【挨拶】ブンデスバンク駐日代表事務所開設30周年祝賀レセプションにおける挨拶の邦訳
日本銀行総裁 黒田 東彦
2017年5月22日
本日は、ブンデスバンク東京事務所の開設30周年をお祝いするレセプションにお招きいただき、大変光栄に存じます。Dombret理事、Moede東京事務所長ほか皆様におかれましては、30年の節目を迎えられましたことを心よりお祝い申し上げます。
この30年の間、ブンデスバンクは、東京事務所をアジアの拠点と位置付けられ、2012年、東日本大震災の翌年には新たにトレーディング・オフィスを設置して事務所の機能を拡充するなど、常に力強いコミットメントを続けてこられました。
本日、各方面からお集まりのゲストの顔ぶれを拝見し、東京事務所の皆様が、この間のご努力によって、広く、深く、地域に根付いたネットワークを築いてこられたことに改めて敬意を表したいと思います。
この30年間を振り返りますと、この間、世界経済は、大きく発展を遂げています。1980年代までは概ね世界の実質GDPと同じペースで伸びていた世界の貿易額は、1990年代から2000年代央まで実質GDPを大きく上回るペースで増加を続けました。その背景には、1980年代末の東西冷戦終結後に新たに世界経済に組み込まれた中国や旧ソ連、東欧といった旧東側諸国に巨額の直接投資が行われ、Global Value Chainが発展していったことがあります。こうした新たなグローバル化の進展に際して、ドイツと日本は共に主導的な役割を果たしました。
グローバル化の進展は、金融・経済両面での各国・地域間の結びつきを強め、様々なメリットをもたらしました。もっとも、その裏側では、今から20年前のアジア通貨危機、あるいは10年前に勃発した世界的金融危機の事例をみても明らかなように、負のショックが国境を越えて伝播する度合いも高まっています。
こうした状況のもとで、中央銀行間の国際的な協力の重要性は、一段と増しています。この点、ドイツと日本の関係で申し上げますと、日本銀行も1956年にフランクフルトに事務所を構えています。ブンデスバンクと日本銀行は、地理的に遠く離れていても、お互いの事務所員を通じたルートも最大限に活用しながら、常に率直で有意義な意見交換をタイムリーに行ってきました。
なお、ここにいらっしゃるDombret理事は、国際担当の理事であるとともに、「貨幣博物館長」の顔もお持ちです。ブンデスバンクは、昨年12月に貨幣博物館をリニューアルされました。残念ながら私自身はまだ訪問できておりませんが、フランクフルト事務所からの報告によりますと、新しい貨幣博物館には見学者を飽きさせない大胆な創意工夫が凝らされ、その展示からは、「貨幣とは信頼である(Geld ist Vertrauenssache)」という強い信念、言い換えますと、物価安定に向けた強いコミットメントがひしひしと伝わってくると聞いています。
中央銀行を取り巻く環境は絶えず変化しています。日本銀行は、今後とも、ブンデスバンクとともに、「物価の安定」という共通の使命に向けて、切磋琢磨していきたいと思います。
最後になりますが、ブンデスバンクと日本銀行、さらには日独両国の友好と協力関係の一段の発展を祈念して、私のご挨拶とさせていただきます。