総裁記者会見 2024年1月23日(火)午後3時30分から約65分
2024年1月24日
日本銀行
(問)
本日の決定会合の内容について、展望レポートの内容も含めて植田総裁からご説明頂けますか。
(答)
私からまず冒頭に、この度の能登半島の地震によって、犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げます。一刻も早い復旧・復興を心よりお祈りしております。日本銀行としては、金融機能の維持と資金決済の円滑の確保に万全を期すとともに、今回の地震の影響に関する情報収集と分析に努めているところであります。
こうした状況を踏まえたうえで、本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針とその運用、および資産買入れ方針について、いずれも現状維持とすることを全員一致で決定致しました。また、「貸出増加を支援するための資金供給」の貸付実行期限を1年間延長することも全員一致で決定しました。
今日は展望レポートを公表しましたので、最初に経済・物価の現状と先行きについて簡単にご説明します。まずわが国の景気の現状ですが、緩やかに回復していると判断しました。先行きについては、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみています。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられます。物価ですが、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、政府の経済対策もあってエネルギー価格の寄与は大きめのマイナスとなっていますが、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰しつつも残るもとで、サービス価格の緩やかな上昇も受けて、足元は2%台前半となっています。先行きは、来年度にかけて2%を上回る水準で推移した後、2025年度はプラス幅が縮小すると予想しています。前回の展望レポートからの比較でみますと、来年度の見通しは下振れていますが、これは、このところの原油価格下落の影響が主因です。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、見通し期間終盤にかけて、2%の物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくとみています。先行きの不確実性はなお高いものの、こうした見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっていると考えています。
リスク要因をみますと、引き続き、海外経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高く、金融・為替市場の動向や、そのわが国経済・物価への影響にも十分注視する必要があります。
最後に、先行きの金融政策運営の基本方針についてです。日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴うかたちで、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指していく方針です。具体的には、物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に実現するために必要な時点まで長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。
(問)
幹事社から質問二点ございます。一点目がですね、前回会合から1か月余り経ちましたけども、今、総裁から言及もありましたけど、2%の物価目標の達成に向けた確度はどの程度高まったでしょうか。前回以降、支店長会議など新しい情報も加わっておりますが、その確度の変化についてはどのようなデータが判断材料となっているのか、併せて教えてください。
(答)
今申し上げた今回の展望レポートですが、今後の景気に関する基本的な見方は維持しました。そうしたもとで、先行き、賃金と物価の好循環が強まり、基調的な物価上昇率が2%に向けて徐々に高まっていく確度は、引き続き、少しずつ高まっていると判断しました。もう少し具体的には、物価から賃金への波及の面では、春季労使交渉に向けて労働組合側からは昨年を上回る賃上げを要求する方針が示されています。また、大企業を中心に、経営者から賃上げに前向きな発言もみられています。更に、賃金から販売価格への波及も、サービスを含む価格が緩やかな上昇傾向にあるということや、先日の支店長会議での報告などを踏まえると、賃金から販売価格への波及も少しずつ広がっていると考えました。この先も、春季労使交渉の動向を含め、各種のデータ、情報を丹念に分析し、賃金と物価の好循環が強まっていくか確認していきたいと思います。
(問)
