【挨拶】 第101回信託大会における挨拶
日本銀行総裁 植田 和男
(代読 日本銀行副総裁 氷見野 良三)
2026年4月13日
はじめに
本日は、第101回信託大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。また、この度、信託協会が創立100周年を迎えられましたことに、心よりお祝い申し上げます。
信託業界の皆様が、一世紀という長きにわたり、信託の健全な発展と普及に尽力され、わが国の経済・社会の成長と安定に多大なる貢献をされてこられたことに、日本銀行を代表して深く敬意を表します。
本日は、経済・物価情勢と金融政策運営に加え、新たな100年へと歩みを進める信託の役割への期待についてお話ししたいと思います。
経済・物価情勢と金融政策運営
まず、経済・物価情勢と金融政策運営です。
わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。春季労使交渉では、前年と同程度のしっかりとした賃上げ率が実現しています。物価については、賃金上昇を販売価格に転嫁する動きが続くもとで、一時的な要因を除いた基調的な物価上昇率は、2%に向けて緩やかに上昇しています。このように、これまでのところ、わが国の経済・物価は、私どもの「展望レポート」で示してきた見通しに概ね沿って推移しています。
もっとも、中東情勢の緊迫化を受けて、国際金融市場では不安定な動きがみられるほか、原油価格も大幅に上昇しており、今後の動向には注意が必要です。資源輸入国であるわが国にとって、原油価格の上昇は、交易条件の悪化を通じて景気を下押しする要因となるほか、中東情勢の緊迫が長期化した場合には、サプライチェーンへの影響を通じて、企業の生産活動に下押し圧力がかかるリスクもあります。物価面では、原油価格の上昇は、短期的にエネルギー価格等を押し上げると考えられますが、基調的な物価上昇率に対しては、上下双方向に作用する可能性があります。景気に下押し圧力がかかり、需給ギャップが悪化すれば、基調的な物価上昇率を下押しする可能性があります。一方、原油価格の上昇が、人々の中長期の予想物価上昇率の上昇につながれば、基調的な物価上昇率の押し上げに作用すると考えられます。ここ数年、企業の賃金・価格設定行動が積極化しているなかにあって、こうした物価上昇のメカニズムが過去に比べて強まっている可能性があることにも留意が必要です。
金融政策運営について、先月の決定会合では、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、「展望レポート」の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくという、それまでの方針を維持することとしました。そのうえで、今後は、中東情勢がなお不透明な状況にあることを踏まえ、その帰趨や、それが経済・物価・金融情勢に及ぼす影響を注視しつつ、経済・物価の中心的な見通しが実現する確度やリスクを点検していきたいと考えています。
信託の果たす役割への期待
次に、信託業界の皆様に期待することを申し上げます。
第一に、人生100年時代を支える社会的な基盤としての役割です。少子高齢化・長寿化が進む中、若年層の資産形成から高齢層の資産管理、次世代への円滑な承継に至るまで、ライフステージに応じたきめ細かなサービスへのニーズは一層高まっています。こうした多様なニーズに寄り添い、安心して利用できる仕組みを、これまでと同様に提供していかれることを期待します。
第二に、個々人の金融リテラシーを高める取り組みです。ライフプランが多様化する中、自身のニーズに合った金融サービスを的確に選択するためには、正しい知識が欠かせません。信託の強みを活かした情報提供や教育支援を通じて、人々の安定した生活を後押しすることが求められます。
第三に、経済のダイナミズムを支える機能です。家計の金融資産や投資家の資金を、信託の枠組みを通じて成長分野に還流させることは、わが国経済の活力を高めるうえで重要です。円滑な事業承継の支援は、地域経済の活性化に直結します。デジタル技術を活用し、金融サービスの利便性向上やフロンティアを牽引していくことも、次なる成長を支える大きな力となります。
信託業界の皆様が、時代の要請に応えながら、わが国経済・社会の持続的な発展の原動力として、新たな歴史を刻んでいかれることを願っています。
おわりに
最後になりましたが、信託業界の皆様の今後のご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。
