このページの本文へ移動

自己資本の基本的項目(Tier I)としての発行が適格な資本調達手段

(日本銀行仮訳)

1998年10月28日
バーゼル銀行監督委員会

プレス・リリース

自己資本の基本的項目(Tier I)としての発行が適格な資本調達手段

  1. バーゼル銀行監督委員会は、ここ数年間、幾つかの銀行が、規制上のTier I自己資本を増加することを企図して、コストが低廉で、必要な場合には外貨建てとすることができる、ステップ・アップ金利付きの証券等、各種の新しい資本調達手段を発行していることを注視してきた。当委員会はこうした動向を注意深く観察してきたが、1998年10月21日の会合で、これらの資本調達手段のTier I自己資本としての発行に制限を設けることを決定した。これらの資本調達手段には厳格な条件が課され、Tier I自己資本の15%が発行の上限となる。
  2. まず、当委員会は、通常の株主資本、すなわち、普通株式および公表準備金または内部留保が自己資本の主要な要素であることを再確認しておく。通常の株主資本は銀行が継続ベースで損失を吸収することを可能にし、こうした目的のために永久的に使用可能である。さらに、自己資本のこの要素は、配当の金額と時期について銀行に完全な裁量が与えられるため、銀行が経営の悪化に直面した時に経営資源を温存することが十分に可能となる。この結果、通常の株主資本は、自己資本充実度に関する多くの市場判断の根拠となっている。普通株式に付与される議決権は、銀行経営に対し市場規律が働く際の重要な要素となっている。これらの理由から、議決権付普通株式および株主の利益に帰属している公表準備金または内部留保が、銀行のTier I自己資本の中心的な形態であるべきである。
  3. 自己資本の質(integrity)が維持されていることを確認することを目的として、監督当局と市場参加者に対して十分な情報を提供するためには、先日公表された当委員会の「銀行の透明性の向上について」と題するペーパーに示されているように、銀行はTier I自己資本の構成項目とそれぞれの項目の主要な性質を定期的に公表すべきことについて、当委員会は合意している。
  4. Tier I自己資本の質(integrity)を保護するために、当委員会は、特別目的会社(SPV)の形態をとる連結子会社の資本勘定の少数株主持分は、当該資本調達手段が、Tier I自己資本に含まれる全ての資本調達手段が最低限満たすべきである以下の条件を満たしている場合にのみ、Tier Iに算入されるべきであることを決定した:
    • 発行済みで全額払込み済みであること;
    • 非累積的であること;
    • 業務を継続しながら当該銀行内の損失の補填に充当し得ること;
    • 当該銀行の預金者、一般債権者、劣後債権者に劣後していること;
    • 永続的であること;
    • 担保付ではなく、発行者またはその関連主体からの保証でカバーされておらず、あるいは法律的ないしは経済的に当該請求権の優先順位を銀行の債権者対比で強化するようなその他の取決めがなされていないこと;
    • 最低限5年間経過以降に発行者の発議で監督当局の同意の下、かつ、監督当局が当該銀行の自己資本がそのリスクとの対比で充分であると判断しない限り、同等以上の質の自己資本で置換えられる場合にのみ償還可能であること。
  5. さらに、以下の条件も満たされる必要がある:
    • 当該資本調達手段の主要な性質が理解し易く、公に開示されていなければならない;
    • 当該発行銀行にとって発行代り金は即時・無制限に利用可能でなければならない。発行代り金が発行者であるSPVにのみ即時・無制限に利用可能である場合には、銀行の財務状況の深刻な悪化の十分に前の時点で、事前に設定された発動基準で銀行に利用可能(例:当該銀行自身により直接発行された同条件で同等以上の質の資本調達手段への転換を通じて)とならなければならない;
    • 当該資本調達手段に先立って当該銀行の普通株式への配当が停止されている場合には、当該銀行が配当の金額と時期について裁量を有していなければならず、停止した配当は当該銀行に完全に利用可能でなければならない;
    • 配当は配当可能項目のみから払出しできる;配当が事前に設定されている場合には発行者の信用度によって設定が変更されてはならない。
  6. SPVを通じて発行された資本調達手段ないしは直接発行された資本調達手段で、上記パラグラフ4と5の条件を満たすTier I資本調達手段における緩やかな(moderate)ステップアップは、償還オプションとともに、発行日以降最低10年経過後にステップアップが起こり、当初金利からの金利上昇幅が、各国裁量により次の条件のいずれか以下の場合にのみ認められる;
    • 「100ベーシス・ポイント」から「当初の金利のベースとなるインデックスとステップアップ後の金利のベースとなるインデックスとの間のスワップ・スプレッド」を控除した値;ないしは
    • 「当初の信用スプレッドの50%」から「当初の金利のベースとなるインデックスとステップアップ後の金利のベースとなるインデックスとの間のスワップ・スプレッド」を控除した値。
  7. 資本調達手段の条件には当該資本調達手段の残存期間の間に1回を超えるステップアップが含まれるべきではない。スワップ・スプレッドは、価格決定日に決定され、その日における当初参照証券・金利とステップアップ後の参照証券・金利との値付けの間の差を反映しているべきである。
  8. 各国監督当局は、各銀行が、ステップアップ金利付きの資本調達手段を含めた先進的な資本調達手段に過度に依存することなく、バーゼル合意の最低自己資本比率を達成することを期待している。そこで、通常の株主資本以外のTier I資本調達手段で、当該資本調達手段の償還の可能性に繋がるような明示的な特徴 ─ 純粋な償還オプションを除く ─ を有する全ての資本調達手段の発行済総額は、発行時点において当該銀行の連結ベースのTier I自己資本の15%に制限される。
  9. 上記解釈によりTier I適格性を有さないこととなる資本調達手段でも、現行の各国規制の下で承認ないしは発行されている資本調達手段は、引続きTier I自己資本に算入可能である;15%の制限を超える資本調達手段の発行済分についても同様である。
  10. 当解釈は、既に進行中の、銀行の自己資本充実度の評価のための現行枠組みに対するより幅広い見直し作業の一環として、見直しの対象となる。この点、当委員会は、当解釈に如何なる変更をも加える柔軟性を留保している。

バーゼル、1998年10月27日