もう一問あります。金融政策の正常化に向けた一歩としてマイナス金利の解除というのが想定されています。その解除に際してはですね、市場で金利が乱高下するといった混乱を避ける必要もあるかと思います。その実行に当たって最大の留意点というのはどういった点になるでしょうか。
(答)
基調的な物価上昇率ですが、これは見通し期間終盤にかけて、物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくという見通しが実現する確度は引き続き少しずつ高まっていると申し上げた通りでございます。この先、もしも賃金と物価の好循環を更に確認し、物価安定の目標の持続的・安定的な実現が見通せる状況に至ったとしますと、マイナス金利を含めました現在実施している様々な大規模金融緩和策、これの継続の是非を検討していくことになります。その具体的な内容については、何度も申し上げていますように、そのときの経済・物価・金融情勢次第であるというふうにしか現時点では申し上げにくいところでございます。ただ、現時点での物価・経済・金融見通しを前提としますと、大きな不連続性が発生するような政策運営は避けられるというふうに思っております。
(問)
質問二点ございます。まずですね、今回、公表文に物価安定目標が実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっているとの一文が加わりました。これは市場に対して政策変更が近いというメッセージととらえていいのでしょうか。総裁、このメッセージの意図を教えてください。
もう一つはですね、総裁かねて物価安定の目標達成を判断する際のポイントの一つに今春闘での賃上げということを言われております。今春闘の集中回答日は3月13日で次回3月会合の前です。3月会合で判断材料が揃う可能性があるのか、総裁のお考えをお聞かせください。
(答)
2%物価目標の達成に向けた確度が少しずつ高まっている表現の根拠というご質問だと思いますが、ざっくり申し上げれば、これまでの物価見通しに沿って経済が進行しているということが確認できたということになるのかなと思います。今回の見通しをご覧頂きますと、物価見通しにつきましては、除く生鮮については、24年度について若干下方修正しておりますが、これは主に先ほど申し上げましたように原油価格の下振れを反映したものでございます。その他のところについては、前回の見通しとほとんど変わっておりません。特に、除く生鮮・エネルギーの方を例えばみて頂きますと、来年度も再来年度も(注)1.9[%]くらいとなっていまして、2[%]に非常に近い値となっている。その姿は前回とあまり変わらないわけですけれども、まだ必ずしも自信が持てないというふうに申し上げていた中で、もう一回点検をしてみたら、同じような見通しが、中心的な見通しであるということになったという辺りが、一番見通しの確度が上昇したということの根拠になります。
それから、二番目は3月の決定会合の時点で、ある程度賃金に関する情報は得られるだろうけれども、それでどうかというご質問だと思いますが、それは毎回、会合時点までに得られたデータおよびその他の情報を材料として、物価見通しが達成されているかどうかを丁寧に判断していくという姿勢に変わりはありません。
(問)
総裁、二点お願いします。先ほど総裁、冒頭で地震のことを言及されましたけれども、その地震の影響についてどのようにお考えになっているのか。情報収集されているということでしたけれども、現時点でのお考えをお願いします。
もう一つなんですが、先ほどの春闘のことにも絡むんですが、今回の1月会合は、前回、入ってくる情報がそこまで多くないというご認識を示されましたけれども、3月会合に関しては、判断材料という観点からすると多いのか少ないのか、どのようにお考えでしょうか。
(答)
まず能登[半島]地震の影響についてですけれども、冒頭でもちょっと申し上げましたが、被災地に甚大な被害をもたらした地震であったということは間違いないことかと思います。その後、被災地での生産停止があったり、それを延長するという動きもありましたけれども、生活インフラが徐々に復旧が始まっているという中で、生産再開に向けた動きも出ているとみています。ただし、まず被災地への経済的影響の全貌は、今後、いろいろ動きが出てくるところをみないと完全にはつかめないということだと思いますし、更により広く被災地の製造業の困難がより広いサプライチェーンに与える影響、あるいは観光業への影響、更に広く消費マインド等への影響を含めてマクロ的な影響がどうなっていくかということは、今後注意深くみていきたいというふうに思っております。
それから、次回会合に向けて春闘ないし賃金周りでどういう情報が得られるかということですが、これはスケジュールが公表されているものについては、私がここで申し上げるまでもないと思いますが、ある程度の情報が得られるということですし、賃金周りあるいは経済周りのデータ、物価周りのデータもある程度出てくる。更に2か月ほどありますので、様々なヒアリング関係の情報も入手することはできるというふうに考えていますが、それでどうかということは、先ほどのご質問への答えと重なりますが、毎回の決定会合と同じように新しく入ってきた情報を基に適切に判断していくということしか申し上げられないと思います。
