不足感が強いようです。また、サービス産業全般でのITの積極的な活用を背景として、情報通信サービス業で設備不足感があり、物流・小売業でも拠点整備等の投資需要が高まっています。こうした動向は、日銀短観の生産・営業用設備判断D.I.が非製造業を中心に「不足超」へと転じている動きとも整合的です(図表10)。製造業においても、駆け込み需要が急増した際には稼働率が急ピッチで改善し、一部のメーカーでは国内需要を優先的に賄うために輸出を先送りするといった対応に追われたようです(図表11)。

  1.   4  ただし、日本銀行が展望レポート等で示している潜在成長率は、各期の全要素生産性(TFP)の伸び率をHPフィルターで平滑化しているので、需給ギャップと実際の経済成長率から導かれる潜在成長率とは1対1の関係にならないことに留意が必要です。
  2.   5  日本銀行と内閣府の潜在成長率の推計値は、推計方法や用いるデータが同じではありませんが、コブ・ダグラス型生産関数を用いて労働、資本、ソロー残差(全要素生産性)に分解して潜在成長率を求める点は共通しています。

需給ギャップの解消は直ちに成長制約をもたらすのか

さて、わが国の需給がほぼバランスしているとなりますと、それがあらゆる産業・企業において直ちに労働や設備を逼迫させ、経済成長を阻害することになるのでしょうか。まずは短中期的な視点で、この問題について考えてみたいと思います。

まず、需給ギャップが概ねゼロ%近傍にある状態とは、需要量が単に「過去の長期平均的な供給力」とバランスしていることなので、それが直ちに成長制約に繋がる訳ではありません。ただし、駆け込み需要のように一時的に需要が急増する場合、企業は求人募集をしてもすぐに人を集められず、特定の生産ラインやサービスに既存の設備や従業員を直ちに振り向けられないことがあります。また、そうした歪みがひとつの企業で起きると、他の企業や工場では需要の急増に応じる余力があっても、部品や配送するドライバーが不足するといった影響を受ける結果、需要増加に対応できないことがあります。実際にこの状況は本年3月まで見られましたが、4月以降は幾分改善している模様です。このため、1−3月期の需給ギャップは強め、4−6月期は弱めになっていると思われます。

今後、輸出が緩やかに増加していけば、非製造業よりも労働生産性が高い製造業で生産が増えて、人手不足が深刻化せずに経済活動が拡大する余地はあると思います。一般的に、製造業では1990年代初めから就業者数の減少が続いていますが、世界金融危機の発生前までは生産量が増えており、労働生産性の改善が続いていました。また、製造業の設備投資は徐々に増えつつあり、物理的な廃棄分や減価償却費を上回って増えていけば資本ストックが蓄積され、生産能力も向上していくと見込まれます(前掲図表5)。

また、労働者についても、技術や習熟度を高めることで労働生産性が改善しますし、それとともに雇用の需給ミスマッチが改善すれば、「構造的失業率」が低下する余地も生まれます。構造的失業率は、1980年代には概ね2%台で推移していましたが、2000年代初めには4%を超えるまで上昇した後、足許では3.5%前後まで改善して推移しています(前掲図表8)。高齢化や公共投資の減少といった需要構造変化に労働供給側が追いつけずにミスマッチが生じたことが、構造的失業率の上昇の背景にあったようです。

見通し期間を通じた今後の潜在成長率は、資本ストックの蓄積、女性・シニア層の労働参加、生産性の改善等が進み、現在の0%台半ば程度から1%程度に向けて改善していくと予想されます。同時に、経済成長率がこの潜在成長率を上回って上昇することで、本年度と来年度を中心に需給ギャップのプラス幅は拡大していきます。それにより、企業の設備投資とパート労働者の労働時間も増えていき、それがさらに潜在成長率を押し上げる好循環が起きていくと想定しています。政府によるフルタイム就業促進に向けた制度・税体制の構築、待機児童問題の改善、構造改革等も期待されます。

