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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策兵庫県金融経済懇談会における挨拶要旨

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日本銀行政策委員会審議委員 田村 直樹
2026年6月25日

1.はじめに

日本銀行の田村でございます。本日は、兵庫県の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜り、誠にありがとうございます。また、日頃より、日本銀行神戸支店の業務運営にご協力頂いておりますことに、厚く御礼を申し上げます。

本日は、まず私から、わが国の経済・物価情勢や日本銀行の金融政策運営などについて私見を交えながら説明させて頂き、その後、皆様から兵庫県の実情に即したお話や日本銀行に対するご意見などを承りたく存じます。

2.経済・物価情勢

(1)わが国経済の現状と見通し

はじめに、わが国の経済情勢についてお話します。わが国の景気は、中東情勢の影響もあって一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復していると判断しています。

昨年4月に米国の新たな関税政策が発表されて以降、それがわが国経済に及ぼす影響に大きな不確実性がある中で、図表1に示した通り、日本銀行の経済見通しは修正を余儀なくされてきました。もっとも、その後、わが国を含む多くの国や地域で米国との通商交渉が合意に至り、米国の関税政策に関する不確実性がはっきりと低下したほか、企業マインドについては、図表2に示した短観の業況判断DIが良好な水準を維持するなど、前向きな姿勢が維持されてきました。企業マインドは、関税政策が発表された後もあまり悪化せず、この間、グローバルなAI関連需要による経済の押上げがあったとは言え、結果として、当初の企業の見方が正しかったといえます。こうした下で、日本銀行の2026年1月見通しでは、2025年度および2026年度のいずれも、米国の関税政策公表前の2025年1月見通しと概ね同程度の水準まで見直していました。

このように、わが国経済は、先行き、緩やかな成長を続けると考えていましたが、本年2月に中東情勢を巡る緊張が高まって以降、日本銀行では、本年4月、再び見通しの修正を余儀なくされました。具体的には、2026年度については、中東情勢の影響を受けた原油価格上昇が、交易条件の悪化などを通じて、企業収益や家計の実質所得に対する下押し要因となることから、見通しを下方修正しました。2027年度以降は、原油高のマイナスの影響が減衰し、所得から支出への前向きな循環メカニズムが徐々に強まっていくことから、成長率を緩やかに高めていく想定です。なお、この見通しは、先行き、中東情勢の緊張緩和に伴い、ドバイ原油価格が4月見通し策定時点の水準から低下していくことを前提としていますが1、今後、想定と比べて原油価格の高止まりが続いた場合は、わが国経済が更に下振れるリスクがあります。

私としても、中東情勢の影響に伴い、国内物価の上昇から、経済にある程度の下押し圧力がかかることは避けられないと考えています。もっとも、先ほど申し上げた短観の業況判断DIをみると、3月調査の時点では――回答期間2を考慮すると、中東情勢の影響がどの程度織り込まれているのか、注意してみる必要はあるものの――リーマンショックやコロナ禍のような大幅な悪化には至っておらず、依然として前向きな企業マインドが維持されているように見受けられます。また、今後の景気の悪化度合いは、物価がどの程度上昇するのか、賃金や予想物価上昇率の上昇などを通じて持続的なものとなっていくのか、という点に大きく左右されると考えており、先行きのわが国経済にとっては、今後の物価動向が非常に重要であると考えています。

  1. 2026年4月見通しでは、原油価格について、先物市場の動向などを参考に、1バレル105ドル程度を出発点に、2028年度末にかけて、70ドル台程度まで下落していくことを前提としています。足もとでは、中東情勢の緊張緩和に向けた動きがみられているものの、今後の物流回復ペースを含め、依然として不透明な状況が続いていると捉えています。
  2. 短観の3月調査の回答期間は2月26日から3月31日、回収基準日は3月12日でその時点までに調査票の回収率は7割程度です(なお、最終的な回答率(業況判断の有効回答先の比率)は99.0%です)。