(問)
物価上昇の中身がどのように変化してきているとみていらっしゃるか、教えて頂けますでしょうか。エネルギー価格が下落基調になっている一方で、今回公表文にもわざわざですね、サービス価格は緩やかに上昇しているという一文を書き込んでいますので、より日銀にとって理想的な物価上昇になってきているのかどうかというのを教えて頂ければと思います。
そして二点目がですね、今回、全般的に展望レポートの中身が前向きな表現が多い印象を受けました。今日は日銀がこれを発表した後ですね、株価も下落しています。マーケット関係者が、これはもう政策変更が現実味を帯びてきたと考えた結果かもしれませんが、総裁もこの出口に向かう条件というのは整ってきているという認識でしょうか。
(答)
最初に物価に関する見方ですけれども、例えば、何度か使ってきました「第一の力」、「第二の力」というような表現で申し上げれば、輸入物価を起点とするコストプッシュ、あるいは輸入物価が国内物価に転嫁されていく動き、これが「第一の力」ですが、これは継続しつつもピークを過ぎたというふうに判断しております。これが特に財価格のインフレ率を足元下げてきている動きになっていますし、もう少し継続するというふうにみています。それから「第二の力」、国内での賃金と物価の好循環の動き、これは昨年少しずつ育ってきたものですが、引き続き、ゆっくりですが上昇を続けているというふうにみています。そのうえで、除く生鮮食品の消費者物価指数の動きは、こうした動きを合わせたものに、政府からのエネルギーに関する補助金の動きで、物価が現在押し下げられている部分と、これがもし近い将来終了すれば、それが今年度比ですね、24年度の物価上昇率を引き上げることになるかもしれないという動きが加わって全体の動きになるというふうにみております。
それから、展望レポート等に少し前向きの表現が多いのではないかというご指摘だったと思いますが、これは最初の方のご質問でもお答えしましたが、基調的な物価上昇率が2%に向けて徐々に高まっていく確度は、引き続き少しずつ高まっている、今直前に申し上げた物価に関する見方を前提としてですけれども、というところは素直にいろいろな箇所で表現しているというふうに認識しております。
(問)
出口への環境は整ってきているとみていらっしゃいますか。
(答)
確度は高まってきているので、基調的な物価上昇率は2%に向けて徐々に高まっていく確度は少しずつ高まってきているということは好ましいことですけど、どれくらい近づいたかという定量的な把握自体は、非常に難しいものだというふうに言わざるを得ないかと思います。
(問)
質問は二点あります。マイナス金利についてなんですけれども、12月の金融政策決定会合の主な意見で「巧遅は拙速に如かず」といった政策委員のご発言がありました。マイナス金利政策をですね、今後も長期にわたって続けていくことの負の影響について、総裁はどのようにお考えでしょうか。また、政策委員の中ではどのような議論になっているんでしょうか。
二点目なんですけども、マイナス金利を解除した場合ですね、一般的には利上げによる金融引き締め局面が来るとも考えられるわけなんですけども、解除に当たってですね、解除後の連続的な利上げといったことも視野に入れてご判断されるのか、それともマイナス金利の解除、単体でご判断されるのか、現時点のお考えをお聞かせください。
(答)
マイナス金利そのものについては、どういう副作用があるかということは、これまでいろいろ分析ないし論じられてきた通りだと思いますが、依然としてある程度副作用があるということは否定できないと思いますので、ベネフィットとの関係で、更に物価安定目標の実現にどれくらい近づいているかということの関連で、その継続の是非を判断するということに当然なるということだと思います。
それから二番目のご質問は、マイナス金利を解除するときに、その後の金利の経路についても考慮したうえで解除するかどうかの判断をするかというご質問だったと思いますが、それは当然そういうことになるかと思いますし、先ほどちょっと冒頭のご質問の一つでお答えした点は、そこも含めて深刻なあるいは大きな不連続性が発生するような政策運営は、現在みている経済の姿からすると、避けられるのではないかというふうにみております。
(問)
今月開かれました支店長会議の結果についての総裁の受け止めをお願いしたいんですけども、昨年末のNHKさんのインタビューで、すごい楽観的な見方が示される可能性もあるかもしれないっておっしゃいましたけど、今回中小への賃上げの広がり、賃上げの機運について、どう総裁は受け止めたのかっていうことをお願いします。
