【挨拶】全国信用金庫大会における挨拶
日本銀行総裁 黒田 東彦
2017年6月21日
はじめに
本日は、全国信用金庫大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。
信用金庫業界の皆様方におかれては、地域に密着した金融機関として、中小企業や地域経済の活性化に積極的に取り組んでおられます。こうしたご努力に対し、日本銀行を代表して改めて敬意を表したいと思います。また、皆様方には、日頃より、日本銀行の政策や業務運営に多大なご協力を頂いています。この場をお借りして厚くお礼申し上げます。
本日は、はじめに経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてお話しし、次に金融システム面の話題について申し上げたいと思います。
経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営
まず、世界経済の動きをみますと、昨年半ば以降、着実な改善を続けており、ここにきて成長のモメンタムが一段と強まっているように窺われます。特に、製造業や貿易面の改善が明確になっています。
こうした世界経済の好転を受けて、わが国の景気の足取りも、よりしっかりとしたものになってきています。企業部門では、情報関連を中心とする世界的な製造業サイクルの好転や、新興国における在庫・設備調整の進捗などを背景に、輸出や生産が増加基調にあります。そうしたもとで、企業収益は過去最高の水準で推移しており、企業の業況感は業種の拡がりを伴いつつ改善しています。設備投資も、緩やかな増加基調にあります。家計部門では、雇用・所得環境が着実な改善を続けています。失業率が2%台後半まで低下するなど、労働需給は一段と引き締まっており、賃金も緩やかに上昇しています。そうした動きに支えられ、個人消費は底堅さを増しています。このように、輸出・生産を起点とする前向きの循環が強まる中、労働需給は着実に引き締まり、経済活動の水準を表す需給ギャップのプラス基調が定着しつつあります。こうした状況を踏まえ、日本銀行では、わが国の景気について、「緩やかな拡大に転じつつある」と判断しています。先行きについても、わが国経済は、2018年度までの期間を中心に、景気の拡大が続き、潜在成長率を上回る成長を維持するとみています。
こうしたもとで、物価上昇率については、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、2%の「物価安定の目標」に向けて上昇率を高めていくと考えられます。もっとも、これまでのところ、実際の物価上昇率が幾分弱めの動きとなっているほか、予想物価上昇率が弱含みで推移しているなど、実体経済が着実に改善している割には、物価面は勢いを欠いた状況が続いています。2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムはしっかりと維持されているとみていますが、物価動向については、引き続き注意深く点検していく必要があると考えています。
金融政策運営面では、日本銀行は、昨年9月に、「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果について総括的な検証を行い、その結果を踏まえ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。この枠組みのもとで、日本銀行は、経済・物価・金融情勢を踏まえ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促しています。新たな枠組みの導入後、9か月が経過しましたが、この間、わが国のイールドカーブは、日本銀行の「金融市場調節方針」と整合的な形で円滑に形成されています。こうしたもとで、金融環境はきわめて緩和した状態にあります。
先ほど申し上げたように、世界経済が好転するもとで、わが国の景気の足取りも、よりしっかりとしたものになってきています。しかしながら、2%の「物価安定の目標」までにはなお距離があり、日本銀行としては、現在の「金融市場調節方針」のもとで、強力な金融緩和を推進していくことが適切であると考えています。
金融システム面の話題
次に、金融システム面の話題について、お話しします。
わが国の金融システムは安定性を維持しており、金融仲介活動は引き続き円滑に行われています。信用金庫を含む金融機関の貸出姿勢は積極的であり、貸出残高は堅調な伸びを続けています。また、金融機関による有価証券投資の面でも、積極的な姿勢が維持されています。
一方、地域金融機関の収益面についてみると、貸出利鞘の縮小等を背景に、預貸業務等による基礎的収益力は趨勢的に低下しています。先行きについても、人口減少や高齢化といった構造的要因が引き続き逆風として働くことが予想されます。
そうした厳しい経営環境ではありますが、地域経済にとって、それぞれの地域に根差した金融機関である信用金庫が果たす役割は大変大きいものがあります。各信用金庫におかれては、それぞれの強みを活かしつつ、付加価値の高い金融サービスを提供することを通じて、地域経済の成長に貢献していかれることを期待しています。また、地域経済の成長は、信用金庫自身の経営基盤の強化にも繋がっていくと考えています。
実際、信用金庫業界においては、地域の企業が直面しているニーズや課題に応じて、成長分野に対する貸出や、創業・事業再生・事業承継の支援など、地域の企業を金融面から支援しています。また、金融商品の販売などを通じて、高齢化が進むもとでの個人の資産運用ニーズにも対応しておられます。
日本銀行としても、考査・モニタリングのほか、貸出増加や成長基盤強化を支援するための資金供給の実施、セミナー等を通じて、皆様方の取り組みを引き続き積極的にサポートしていきたいと考えています。
おわりに
最後に、信用金庫業界が、今後ますます発展していかれることを祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。