(2)わが国物価の現状と見通し

では、わが国の物価についてお話したいと思います。図表3の通り、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比をみると、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、米などの食料品価格上昇の影響もあって、2%を上回って推移してきましたが、足もとでは、政府によるエネルギー負担緩和策の効果などから、1%台半ばとなっています。

物価見通しについても、経済見通しと同様、昨年4月以降の米国の関税政策のもたらす不確実性を背景に、修正を余儀なくされてきましたが、先ほども申し上げた通り、企業の前向きな姿勢が維持されており、また、2026年度にかけて幅広い企業でのしっかりとした賃上げが見込まれた下で、日本銀行は、図表4の通り、2026年1月時点で、2026年度の消費者物価(除く生鮮食品)の見通しを、米国の関税政策公表前と概ね同程度に見直していました。

もっとも、物価についても、中東情勢を受け、日本銀行では、再び見通しの修正を余儀なくされました。具体的には、「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、賃金上昇を販売価格に転嫁する動きが続くもとで、原油価格上昇が、エネルギー価格や財価格を中心に押し上げ方向に作用することから、2%をはっきりと上回る水準まで伸び率を高めていくと予想される。その後は、原油高の影響が減衰していくもとで2%程度に向けてプラス幅を縮小していくと予想される」、「消費者物価の基調的な上昇率は、徐々に高まっていくと予想され、2026年度後半から2027年度にかけて『物価安定の目標』と概ね整合的な水準となり、その後も同程度で推移すると考えられる」というのが、日本銀行としての中心的な見通しです。なお、これは、先ほども申し上げた通り、中東情勢の緊張緩和とそれに伴うドバイ原油価格の低下を前提としており、今後、原油価格の高止まりが続いた場合は、消費者物価が上振れるリスクがあります。

(3)私見――2%の「物価安定目標」は既に実現、上振れリスクが大きい

以上が日本銀行としての公式見解となりますが、私としては、基調的な物価上昇率は、既に2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準に達したと判断しています。また、物価の先行きについては、中心的な見通しと比べて上振れて推移するリスクが高いとみています。以下、私がそう考える理由を説明したいと思います。

第一に、基調的な物価上昇率についてです。私は、以前から、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムが維持され、最近のインフレが内生的、粘着的なものへと変化している下で、「物価安定の目標」が実現されたと判断するためのラストピースは、2026年の賃上げ動向、すなわち、2026年の賃上げが3年連続で2%の「物価安定の目標」と整合的な水準となるか確認できることである、と申し上げてきました。この点、今年の春季労使交渉の状況をみますと、図表5の通り、連合の集計では、大企業、中小企業ともに、ベアで3%台半ばと、2%を上回る、しっかりとした賃上げを維持できる見込みであることが確認できました。

第二に、消費者物価指数の動向です。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、表面的には足もと2%を下回っていますが、これは、エネルギー負担緩和策や教育無償化政策などの効果が影響しています。こうした特殊要因を除けば、図表6の通り、2%を上回る水準で推移しており、これは、私としては「想定通り」の結果です。

第三に、中長期の予想物価上昇率の動向です。私は、以前からお話している通り、物価動向を考えるうえでは、実際の経済活動の主体である企業や家計の予想物価上昇率を重視すべきと考えています。これまでも、企業や家計の予想物価上昇率は、概ね2%に達しているのではないか、ということを申し上げてきましたが、最近の結果を見ると、図表7の通り、企業については、短観の3月調査において、5年後の物価全般の見通しは2.5%と、昨年12月調査と比べ、0.1%ポイント上昇しています。また、家計については、「生活意識に関するアンケート調査」の結果を見ると、バイアスがあるため水準自体は割り引いてみる必要があるものの、3月調査では、5年後の予想物価上昇率の平均値が10.3%と、昨年12月調査と比べ0.5%ポイント上昇しています。過去数か月間、表面的なインフレ率が低下する中にあっても企業や家計の予想物価上昇率が低下しなかったことは、――これらの調査期間3を踏まえると、中東情勢の影響が多少反映されている可能性には留意する必要がありますが――企業や家計の行動が変容し、デフレ期・ディスインフレ期のものから変化していることを端的に示していると考えています。また、市場参加者の予想物価上昇率についても、概ね2%程度まで上昇しています。以上から、私としては、「物価安定の目標」は既に実現されたと判断しています。