以上をまとめますと、わが国の潜在成長率は世界金融危機後に低下しましたが、その一因は景気後退にあったと思います。景気後退局面での潜在成長率の低下は他の先進諸国でも共通して見られます。今後は潜在成長率が1%程度に向けて緩やかに上昇していくもとで、それを上回る経済成長が続くと予想しています。この間の、需給ギャップは今年度夏頃から来年度を通じて改善を続け、その後もプラスで推移するとみています。

需給ギャップが示唆する中長期的な課題

ここで、需給ギャップの動向が示唆する中長期的な課題について触れたいと思います。今後、高齢化のペースは加速し、女性・シニア層の労働参加率の改善やフルタイム労働者数の増加が実現しても、人手不足は進んでいく見込みです。シニア層は医療・介護、旅行、社会的支出等への需要を高める傾向がありますので、わが国経済もそれに合わせて労働集約的なサービス産業へと経済構造の比重が移っていくと予想されます。そのため、非製造業でも、ITの積極的な活用、ロボットの活用、或いは規制緩和や企業再編・企業経営の改善等によって労働生産性を高めると同時に、人口減少に対する抜本的な対策も重要になってくると思います。

4.需給ギャップとインフレ期待の物価・賃金との関係

次に、2%の物価安定目標を達成する上で重要となる「需給ギャップ」と「予想物価上昇率」という2つのキーワードについて、物価・賃金との関係を、私の考えを中心に説明したいと思います。

需給ギャップと物価の関係:フィリップス曲線について

需給ギャップが改善すると、物価上昇圧力は高まります。こうした需給ギャップと物価変化率のプラスの関係を示す曲線は、「フィリップス曲線」と呼ばれています。図表12は、物価変化率として、「CPI(除く生鮮食品)」と「CPI(除く食料・エネルギー)」をそれぞれ用いたフィリップス曲線を示しています。また、2つの期間、1998年Q1〜2012年Q3(賃金下落の開始から円安・株高が始まる直前)と2012年Q4〜2014年Q1(円安・株高の開始から現在)について同曲線を推計しています。

まず、CPI(除く生鮮食品)をベースとしたフィリップス曲線を見ると、2012年10−12月期以降に急速に「勾配のスティープ化」と「切片の上昇」(曲線の上方シフト)が生じているように見えます。この内の勾配のスティープ化に注目しますと、これは同程度の需給ギャップの「変化」に対して、従来よりも物価が高まり易い状況を示しています(切片については後述します)。これは、企業が販売価格の引き上げや価格転嫁をし易くなっていることを意味します。ただし、足許で起きている勾配のスティープ化の動きは、ごく短期間に大幅な円安が起きたことから輸入物価が急ピッチで上昇し、エネルギー価格やその他の物価に跳ね返ったことが主因と考えられます(図表13)。

他方、CPI(除く食料・エネルギー)をベースとしたフィリップス曲線では、勾配のスティープ化はあまり見られていません。CPI(除く生鮮食品)を構成する品目の約3割のウェイトを占める食料・エネルギーが含まれていない分、円安の影響が限定的になるからです。このベースで見ると、2%のインフレ率の達成には今後同曲線の勾配が一段とスティープ化することが期待されますが、それにはまだ時間がかかるように思います。

企業のデフレ的な価格設定行動の変化

フィリップス曲線は、1990年代末から勾配がフラット化したことが知られています。その要因のひとつとして、「価格改定頻度」の低下が挙げられます。企業にとっては、景気が低迷する中、競争相手が設定する販売価格や顧客の低価格志向に配慮して、生産コストが上昇しても販売価格の引き上げが難しい状況が続いてきました。今後、景気回復が続き緩やかなインフレが定着していくなかで、価格の改定頻度が高まり、同曲線の勾配は徐々にスティープ化していくと考えています。この点、円安や消費税率の引き上げは、企業が生産コストの上昇分等を一斉に販売価格に転嫁するきっかけとなり、「価格を下げないと売れない」との見方にもとづく価格設定行動を見直す企業が少しずつ増えています。また、販売価格を引き上げても、新しい財・サービスを提供することで、需要を増やし続けている企業もあります。