もう一点、先日発表された7から9月のGDPギャップですけども、マイナス幅を拡大しました。マイナス金利はじめ大規模金融緩和の正常化を進めるに当たっては、この需給ギャップがしっかりとしたプラスに転換していくことが必要なのかどうか、それとも基調的に改善方向であればいいのか、その点を伺えないでしょうか。
(答)
一点目の支店長会議での賃金周辺の情報収集ということですが、一つ私が受けた印象は、去年のこの時期と比べますと、やや早めに賃上げを決めた企業の数が多いということだったかなと思います。ただ、同時に一部にはまだ慎重であるという先もあって、賃上げの広がりや程度については不確実性がやはり去年ほどでないにしても高いということ、それからこれは去年と同様だということだと思いますけれども、企業の属する業界とかあるいは経済全体の賃上げの動向がどうかということが、それぞれの企業の賃上げに関する意思決定にある程度大きな影響を与える要素があるということも重要な情報だったかなと思っております。
それから二番目のGDPギャップですが、おっしゃるようにGDPが第3四半期マイナスの成長だったということを反映しまして、ギャップはマイナスの方向に少し拡大しています。ただもう少し長い目でみれば、少しずつ上昇してきてゼロ近辺にいるというトレンドに大きな変化はないというふうにみていますし、これがはっきり大きくプラスにいかないと物価目標達成に到達しないのかといえば、そういうことはないというふうにみております。
(問)
マイナス金利政策の位置付けについて伺います。今回の決定会合で今の政策運営を維持されてマイナス金利は9年目に入ります。就任会見で伺った際に、現在の強力な金融緩和のベースになっている政策との考え方をおっしゃられまして、基調的なインフレ率が2%に達していないとの判断に基づいて、マイナス金利政策の継続を訴えられました。改めてですけれども、先ほどの副作用についてお話しされましたけれども、効果と副作用のその兼ね合いみたいなところを伺えればと思います。
あともう一つが関連してなんですけど、そのマイナス金利を解除した場合のインパクトについて伺います。短期の政策金利がコンマ1%程度上がるという実質的な経済に対する影響と、一方でこの長期化した緩和手段を手じまうっていうメッセージ性のようなところですけれども、そういうものが持つ影響についての現在のご認識についてお聞きできればと思います。
(答)
マイナス金利の解除については、先ほどあるいはこれまでも申し上げてきていますように、副作用もある中ですが、基本的に物価目標の達成が見通せる状況に至れば、それを検討するという姿勢でございます。
そのときに、これも若干繰り返しになりますが、長く続いたマイナス金利が、ゼロないしプラスに変わるかもしれないというところで、大きな不連続性が発生するようなことは避けるような金融政策運営を、他の政策手段の調整も含めて考えていきたいというふうに思っております。
(問)
二点あるんですけれども、一点目はちょっと確認なんですけれども、マイナス金利の解除っていう政策判断は、一種ちょっと異常な政策を終了するということではなく、それだけ経済がしっかりと強いのでその先の利上げのパスもある程度念頭に入れた政策の変更という位置付けでいいのか、というのが一点目です。
あと二点目は、サービス価格なんですけれども、確かに今いろんな指標をみると徐々に上がってるようにみえるんですが、宿泊料金の影響が結構影響しているという声ですとか、消費の力強さが欠ける中で本当に持続的なのかっていう見方もあると思うんですけれども、今後のサービス価格をみるうえでのポイント、政策変更のタイミングにとっても重要だと思うので、消費との関連辺りについての見通しをお願いします。
(答)
まず一点目のマイナス金利の解除をどういう判断でするのかということですが、これは繰り返しになりますが、基本的には物価目標の達成が見通せる状況になったということを判断の根拠として実施するということになると思います。
それから二番目のサービス価格の動向ですが、おっしゃるように上昇している部分の一部に明らかに一時的と思われる要素がそこそこ含まれていますし、多少消費の弱さのマイナスの影響もみられるということだと思います。私どもはそういう部分を除いたらどれくらいの強さであるかということを、あらゆる手法で抽出しようとしています。そうした分析は厳密にはなかなか行いにくいものですけれども、結果としては少しずつ上昇しているということは言えそうな結果が出ております。特に今後もにらんで注目のポイントは、これまでのご質問にもありましたが、賃金から価格、特にサービス価格への転嫁がどれくらい進んでいくかという点かなと思ってみております。
(問)
先ほどの総裁の見方ですね、非連続的な政策というのは避けられるんじゃないかということなんですけれども、これは要するにおっしゃっていらっしゃることは、このまま経済・物価が日銀のみている通り進展していったとして正常化に至った場合、そこから何か欧米でみられたような大きなダイナミックな政策変更ということではなく、きわめて小さな正常化のステップを踏んでいくっていう意味でよろしいんでしょうか。それがまず一点。
