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【挨拶】わが国金融システムの進化と安定に向けて「第21回AIMAジャパンフォーラム」における挨拶

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日本銀行理事 神山 一成
2026年5月14日

1.はじめに

皆さま、おはようございます、日本銀行の神山と申します。本日は、世界的にもますます重要性を増している「オルタナティブ投資運用の発展」に日々取り組んでおられる国内外の関係者の皆さまを前に、このようなお話の機会をいただき、誠に光栄です。

現在、世界および日本の金融環境は大きく変化しています。その変化の中で、とりわけ強調すべきは、グローバルな視点に立ったうえで、金融システムにおいてますます重要な役割を果たすノンバンク金融仲介機関(Non-Bank Financial Intermediaries)、すなわちNBFIを検討することの重要性です。

日本銀行では、金融システムの安定性を評価することと、安定確保に向けた課題について関係者とのコミュニケーションを深めることを目的として、年に2回、金融システムレポートを公表しています。最新号は先日公表したばかりですが、レポートにおけるNBFIに関する記述は回を追うごとに増えています。その他にも、日銀レビューやワーキングペーパーなどの媒体を通じて、NBFIに関する多くの情報発信を行っているところです。

本日は、そうした日本銀行の見解を交えながら、NBFIや投資ファンドの現状、その課題、そして将来的に期待される役割についてお話しさせていただきます。また、皆さまとともに知識を共有し、建設的な意見交換を通じて、持続可能で安定した金融システムの発展に資するヒントを見つけ出せればと願っています。

2.グローバルに見たNBFIと投資ファンドの拡大

はじめに、グローバルな視点からNBFIと投資ファンドの動向についてご説明いたします。NBFIは、一般的に銀行以外の金融機関全体を総称するもので、具体的には、投資ファンド、保険会社、年金基金、ブローカー・ディーラー、ファイナンス会社など、多岐にわたる業態で構成されています。

グローバルにみたNBFIの保有資産残高は近年増加の一途をたどり、現在、金融資産全体に占める割合では50%程度と、銀行部門の40%程度をしのぐまでになっています。これにより分かるように、金融仲介機能を果たす銀行以外の主体が、存在感をさらに増しており、それぞれの業態ごとに専門的な金融商品やサービスを提供することで、多様な社会のニーズに応えています。

中でも、AIMA(オルタナティブ投資運用協会)の多くのメンバーの皆さまが関わっておられるヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンド、プライベート・クレジット・ファンドといった投資ファンドの存在感は、特に増していると言えます。

具体的に、ヘッジファンドについては、その取引量や運用資産の増大を通じて金融市場における影響力を高めております。投資家から集めた資金を元手に借入、レポ取引、デリバティブを用い、レバレッジを効かせた柔軟かつ高頻度での取引を行うことで高い運用パフォーマンスを追及するのみならず、流動性を供給して資金調達の円滑化に寄与するとか、裁定取引を行うことで現物と先物の価格差など価格の歪みを是正し市場の効率性を向上する、といった機能も発揮しています。

また、プライベート・エクイティやクレジット・ファンドの動きも見逃せません。これらの投資ファンドは、主に企業の多様な資金調達ニーズに応えるかたちで急成長してきました。特に米国では、2008年の金融危機を契機に銀行規制が強化されたことで、代替的な金融手段として重要な位置を占めるようになりました。これらのファンドは、柔軟な対応力を武器に、長期的な資金提供を行いながら規模を拡大させています。

さらには、近年の世界的な投資動向において、投資家が不動産、未公開株、商品などの「オルタナティブ資産」に積極的にリスクを取る姿勢がみられるようにもなりました。これは、従来の株式や債券などの伝統的資産と異なる選択肢を求める動きとして注目されており、これが投資ファンドの成長をさらに後押ししているのです。