こうした企業が増えていけばフィリップス曲線のスティープ化が常態化する可能性がありますが、企業による販売価格設定行動は今のところまだ区々のようです。人口減少に直面し需要量が減っている中で、企業間の競争も激化しており、各企業が継続的に販売価格を引き上げるような価格設定行動の変化は徐々に起きていくと考えられます。

さらに、2%のインフレ率を実現する上で重要なのが、「サービス価格」の動向です。わが国の価格改定頻度は、エネルギー関連品と食料品が最多で、次いで財が多くなっています。これは、エネルギー関連品・食料品・財では、頻繁に変動する輸入原材料・中間財等の価格を反映する必要があるからです。一方、サービス価格は殆ど改定されておらず、CPI(除く生鮮食品)構成品目の約4割を占める「一般サービス」の価格変化率は、プラス0.8%程度の上昇とマイナス0.6%程度の下落の狭い範囲内で推移してきました(前掲図表13)。しかし、2013年10−12月期からは(円安の影響もありますが)、外食を中心に一般サービス価格が上昇に転じており、今後、この上昇傾向が定着していくのかに注目しています6

  1.   6  CPIのウェイトの2割程度を占める家賃・持家の帰属家賃も重要です。家賃の改定頻度が少なく、築年数や耐震化等による家賃の「品質調整」(築年数が長く耐震化が不十分な住宅の家賃は家賃の上昇として反映)がなされていないため、家賃が低めになっている可能性があります。なお、ユーロ圏のHICPでは持家の帰属家賃が含まれず、米国ではCPI、PCEデフレーター共に帰属家賃が含まれます。

物価と賃金の関係

では、何故、サービスの価格改定頻度は低いのでしょうか。一般的に、サービスでは労働集約度が高く、生産コストに占める賃金の割合が大きいという特徴があります。このため、(因果関係は双方向で起きていると思われますが)賃金自体の伸び悩みが価格改定の必要性を弱めてきたと考えられます。

わが国の賃金変化率は、2000年以降はゼロ%近傍で推移しており、賃金変化率とCPI(除く食料・エネルギー)の変化率は、ほぼ同時に動く正の相関が見られます(図表14)。しかし、これを産業別にみると、必ずしも常に正の相関が成り立つわけではありません(図表15)。この点を分かり易くするために「水準」で見てみますと、製造業では、一般労働者の賃金は概ね横ばいで推移していますが、販売価格は下落しています(図表16)。販売価格の低下には労働生産性の改善等が寄与したと思われます。一方、サービス産業では、労働生産性が低いこともあって一般労働者の賃金と販売価格は2000年とほぼ同じ水準で推移してきました。

なお、パート労働者の賃金については、製造業・サービス産業ともに2000年代半ば頃から上昇傾向にあります(前掲図表16)。この結果、時給ベースでみると、パート労働者と一般労働者の賃金格差は縮小しており、足許では一般労働者の賃金の4割強まで改善しています。この背景には、雇用形態において一般労働者からパート労働者へと転換が進んだことで、パート労働者の人手不足が強まったことがあるようです。とくに、サービス産業では相対的に低賃金のパート労働者が多く、パート労働者比率は非製造業で3割を超えますが、製造業ではその半分以下に留まっています。

今後の見通しについては、非製造業を中心に賃金と販売価格がともに上昇するもとで、経済全体で賃金変化率と物価変化率に正の相関が成り立っていくと予想されます。一般的に、サービス産業ではパート労働者の方が、一般労働者よりも「賃金変化に対する販売価格の感応度」が高いようです(前掲図表15)。これは、パート労働者は時給の割合が大きいため、時給の変化が販売価格に反映されやすいからです。今後、わが国の産業で非製造業の比重が高まるにつれて賃金上昇は物価の押し上げ圧力を高めていきます。ただし、後述しますように、経済全体で見れば、賃金の上昇率は物価の上昇率(消費税率の影響を除く)を上回って推移すると見込まれます。