あともう一つ、先ほど3月までの情報量のお話ありましたけれども、4月になると更にその情報が増えます。もうご存じのようにマーケットの方、多くの方が4月会合でのマイナス金利解除を見込んでおります。これについて、総裁何かおっしゃられること、違和感あるのかどうかなどを含めてお願いします。
(答)
前段でございますけれども、おっしゃったように現在みえている経済の姿からしますと、仮に物価見通しの達成が視野に入って、マイナス金利を解除するということになったとしても、きわめて緩和的な金融環境が当面続くということは言えるのかなということでございます。
それから二番目は、もちろん3月に比べれば4月はより情報量が増えるということは言うまでもありません。そうした中で、どういう決断になるかということは、繰り返しですが、そのときそのとき新たに追加された情報を基に判断していくということでしかないかなというふうに思います。
(問)
消費のことでお伺いしたいんですけれども、引き続き緩やかな増加という判断を持ってらっしゃると思うんですけど、足元、節約とか一部ではセールスとかいろいろ言われている中で、賃上げは労働者にしてみればプラスなんでしょうけども、年金生活者にしてみれば、賃上げの特に恩恵がなくですね、先日のマクロスライドでも物価上昇よりも低い政府の支給だったと思うんですけど、過去にも物価上昇をしている局面で、年金生活者の消費に占める割合が結構高い中で、そこが芳しくなく、減速すると消費全体が落ち込んで、経済回復のメカニズムが崩れるようなことがあったと思うんですけど、その辺のリスクに関してお伺いをしたいんですけど、よろしくお願い致します。
(答)
物価上昇が若干なりとも消費の足を引っ張ってるというのは、年金生活者の消費動向も含めてご指摘の通りかと思います。ただ、年末年始の消費の動きをみますと、様々なサイドエビデンスですけれども、ある程度好調であるという情報も入っておりますし、それから物価そのものについては、インフレ率ですけれども、今後低下していくという見通しです。年金生活者ではないですけれども、一般の勤労者については、春以降、賃金の上昇が更に見込まれるという中で、[消費の]基調的な緩やかな上昇基調は維持されるというふうに考えております。
(問)
二点ございまして、一点目は今後政策の転換を判断するうえで、今ずっとマイナスが続いている実質賃金、これがプラスに変わることっていうのは、必要な条件になるのかならないのか、これが一点目です。
二点目は物価の確度のお話、先ほどから何度かありますけど、今の日本経済がデフレ脱却という観点でみて最終段階、最終局面にあるのか、そのご認識を教えてください。
(答)
一点目ですけれども、実質賃金ですが、もちろん実質賃金上昇率がずっとマイナスであるという見通しでは物価目標の達成には遠いというふうに思いますけれども、前回もそういうやり取りがあったかもしれませんが、足元でマイナスであっても、近い将来プラスに転じるという見通しがあれば、それは政策の場合によっては正常化を必ずしも妨げるものではないというふうに思います。
それから二番目ですけれども、私どもの政策の判断基準は、2%のインフレ率の持続的・安定的な実現というところです。デフレを文字通りとりますと、マイナスのインフレ率ということですので、そういう状況とは、もうかなり遠いところに現在来てるなというふうには思っておりますけれども。
(問)
能登半島地震の影響について伺います。先ほどまだ被害の全容等みえないとおっしゃっていたんですけど、若干仮定の話になって恐縮なんですけども、今後これ被害や全容がみえて経済への影響が判断できた場合に、日銀の特にマイナス金利解除といった出口論といったものに影響を与え得るということも考えてらっしゃるのでしょうか。
(答)
それは仮定の話ですけれども、非常に大きなマイナスのマクロ的な影響が発生するということになれば、出口への判断に強いマイナスの影響を及ぼすということになるかと思います。ただ、冒頭でちょっと申し上げましたけれども、現在のところ経済全体のサプライチェーンへのものすごい深刻な影響、それから消費等へのマインドを通じた影響について、すごい大きなマイナスのものが確認できてるかというとそうではない状況だと思います。ただし、今後出てくる可能性がありますので、丁寧にみていきたいというふうに思っております。
(問)
二点お尋ねします。どちらも中小企業の賃上げについてなんですけども、大企業を中心に賃上げの動きが徐々に出てくる一方、やはり中小企業は結構慎重なところも多いという民間の調査の結果もあります。こうした中小企業の賃上げについて、金融政策を判断するうえで、これはどれぐらいの判断するうえでのウエイトを占めているのか、やはりこれは必要不可欠だというふうに総裁の中でお考えになっているのか、というのが一点目です。
(答)