  1. 3短観の3月調査の回答期間は2月26日から3月31日、生活意識に関するアンケート調査の3月調査の調査実施期間は2月4日から3月9日です。

(4)私見――先行きの物価上振れリスクの増大

続いて、先行きの物価の上振れリスクについて、最近、わが国の物価が大きく上昇した、2022年のロシアのウクライナ侵攻時と比較しながらお話したいと思います。

第一に、企業や家計の予想物価上昇率です。足もとの企業や家計の予想物価上昇率は、先ほど申し上げた通り、2022年当時と異なり、既に概ね2%に達しており、更に上昇を続けている状況です。予想物価上昇率が2%程度で安定している欧米と異なり、低い水準から上昇してきたわが国において、今回の中東情勢の影響も相まって、これが更に上振れてしまわないか、懸念しています。

第二に、企業の価格設定行動の積極化です。図表8は、短観で「販売価格は上昇する」と回答した企業の割合を、「仕入価格は上昇する」と回答した企業の割合で割った値――価格転嫁に関する企業の積極性を示す大まかな指標――ですが、この指標は、2022年以降に上昇し、足もとまでバブル期以来の高い水準が維持されてきました。最近では、輸入物価の国内物価へのパススルー率が高まっているほか、輸送費や人件費の上昇が続く下でその価格転嫁が進められている最中であること、大企業等が先行して値上げを実施する下で、地域の消費関連企業でも値上げの動きが広がっていること4、政府が適正な価格転嫁の実現に向けた取組みを強化する下で価格転嫁が進んでいることなども、物価上振れリスクを高めている状況です。

第三に、このような企業の価格設定行動の積極化の背景には、従前から申し上げている通り、経済全体の需要が潜在的な供給力を上回っており、物価に上昇圧力がかかっていることがあると考えています。この点、日本銀行が推計している需給ギャップをみると――推計手法によって異なる値をとり得るほか、様々な推計誤差が含まれるため、幅を持ってみる必要がありますが――、図表9の通り、2022年以降、総じてプラスの領域(供給不足、需要超過)が続いています。また、企業の人手不足感を示す短観の雇用人員判断DIは、図表10の通り、足もとで一段と人手不足感を強めています。このような人手不足の結果、設備を動かしたくても動かせず、設備の稼働率が低下する場合、ここで計算される需給ギャップには下方向のバイアスがかかります。すなわち、稼働率が低下しているといっても実態的には供給余力があるわけではなく、需給ギャップの数字が示す以上に供給不足、需要超過となっていると考えられます。なお、原材料不足から企業が関連製品の生産を十分に行えなくなる場合、設備稼働率の低下から需給ギャップの数字が下押しされることになり、数字が実態から乖離してしまうことにも注意が必要です。

2022年当時は、企業も家計もデフレ期・ディスインフレ期の行動様式が残っていたことから、グローバルに資源価格が上昇する下でも、企業は販売価格の引上げに依然として慎重であり、一定のラグを伴った後、やむにやまれず価格の引上げを余儀なくされた面があったかと思います。図表11の企業物価と消費者物価をみても、輸入物価上昇のピークの半年後に国内企業物価がピークをつけ、1年後に消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)がピークをつけていることが確認できます。一方で、今回の輸入物価上昇については、先ほど申し上げたような企業や家計の行動様式の変容、供給不足・需要超過といった環境の変化から、私としては、2022年当時以上に、迅速、大幅かつ広範に販売価格に転嫁されるのではないかと心配しています。図表12は、企業間取引価格の波及ラグをまとめたものですが、企業物価における石油・石炭製品、化学製品、プラスチック製品の企業間取引では既に値上げが行われ始めており、今後、こうした価格転嫁がどの程度、どのようなスピードで行われていくのか、注視が必要です。