ここで、賃金上昇率と失業率の関係を示す「賃金版フィリップス曲線」を見てみましょう。図表17は、時間当たり賃金上昇率と失業率の関係を示しており、先ほどのCPIベースのフィリップス曲線と同じ2期間について同曲線を推計しています。「勾配のスティープ化」は、失業率が改善するにつれて賃金上昇率が加速していくことを示しますが、足許では、そうした動きはまだ見られないようです。今後は、景気回復の継続と労働需要の増加により、緩やかにスティープ化が進んでいくことが期待されます。

インフレ予想と物価・賃金の関係

次に、「予想物価上昇率」についてですが、それが高まって、現在の価格設定に織り込まれるようになれば、現在の物価・賃金上昇率の引き上げに寄与します。予想物価上昇率の上昇は、「フィリップス曲線」と「賃金版フィリップス曲線」の上方への平行移動(切片の上昇)で表されます(前掲図表12、17)。前者では、需給ギャップの「水準」が変わらない状況でも、従来よりも物価上昇率が高まることを示します。後者では、失業率の「水準」が変わらない状況でも賃金上昇率が従来よりも高まることを意味します。この点、フィリップス曲線では切片の上昇がみられますが、賃金版フィリップス曲線ではまだ確認されません。今後、CPI(除く食料・エネルギー)ベースのフィリップス曲線では切片の一段の上昇が、また、賃金版フィリップス曲線でも上昇が起きると期待されます。

予想物価上昇率で重要なのは、エネルギーや日用品等の価格の影響を受けて変動しやすい「短期」よりも、安定的に推移する「長期」の方です。そこで、家計については今後5年間、企業については3年後と5年後の長期の予想物価上昇率(各消費税率の影響を除く)を見ることにいたします。前掲図表3によると、家計の予想物価上昇率が2011年末からは2〜2.5%の辺りで推移しており、横ばいを示しています。一方、本年3月短観から新たに調査を開始した企業の予想物価上昇率によると、3年後、5年後ともに1.7%程度を示しています(図表18)7。この先、予想物価上昇率が2%に向けて上昇し、それが実際の物価・賃金に影響を及ぼすようになると予想しています。

  1.   7  初回調査であるため、幅を持って結果を評価する必要がありますが、企業規模別に見ると、中小企業の方が大企業よりも高い予想物価上昇率を示しています。これは(a)中小企業の方が仕入価格上昇の影響を受けやすいこと、(b)大企業の多くが自社販売価格の上昇ペースは緩やかなものに留まると見込んでいること、等の可能性が考えられます。

物価上昇率が2%に向けて緩やかに上昇していくと考える理由

既に述べたように、私の物価見通しは、「見通し期間の終盤にかけて2%に達している可能性が高い」というものなので、これに関連して私の話をまとめたいと思います。

  • まず、中長期の予想物価上昇率の動きは全体としては上昇していますが、このところ横ばいを示す指標も見られます。とくに家計の長期予想物価上昇率はずっと横ばいで推移しています。今後、インフレがしっかり社会に定着し、同時に2%の物価安定目標への認識・理解が高まるならば、緩やかに上昇していくとみています。
  • しかし、消費者にとって、物価が継続して上昇していく状況に慣れるには時間がかかると思われます。(消費税の影響を含む)CPIでデフレートした実質賃金が低下し、年金給付額も物価の動き対比では抑制的に推移すると見込まれる中で、日本銀行の「生活意識アンケート調査」でも支出において「価格の安さ」を重視する傾向が依然として示されています。家計の成長・所得期待が高まり、財政・社会保障制度に関する将来不安が緩和されるもとで、緩やかなインフレが徐々に容認されていくと考えています。
  • こうした消費者スタンスは、企業の価格設定動向に影響を及ぼします。最近までは円安や増税がきっかけで、各企業は同時に販売価格の引き上げができました。しかし、顧客の低価格志向やライバル企業の販売価格を意識して自社販売価格を設定する価格設定行動は現在でも広範に見られ、短観の3〜5年先の販売価格見通しからも、先行きの価格引き上げが容易でないことが示唆されています(前掲図表18)。
  • 人手不足による賃金上昇は、サービス価格を中心とする物価の押し上げ要因になりますが、必ずしもそれが1対1の関係で販売価格の上昇をもたらすわけではありません。また、企業レベルで賃金上昇と物価上昇の安定的なプラスの関係が確立するには、時間がかかると考えられます。

