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【挨拶】全国信用金庫大会における挨拶

日本銀行総裁 植田 和男
(代読 日本銀行副総裁 内田 眞一)
2024年6月21日

はじめに

本日は、全国信用金庫大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。

信用金庫は、地域における協同組織金融機関として、中小企業や住民の方々に寄り添い、地域経済や地域社会の成長・発展に大きく貢献されておられます。あらためて、皆様の日頃のご尽力に対して、日本銀行を代表して深く敬意を表します。

経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営

まず、はじめに経済・物価情勢について、申し上げます。

わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。先行きは、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けるとみています。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、足もとは2%台半ばとなっています。先行きは、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、来年度にかけては、政府による経済対策の反動等が前年比を押し上げる方向に作用すると考えられます。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと想定しており、「展望レポート」の見通し期間後半には2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとみています。この点、わが国経済・物価を巡る不確実性は上下双方向で引き続き高く、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響に、十分注視する必要があると考えています。

続いて、金融政策運営です。日本銀行は、先週の金融政策決定会合において、次回決定会合までの金融市場調節方針については、無担保コールレート・オーバーナイト物を、0から0.1%程度で推移するよう促すこととしました。先行きは、今後の情報やデータ次第ですが、只今ご説明しました見通しに沿って経済・物価が展開していくのであれば、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。長期国債の買入れについては、次回決定会合までは本年3月に決定した方針に沿って実施し、その後については、金融市場において長期金利がより自由な形で形成されるよう、減額していく方針を決定しました。市場参加者のご意見も確認し、次回決定会合において、今後1から2年程度の長期国債買入れに関する具体的な減額計画を決定しますが、減額は相応の規模になると考えています。

今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営して参ります。

金融システム面の話題

次に、金融システム面の話題です。

わが国金融機関は、充実した資本基盤と安定的な調達基盤を有しており、金融システムは、全体として安定性を維持しています。もとより、内外の経済・物価情勢や市場環境は、不確実性が高い状況が続いていますので、金融機関は、預貸運営や有価証券投資を適切に行うとともに、リスク管理を強化していくことが一段と重要になっています。

また、取引先である中小企業を取り巻く環境をみますと、コロナ禍を経て経済活動が正常化するもとで、原材料高や人手不足などへの対応が、喫緊の課題となっています。こうしたもとで、中小企業においては、資金繰りや本業の支援はもとより、事業承継・M&Aなどの事業構造転換、海外・インバウンド需要の取り込みやデジタル化など、環境変化に前向きに対応するための幅広い支援に対するニーズが高まっています。

この点、今年度策定された信用金庫業界の中期経営計画においては、信用金庫として、地域社会を取り巻く環境の変化に応じた自己変革に取り組むとともに、「地域のすべての人の成長と幸せのために行動し、地域が抱える課題解決に貢献し、持続可能な地域社会を創る」ことを掲げておられます。

わが国経済の成長力を高めていくうえで、活力ある地域社会・地域経済の持続的発展は不可欠です。環境変化をチャンスと捉え、地域に根差した信用金庫の強みを活かして、より一層、役割を発揮して頂くことを期待しております。

おわりに

最後に、信用金庫業界の皆様の今後のますますのご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。