なお、2022年当時は、コロナ禍で蓄積した貯蓄が物価上昇の中でも消費を下支えした側面があったのに対し、足もとではそうした力は弱まっています。一方で、当時と比べるとしっかりとした賃上げの状況、企業部門に蓄積された高水準の収益、エネルギー負担緩和策などの政府による負担軽減策などが、代わりに、景気を下支えする可能性が大きいと考えています。

  1. 4地域の消費関連企業の動向の詳細は、「地域経済報告―さくらレポート―(別冊シリーズ) 地域の消費関連企業の価格設定行動の変化と2026年度の価格改定方針」(https://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rerb260515.htm)をご覧ください。

3.金融政策運営

(1)先行きの金融政策運営

ここからは、日本銀行の金融政策運営についてお話します。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指して、政策運営を行っており、2024年3月の金融政策の枠組みの見直し以降、短期金利の操作を主たる政策手段と位置付ける、普通の金融政策に戻っています。そして、短期政策金利の誘導目標を2024年3月に0から0.1%とした後、段階的に引き上げ、図表13の通り、直近6月の金融政策決定会合では1.0%程度としました。

先ほども申し上げた通り、私としては、(1)基調的な物価上昇率は既に2%に達したと考えています。また、(2)中東情勢を受けて物価見通しは大幅に上方修正されたほか、今後、(3)中東情勢がどのような展開を辿るにせよ、物価に関しては上振れ方向のリスクがあると考えています。(4)そうした下で、足もとの政策金利は、中立金利を下回る緩和的な領域にあります。

先行き、物価上振れリスクが顕在化し、政策金利を中立金利以上の引締め領域まで急激かつ大幅に引き上げざるを得なくなる事態を避け、少しでも円滑に政策金利の調整を行えるよう、今のうちから、中立的な金融政策スタンス、すなわち、政策金利を中立金利に近づけておくことが重要だと考えています。

中立金利――経済・物価に対して中立的な実質金利の水準である自然利子率5に、予想物価上昇率を加えたもの――については、私は、自身の金融実務家としての経験も踏まえ、最低でも1%程度だろうと従来から申し上げてきました。昨年12月に政策金利を0.75%まで引き上げてから約半年が経ちますが、例えば、図表14の通り、企業からみた金融機関の貸出態度や資金繰りは、依然として緩和的な状況が続いているほか、図表15の主要銀行貸出動向アンケート調査の結果や貸出残高をみても、依然として資金需要は増加しており、全体として金融環境は緩和された状態が維持されています。私の重視する企業ヒアリング結果を踏まえても、中立金利まではまだまだ距離があるものと判断できます。直感的ではありますが、これまでの利上げを踏まえて、現時点で私が考えている政策金利と経済への影響をイメージ図にしたものが図表16ですが、中立金利については2%前後の領域にあるのではないかと考えています。もちろん、これまでも申し上げてきた通り、中立金利の精緻な推計は困難であり、実際のところ中立金利がどのあたりにあるのかは、政策金利を上げつつ、経済・物価・金融情勢の反応を見て探っていくことになります。

欧米の中央銀行は、中東情勢を巡る不確実性を踏まえ、一旦様子見をするとのスタンスにありましたが、欧州中央銀行は、先日、政策金利を2.25%に引き上げました。米国は政策金利を3.50から3.75%に据え置き、引き続き様子見をするスタンスを続けていますが、日本とは異なり、(1)政策金利が中立金利の近傍ないしやや上回る領域にあり、(2)中央銀行に対する信認の下で、長期の予想物価上昇率が2%程度にアンカーされています。一方で、わが国は、(1)依然として政策金利が中立金利を下回り、緩和的な金融環境にあるほか、(2)予想物価上昇率が十分にアンカーされていないと考えられ、状況が異なることに留意が必要です。