もちろん大きなウエイトを中小企業が占めますので大事な確認のポイントですけれども、全ての中小企業の賃金がみんなそこそこ上がらないと金融政策の判断ができないかというと、それはそうではなくて、大きなウエイトを持つ中小企業ですが、それが経済全体の平均の賃金の動きにどれくらい影響を与えるかというところを中心にみていくということになるかと思います。
(問)
二点目です。その見極めの時期についてなんですけど、日銀、これまで不確実性というところを理由に、随分長い時間をかけてですね、これまで見極めをされてこられたと思います。この中小企業の賃上げというところでいうと、最終的な統計とかが出るのはかなり後になってしまうのかなっていう、そういう気もするんですけども、これ具体的に中小企業の賃上げに関してはどういったデータを参考にされるのかとか、どういった時期をめどに判断されていくのか教えてください。
(答)
これは文字通り、中小企業を含めた全ての企業の賃金がどうかということを24年度分についても確認するのはすごい後になってしまうというポイントだと思いますけれども。従って、そこを全部みたければだいぶ後になってしまうということでございます。ただ、必ずしも賃金そのものをみなくても、いろいろな他の経済の動きから中小企業の賃金がどうなりそうかということを類推できたり、あるいはヒアリング情報等も入手可能であります。例えば、先ほど来申し上げてますが、大企業の賃金動向とか先に動く企業の賃金動向は、間違いなくある程度の影響を中小企業に与えるということだと思いますし、中小企業の利益の動向、利潤の動向については賃金よりも少し早めにデータが入るということもあるかと思います。それから、サービス価格の動向がどうなっているかということも、もちろん賃金がサービス価格にという因果関係もありますが、サービス価格が上がることが賃金を引き上げる余地を生むという意味で賃金に影響するということもあると思いますので、その辺も含めて総合判断していくということになるかと思います。
(問)
ETF購入についてお尋ねします。既に日銀によるETFの買入れもほとんどされていないと思いますけれども、このままETFの買入れ枠というのは残しておく必要があるのでしょうか。年明け以降も株式市場は非常に好調な状況です。ETF購入の枠組みの撤廃や売却を考えるタイミングに来ているのかどうか、総裁のお考えをお聞かせください。
(答)
足元、ETFについてはほとんど購入していないわけですけれども、枠組みとしては大規模な緩和の一環として実施しているということがあります。従って、これを考え直すタイミング、すなわち2%の物価目標の達成が見通せる状況になった時点で、この枠組みを維持することが適切かどうか、買っちゃったものを売るという話ではないですけれども、引き続き買うかどうかという部分について検討するということは、行うことになるかなと思います。その結果、やめるかどうかはその時点の情勢次第ということだと思います。
(問)
先ほどもちょっと話あったんですけれども、中小企業の賃上げについてお伺いします。中小企業にとっては、原材料高の高騰、十分に価格転嫁できない中で、賃上げしなくちゃいけない状況は、より厳しい経営環境に追い込まれる懸念があるかと思うんですけれども、現状中小企業にとって賃上げができる経営的な余裕があると総裁お考えでしょうか。そういう中で、日銀の考える好循環とは言えないんじゃないかと思うんですけれども、総裁のご認識、お考えを教えてください。
(答)
そこは中小企業といっても、業態その他企業によって区々であるというふうに思います。法人季報等からみる限り、利益の水準という意味では中小企業も非常に良いものになってますので、全ての中小企業が賃上げの余裕がないということではないと思います。ただ人件費比率が高いのが中小企業の特徴ですので、そういう点も含めて注意深くみていきたいと思います。
(問)
自民党派閥の政治資金規正法事件で、4月28日に三つの衆院補選が行われる可能性があるんですけれども、政権運営を占う重要な選挙になる可能性もあると思います。その2日前の4月26日に金融政策決定会合が開かれると思うんですが、そういう政権運営を占う選挙前でも、政策修正が必要と判断すれば修正を行うというお考えか、その辺りを教えてください。
(答)
これは選挙の有無にかかわらず、適切な金融政策運営をしていきたいということでございます。
(問)
先ほどマイナス金利を解除しても緩和的な金融環境が続くという趣旨のご発言をされましたけれども、マイナス金利解除後も長期金利の部分ですね、緩和的な環境を維持するためにYCCもしくは国債買入れ等を続けてですね、長期金利があまり上昇しないように関与していく必要性について、総裁どのようにお考えでしょうか。
(答)
長期国債の買いオペについても、出口の前後で大きな不連続性が発生するということがなるべくないように金融政策を運営したいというふうに考えて、今のところはおります。
(問)