3.わが国におけるNBFIと投資ファンドの特徴

次に、日本におけるNBFIと投資ファンドの現状についてご説明します。

グローバルなデータと比較すると、わが国におけるNBFIの総金融資産に占めるシェアは約30%と、世界全体の50%に比べて低い水準にとどまっています。しかし、その内訳を詳しくみると、従来からの主要プレーヤーである保険会社や年金基金などのシェアが縮小する中、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドが台頭し、その存在感は確実に高まっています。

特に注目されるのは、日本国内の株式や債券市場で高まる海外ヘッジファンドのプレゼンスです。例えば、国債市場における海外投資家による現物国債の取引は、購入・売却の両面で急増しています。こうした背景には、グローバルなヘッジファンドによる裁定取引やリスク管理を目的としたヘッジ取引が大きな役割を果たしていることが挙げられます。

また、国内のプライベート・エクイティ・ファンドの活躍も無視できません。近年、日本の企業が積極的なコーポレートアクションに取り組む中、これらのファンドが資金提供や経営支援を通じて事業再編やM&Aを促進する動きが顕著にみられます。こうした活動は、日本の市場に新たな成長の種を蒔き、長期的な経済発展に寄与していると言えます。

日本のNBFIセクターの規模は、グローバル市場と比べまだ小さなものであることは事実ですが、同時に大きな成長の余地を秘めています。国内外の先進的な取り組みを学び、日本の経済構造や社会ニーズに応えるような金融サービスを充実させていく必要があります。

4.日本銀行が金融システムの安定の観点から重視する視点

NBFIや投資ファンドの重要性が高まることは、金融システム全体に与える影響力が高まることをも意味します。日本銀行を含む中央銀行は、金融システムの強靭性を高めるため、特に以下の3つの視点を重視しています。

第一に、NBFI業態の多様性とリスク特性への深い理解です。NBFIは、幅広い業態で成り立ち、それぞれ異なるバランスシート構造やリスク特性を有しています。例えば、プライベート・クレジット・ファンドは中途解約制限を採用する一方で、米国市場では一定条件で解約を許容するリテール向け商品も存在しています。このような動向を的確に把握し、各業態の特長を深く理解することが、安定的な金融システムを築いていく上での土台になると考えています。

第二に、金融システムへのマクロ的な影響の把握です。投資ファンドの活動は、リスクマネーの供給を通じて経済成長を促す役割を担い、金融・資本に寄与する一方、システム全体に潜在的なリスクをもたらすこともあります。例えば、グローバルに活動するヘッジファンドによる資金の急激な動きが、債券や株式市場の価格変動を増幅させる可能性も否定できません。また、日本国内の金融機関が海外投資ファンドに対する投融資を拡大しているため、海外発のショックが国内市場にも瞬時に波及し得るというリスク管理の課題が浮上しています。

そこで第三の点、最後になりますが、劣らず重要なこととして、国際的な協調と連携を挙げなくてはなりません。NBFIのグローバルな活動が広がる現在、各国の中央銀行や監督当局との協力がますます重要になっています。世界的な投資ファンドの成長など急速に変化する金融環境に対応した十分なデータを整備し、NBFIの活動の拡がりに伴うリスクや影響をできるだけ的確に把握するために、国際社会での情報共有や意見交換を積極的に進めていくことが重要です。日本銀行としても、こうした議論の場に、今後とも積極的に貢献し、NBFIセクターを含む金融システム全体の発展に寄与していく所存です。

5.おわりに

最後にもう一度強調させていただきたいのは、日本銀行が国内外のオルタナティブ投資運用の関係者の皆さまとともに対話を深めていくことが重要だ、ということです。金融環境が大きく変貌しつつある今、私たちは金融システムの進化と安定のために、連携して行動し続けていきたいと思います。

本日の議論を通じて皆さまと知見を共有し、互いに学び合う中で、未来の金融システムに向けた新たなヒントを見つけられることを願っています。多くのインサイトやご提言がもたらされることを期待しつつ、ご清聴いただきましたことを心より感謝申し上げます。ありがとうございました。