なお、中東情勢の影響から、先行きわが国の景気が悪化し、それに伴って基調的な物価上昇率が下押しされることを心配する声もあり、私としても、当然そうしたリスクは認識しています。一方で、先ほども申し上げた通り、先行きの景気の悪化度合いは、物価上昇の程度とその持続性に大きく左右されます。換言すれば、物価の上昇を和らげることが、その後の需要の減少、景気の下振れを抑制することにつながるものと考えています。

経済・物価・金融情勢の先行きとその下での政策運営について予断は持っておらず、政策金利は、経済・物価・金融情勢やリスクの度合いに応じて引き上げていくことになると考えていますが、その際には、ある程度のペースで適時適切に、中立金利に近づけていく必要もあると考えています。私の持つ具体的なイメージを申し上げれば、足もと、物価の上振れリスクが高まっていることを踏まえれば、経済・物価・金融情勢を確認しつつということが大前提ですが、2%の中立金利の水準に向けて、数か月に一度のペースで0.25%ずつ利上げしていくことを基本線としてイメージしています。そして、物価上振れリスクが顕在化する確度が高まった場合には、利上げの頻度や利上げ幅といった利上げのペースを躊躇なく加速する、そういった金融政策を通じて物価の安定に努めていくことが、結果的に、日本経済の下振れを和らげることにつながると考えています。

図表17の通り、日本銀行法第2条では、「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」と定められています。私としては、政府と十分な意思疎通を図りつつ、物価の番人として物価の安定に努めることが、日本銀行の使命だと考えています。

  1. 5なお、自然利子率は直接観察できるものではなく、その推計値は手法によって大きなばらつきがあります。更に、わが国の場合、推計の際に参照するデータのほとんどが、デフレ期・ディスインフレ期のものとなり、一定のバイアスが生じている可能性が大きく、精緻な計測は困難な状況です。従って、政策金利と中立金利との距離は、政策金利を引き上げつつ、経済・物価・金融情勢の反応を見て、探っていくしかないと考えています。

(2)長期国債買入れの減額計画

金融政策運営の話に加え、長期国債買入の減額計画についても触れておきたいと思います。6月会合では、図表18の通り、長期国債の買入れについて、(1)月間の長期国債の買入れ予定額を、2027年1から3月までは原則として毎四半期2,000億円程度ずつ減額し、2027年4月以降は月間2兆円程度の買入れを行うこと、(2)長期金利が急激に上昇する場合には、機動的に、買入額の増額等を実施すること、(3)国債買入れの基本的な考え方や国債市場の動向等を踏まえ、必要な場合には、金融政策決定会合において、買入れのペースを見直すことを決定しました。これは市場機能の改善や市場の安定確保の観点に基づくものです。

なお、私はこの議決に反対票を投じました。これは、長期金利の形成は市場と市場参加者に委ねるべきであり、可能な範囲でできるだけ早く、日本銀行の国債保有残高の水準を正常化していくべきだと考えたからです。そもそも日本銀行による大量の国債買入れは、金融緩和として行ったものであり、経済環境が大きく変化した現在、金融政策として日本銀行が国債を買い入れる必要はありません。しかし、日本銀行が買入額を急激に減らした場合、市場に混乱をもたらす懸念があるため、段階的に買入を減らしてきているものです。現在、国債市場の機能度は、ひと頃よりも改善した状態にあるとみています。その中で、最近の長期金利の上昇は、日本銀行が買入額を減らすことに伴って市場に混乱が生じているわけではなく、市場参加者における先行きのインフレや金融政策・財政政策に対する見方などを反映したもので、基本的にはファンダメンタルズに沿った動きと捉えています。こうした状況下、減額ペースを速める必要まではないものの、一方で、図表19の通り、依然として国債保有残高は欧米と比べて高水準であり、少しでも早く正常化を進めるため、買入額の減額を続けるべきであると考えています。私としては、物価の安定のために適切な金融政策運営を行っていくとともに、国債保有残高については、市場機能の状況を注視しつつ、着実に正常化を進めていくことが重要だと考えています。