アメリカ経済について伺います。アメリカ経済の総裁の見通しと政策運営に与える影響について伺いたいです。先月もお答え頂いて恐縮なんですけれども、じっくりですね、日銀の政策判断の時間をかけている間にアメリカが利下げ局面に入った場合の判断、改めてちょっとお聞かせください。
(答)
米国経済については、前回12月でしたが、また少しソフトランディング期待が高まっている状況かなというふうにみています。その場合、場合によっては米国で利下げがあるかもしれない、それの私どもの政策に与える影響というご質問だと思いますけれども、当然のことながら米国経済を含む海外経済は日本に影響を与えますのでそれを十分見極めつつ、私どもへの影響というのは、私どもの物価・経済見通しに対する影響ですけれども、それを見極めつつ適切に判断するということに尽きると思いますけれども。
(問)
2%目標を絶対目標とし続けることが妥当かということについてお尋ねしたいと思います。今、日銀が始めている多角的レビューでもこの問題は検討対象になっていないとお見受けしていますけれども、この2%目標を絶対視した政策を続けることで、もう3年近く2%以上のインフレが続いているのに、消費者物価の上昇が続いているのに、いまだこのマイナス金利を続けるような、ある意味尋常じゃない金融政策が続いてるわけですね。2%目標、もしもっと柔軟にみるような政策をしていたら、あるいはもっと早く政策の見直しがあり得たかもしれないわけですけれども、今こういう状況に陥っているのは、その2%目標を絶対視ということが前提になっているからだと思います。その功罪について検討するお考えはないんでしょうか。
(答)
それはレビューで検討することになるかどうかは分かりませんが、政策委員それぞれ常に考えている問題の一つかと思います。ただ、インフレ目標自体はそう頻繁に変えるものではないというのが取りあえずのお答えかなと思います。そのうえで今回、2%目標にこだわらずもう少し早めに利上げをしていればどうだったかということですが、それは、金利はもう少し上がっていたかもしれないですけれども、インフレ率が2%、厳密に言わないまでもあまり2%に近いところまで行かずに、短期間は超えてたと思いますけれども、長期的に低いところに収束してしまう、あるいはデフレに戻ってしまうというリスクもその分上がっていったというふうには思います。
(問)
総裁の先ほどのご発言で、仮にマイナス金利解除してもきわめて緩和的な金融環境が継続するとおっしゃいましたけれども、その先なんですけれども、達成の状態が保たれていれば、次第にその緩和の縮小を模索するということになるのでしょうか。
(答)
それはそうだと思いますが、その場合に、ちょっとだいぶ先の話で、あまり具体的なことは申し上げられませんが、どういうイメージになるのかということは、現在、様々な不確実性があるので何とも申し上げられないと思いますが。結局どこまで金利が上がっていくのかというご質問だとは思いますけれども。
(問)
今まで質問が出なかったんでお伺いしますが、総裁、足元の株価の動向についてどういうふうにご判断されますでしょうか。確か昨年の春の段階では日本企業のファンダメンタルズに沿った動きではないのかという判断を頂いたかと思いますが、日経平均株価でいきますと、過去最高値、史上最高値の大体九合目を超えてる辺りだと思います。上昇のピッチ、水準などを含めて日銀の金融政策に与える影響なども考慮してのご判断を伺いたいと思います。
(答)
私どもは株価の短期的な動きには詳細なコメントは避けるというふうにしております。ただ、一応申し上げられるとしますと、経済あるいは企業収益見通しについて楽観的な見方が広がって、それが価格に反映されている動きかなと思います。
(問)
先ほどの質問ともちょっと関係するんですけども、株価がとても高い状態です。ドル円も今150円前で、これから10円ぐらい下がっても別に企業・経済に大きな影響はないと思います。このタイミングで利上げをしないということは、利上げなり大規模金融緩和を修正しないということは、逆に市場から金融緩和の修正ができないじゃないかとみなされる恐れ、日銀が財政ファイナンスをしてるんじゃないかっていうふうにみなされる恐れ、市場の信認を失ったり、混乱が生じてしまうリスクについては、現段階でどのようにお考えか教えてください。
(答)
株価や為替レートの動きについてはもちろん注目していて、それが経済・物価見通し、特に物価見通しに重要な影響を与える限りにおいて、これまで申し上げてきたようなやり方で政策に反映させていきたいと思っております。
(問)
財政ファイナンスという恐れがあるんじゃないかとみなされるリスクについての回答の方をお願いします。そちらがメインなので。
(答)
財政ファイナンスと株価・為替レートとはちょっと、直ちにはつながらないと思いますけれども。
(問)
失礼しました。私の質問をする前提部分であって、政策を変えられないんじゃないかというふうにみなされてしまうリスクを、現段階でどう考えていらっしゃるかっていう点をお願い致します。
(答)