最後の点をもう少し説明いたします。一般的に、恒常的な賃金上昇に対する企業の対応には3つ考えられます。それは、(1)労働生産性の改善で賃金上昇に対応することで、販売価格に上昇圧力が生じないケース、(2)企業の利益マージンの圧縮で賃金上昇に応じ、販売価格を引き上げないケース、(3)自社製品・サービスへの需要が増加するもとで販売価格を引き上げ、利益マージンの改善から賃金上昇を実現するケースです。物価上昇は、(3)のケースでは円滑に高まっていきますが、(1)、(2)のケースでは限定的になります。新しい物価・賃金環境への移行期では、付加価値や生産性を高める企業のマーケットシェアの拡大と、そうでない企業の事業見直しや再編・撤退が同時に進む可能性もあり、これら3つの対応が混在することが予想されます。

但し、経済全体では、賃金上昇率は、物価上昇率と労働生産性の伸び率の合計にほぼ等しくなります。今後、わが国の労働生産性の伸び率は1%を幾分超える程度に向けて改善していき、その分だけ賃金上昇率は、(消費税率の影響を除く)物価上昇率を上回って推移していくとみています。こうした動きがゆっくり生じるなかで、物価上昇率は、企業・家計への過大な調整負担を伴わない緩やかなペースで、見通し期間の終盤にかけて2%を達するとみています。またそうした緩やかな道筋が、2%を安定的に実現する社会の実現性を高めるとともに、わが国経済にとって望ましいと私は考えています。

5.終わりに〜沖縄経済について〜

最後に、沖縄県の経済情勢についてお話したいと思います。足許の沖縄県内の景気は、消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調としては全体として拡大しています。4月以降、個人消費を中心に消費税率引き上げ後の反動がみられていますが、人口増加や観光客の増加を背景に、早期の持ち直しが見込まれているほか、観光、建設関連も堅調さを維持しています。

もっとも、足許では改善がみられるものの、有効求人倍率、完全失業率、一人当たり県民所得は、全国最低レベルにあります。こうした状況下、先行きの沖縄県経済の活性化に繋がるポイントとして、私は以下の点に注目しています。

まず第1に、成長が期待される東アジア沿岸地域の中心に位置するという、当地の「地理的特性」です。最近では、沖縄国際物流ハブ機能を活用したアジア向け輸出が拡大しており、国際宅急便サービスの開始と相俟って、沖縄経済の振興のみならず、わが国の輸出の新たな柱として成長していくことが期待されます。また、第2に、沖縄県が国際観光拠点をテーマとする「国家戦略特区」に指定されたことです。今後、当地が有する豊かな自然と歴史的・文化的資源という強みを活かして、魅力的な事業計画の策定及び規制緩和の実施により、インバウンド観光客が飛躍的に増大していくことが期待されます。そして3点目は、「自然エネルギーの活用」に向けた先進的な取り組みです。当地における、全国最大規模のスマートグリッドの実証事業、バイオエタノールの生産・流通、世界初となる海洋温度差発電の実証実験といった取り組みは、県内企業の技術力向上、雇用創出、国内外の旅行者に対する沖縄ブランド力の向上に繋がることが期待されます。こうした動きが、今後の沖縄経済のさらなる発展に繋がっていくことを願って、私からの挨拶とさせて頂きたいと思います。

皆様、ご清聴頂き、誠にありがとうございました。