【挨拶】点から線へ、線から面へ「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会(第10回)」における開会挨拶
日本銀行理事 神山 一成
2026年2月2日
本日は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する連絡協議会にご参加頂き、誠にありがとうございます。
最初に、最近の内外の動きからお話ししたいと思います。欧州では、昨年10月、欧州中央銀行(ECB)が、今年中の法整備を前提に、2029年中のデジタルユーロの発行を目指すことを公表しました。これは、CBDCをリテール分野で活用しようというものですが、ホールセール決済分野においても、域内の中央銀行が進めてきた実証実験をもとに、分散型台帳技術(DLT)を用いて、中銀RTGSシステムと市中プラットフォームとを連携し、デジタル資産を中銀マネーで決済する取り組みを推進することを公表しています。
この間、ステーブルコインやトークン化預金に関する様々な取り組みもみられています。特に目立つのがステーブルコインにおける動きです。ステーブルコインの残高の9割以上がドル建てである状況に対して、欧州の10銀行がユーロ建てステーブルコインを本年後半に発行する計画を発表しています。わが国でも、3メガバンクが共同する形で、事業会社の社内外決済での活用などを念頭に、円建てステーブルコインにかかる実証実験に向けた取り組みを発表しています。
このように決済サービスの改善に向けた様々な取り組みが内外でみられているもとで、私どもの検討も進展しています。最近の検討状況については、このあと事務局から詳しい説明がありますので、私からは、少し過去に遡って、私どもが、皆さんにも参加して頂きながら、これまでどのような検討を行ってきたのか、さらに、最近の内外の動向も踏まえて、今後どのような検討を行っていくのかについて、お話ししたいと思います。
日本銀行が2020年10月にCBDCに関する取り組み方針を発表し、それを受けて本協議会の初回会合が開かれたのは2021年3月、今から5年前のことになります。本席で、私どもからは、CBDCが具備すべき基本的な特性をご説明し、同年4月にスタートする実証実験、概念実証フェーズ1の進め方などをお示ししました。その後の意見交換では、革新的なサービス提供への期待が示されるとともに、民間が既に提供している様々な決済サービスとの関係やCBDCに対応するためのコストへの懸念が多く示されたことを記憶しております。
台帳設計パターン毎の処理性能の確認など概念実証フェーズ1の成果を踏まえ、私どもは、台帳システムの処理性能や信頼性に関する検証をさらに進めるべく、CBDCの保有額制限など技術的な課題について早めに確認しておくことが望ましい機能を加えて、2022年4月に概念実証フェーズ2を開始しました。皆さんには、この場での議論にとどまらず、様々なかたちで多くのご意見を頂戴し、そうした活発な議論を取りまとめて、2022年5月に、本協議会の中間整理として公表いたしました。いずれCBDCの要否や制度の骨格について幅広い関係者が議論していく際のたたき台となることを期待して作成した中間整理は、その後、CBDCに関する制度設計の大枠の整理に向けて開催された「CBDCに関する有識者会議」において、実際にたたき台としての役割を果たすことになりました。
2023年4月には、それまで行っていた概念実証に続く、次なるステップとして、パイロット実験がスタートしました。スタート後3年近くを経過した現在、パイロット実験の2本柱の1つである実験用システムの構築と検証においては、プライバシー配慮と高頻度取引の円滑な実現などに対応した実験用システムを使った検証が完了し、高負荷試験の評価と性能面・機能面の拡張性など社会実装に向けた課題を整理しています。パイロット実験のもう一つの柱であるCBDCフォーラムでは、民間決済システムに関わる数多くの民間事業者の方々に参加して頂き、幅広いテーマに関し、7つのワーキンググループ(WG)に分かれて精力的に議論を行って、検討結果を積み重ねてきています。
実験用システムの検証結果を一言で言えば、現時点においては、CBDCを社会実装する場合の技術面での致命的な課題は見付からないということになります。もっとも、社会実装時に求められるシステムの内容や規模によって、技術的なハードルは異なり、その内容如何によっては、不可能とは言えないにしても、相応に高いハードルとなることは否めません。そうした場合、一段の技術革新を待つというのも一つの選択です。しかし、ステーブルコインやトークン化預金の取り組みの拡大など、冒頭に申し上げたような最近の内外の環境変化を踏まえますと、そうした選択をとり続けていくことは適当ではありません。一国の決済システムの進歩が経路依存的な性格を持っていることをしっかりと意識し、これまでの議論を活用して、デジタル社会にふさわしい決済システムの構築に向けて、その安全性と効率性を向上させる取り組みを前進させていく必要があると考えられます。
この点、新しい決済サービスに関する世間の関心が高まるとともに、決済システム全体の将来像に関する議論への期待も膨らんできている現在は、私どもの取り組みを前進させるにはちょうど良いタイミングのように感じます。そこで、私どもは、この春より、日本銀行と民間事業者間での双方向の議論が、CBDCを含めた決済システム全体の将来像を見据えて、より解像度の高い形で行えるよう、CBDCフォーラムにおける現行7つのWGを3つのディスカッショングループ(DG)に統合・再編していくことにしました。こうした運営方法の見直しにより、内容面では、リテール決済分野だけでなく、DLT関連技術やトークナイゼーション等、ホールセール決済システムにかかる検討もカバーして、デジタル社会にふさわしい決済システムのあり方について、一段と深い議論を行っていくことができると考えています。そうした議論の内容については、本協議会にもしっかりとフィードバックさせて頂きたいと考えています。
本協議会における議論を振り返ってみて改めて感じることは、個々の情報や知識は、いずれ、それらが積み重なる「線」や、それらが構成する「面」を意識することになっていくということです。一つ一つの「点」に過ぎなかった議論が、わが国決済システム全体の将来像という「面」にしっかりと結実していくよう、引き続き私どもの取り組みへのご協力をお願いして、私からの挨拶とさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。