金利を低位に保ったり、国債を買ってるということをやめられないのではないかというご趣旨だと思いますけれども、これも常日頃申し上げている通り、そうした政策は財政ファイナンスのために行っているのではなくて、繰り返しですが、物価目標達成のために行っていますので、それが達成されるという見通しが立てば、修正していくということになります。
(問)
今の日銀の情勢判断では、2%物価目標の持続的・安定的実現に向けた見通し自体もさることながら、それよりもその確度が重要なフェーズに入ってきていると理解しておりますが、そうなるとマイナス金利解除のような重要な政策も、必ずしも物価見通しを更新するのに合わせてやる必要はないように思います。にもかかわらず、一方で市場では、マイナス金利解除のような重要な政策は展望レポートの公表に合わせてやるという見方が根強いんですが、このマイナス金利解除のような政策転換と展望レポートを合わせてやる必要性は必ずしもあるのかないのか、その辺りのご判断をお聞きしたいと思います。
(答)
展望レポートは年4回で、決定会合は年8回ですので、決定会合ではそのときの判断で必要に応じて政策変更するということは前提ですので、展望レポートがない回でも政策変更はあり得るということです。
(問)
一点お伺いします。政策修正について、市場ではマイナス金利の解除について今関心が高いと思うんですけど、他のYCCの解除などに先立って最初にマイナス金利の解除が行われるということでよろしいのでしょうか。
(答)
物価目標が達成されるという見通しが持てたときに、どういう順序で今行っている様々な政策を解除するあるいは変更していくのかという順序付けについては、今のところまだ必ずしもこれという姿を持っているわけではありません。そのときの経済・物価情勢次第というふうに申し上げます。
(問)
賃金から物価への波及のところでお伺いできればと思います。日本はかねて人件費の上昇を価格転嫁するということが難しいとされていましたけれども、今、総裁の先ほどおっしゃったように変化が起こっているとすれば、その要因をどのようにみていらっしゃいますか。また、こうした動きは不可逆で今後も続いていくと思いますか。
(答)
これは全ての企業ではないと思いますが、ある程度のところで、価格交渉の際に、例えば原材料コストの上昇は転嫁できるけれども賃金の上昇はなかなか転嫁しにくい、あるいは転嫁するための売り手と買い手の交渉で使われるフォーミュラ、式のようなものに賃金が入ってないとかいう話をよく聞いたり致します。全ての企業ではない、ですからこそ賃金のサービス価格等への転嫁はある程度進んでるんだと思いますが、しかし、今申し上げたような話がしばしば聞かれます。これが一段の転嫁を阻んでいるということはあるかと思います。ただ、それも、一つには、賃金上昇がどれくらい続くかということに応じて変わってくるという見方も聞きます。それから社会的に、昨日も政労使での会議があったりしましたけれども、転嫁は望ましいという雰囲気が広がるかどうかというようなことも影響するというふうに思っておりますので、絶対無理だというわけではないと思いますし、少しずつ転嫁は進んでいくというふうにみております。
(問)
先ほどのお話とちょっと被って恐縮なんですけど、中小企業の価格転嫁や賃上げについて伺えればと思います。支店長会議でもご報告があったと思いますけど、業況の改善ペースが中小は大企業に比べて鈍かったりですとか、人件費の価格転嫁が難しかったりする状況があるかと思いますが、好循環への距離感という観点から現状の課題認識等ございましたらご教示頂けますと幸いです。
(答)
先ほどもちょっと申し上げました通り、中小でもそういう転嫁が進んでいるところもあると思いますが、一段と進むためには、一つは今の直前のご質問にお答えした点でもあるんですけれども、やはり中小は作ってる製品の買い手との交渉の中で立場が弱いということもあると思いますので、社会的に例えば賃金の価格への転嫁ということがある程度までは望ましいんだという規範といいますか、そういうものが醸成されるということは、プラスに働くというふうに思います。
(問)
マイナス金利解除できた後も緩和継続状態で、縮小はまだだいぶ先というお話だったんですけれども、それは数年単位あるいは現在の総裁の任期内の期間を超えた話というご認識でおっしゃられているのか。そうだとすると、それだけ物価安定目標の定着に向けた不確実性や日本社会のデフレマインドを払拭するのに、それぐらいの期間と緩和による後押しが必要というお考えなのか、ちょっとその辺りについてご教示頂ければと思います。
(答)
マイナス金利解除後、当面は緩和的な金融環境は続くんだと思いますが、それがどれくらいの長さになるかということは、今なかなか申し上げようがないと思います。そこからまた何か月か経って、あるいは何回かそれこそ展望レポートを作成して見通しを練り直す、という作業を続けていくんだと思いますが、それ次第ということにならざるを得ないと思います。
- (注)会見では「今年度も来年度も」と発言しましたが、正しくは「来年度も再来年度も」です。本文に戻る
以上