なお、長期的には、日本銀行のバランスシートの規模、特に負債サイドの準備預金残高について、その着地点・適正水準を探っていく必要があります。国際金融危機以降の規制強化、デジタル化などの環境変化、これらを踏まえたリスク管理上の対応強化の結果、金融システム全体として必要な準備預金額が、かつてと比べて増加している可能性が指摘されています。もっとも、日本銀行が保有している国債残高の減少ペースからすると、正常化できるのはまだ何年も先のことであり、具体的な議論を始めるのは時期尚早ですが、将来的にどこかの時点では、その時点の金融経済情勢等も踏まえ、適切な準備預金額の水準、そして、それを供給する手段(日本銀行のバランスシートの資産サイドの構成(国債や貸出等)やデュレーション)について、物価や金融システムの安定、わが国経済の成長に資するという観点から、改めて検討していく必要があると考えています。

4.おわりに ―― 兵庫県経済について ――

最後に、兵庫県経済についてお話ししたいと思います。

兵庫県は、かつての摂津、播磨、但馬、丹波、淡路の五国が作り出す多様な文化や産業を背景に、豊かな経済基盤を有しています。特に製造業では、阪神工業地帯や播磨臨海工業地域に代表される全国屈指の生産拠点として、鉄鋼や化学をはじめ、輸送用・電気・生産用の機械、食料品など、その裾野が広いことが特徴です。最近では、生成AIの普及やデータセンター需要の拡大を背景に、先端半導体や発電・電源・送配電設備のサプライチェーンに連なる当地企業の生産活動や設備投資も活発化しています。

他方で、「日本の縮図」とも称される当地では、日本全体と同様に少子高齢化や人口減少などの課題に直面していますが、官民連携のもと、持続的な成長に向けて様々な取り組みが進められています。

1つ目は、次世代産業の育成です。阪神・淡路大震災の復興事業としてスタートした「神戸医療産業都市」では、再生医療や先進的な診断技術、医療機器開発が進み、日本の医療イノベーション拠点としての地位を築きつつあります。国産初の手術支援ロボットでは、5GやAIなど先端技術を活かしたソリューションが提供されています。昨年10月には、神戸大学による「バイオものづくり研究棟」が開設され、この分野での新たな可能性が広がりつつあります。

脱炭素化社会への対応についても、水素社会実現に向けた技術開発や、水素サプライチェーンの構築に向けた動きが加速しています。2026年には「兵庫水素社会推進構想」が改定され、気候変動とエネルギー問題を解決する取り組みが本格化する見通しです。こうした取り組みによって、新たな産業の創出と持続可能な成長基盤の強化が期待されます。

2つ目は、インバウンドをはじめとする海外需要の獲得に向けた動きです。当地は、姫路城をはじめ、有馬・城崎温泉、丹波篠山、淡路島など、多彩な観光資源を抱えています。こうした中、神戸空港の2025年度の旅客数は、昨年4月の国際チャーター便就航も追い風となり、開港以来初となる400万人を超えました。今後、三宮やウォーターフロントエリアで商業施設やオフィス等の再整備が進むもとで、国内外の観光客を更に惹きつけることが期待されます。また、神戸牛や日本酒、豊岡かばんといった地場産業についても、県を挙げてブランド価値向上や海外向けの情報発信などが活発に行われており、インバウンド観光需要の獲得が着実に進展しています。

3つ目は、未来のための「人づくり」です。兵庫県は、次世代を担う若者たちを支える施策に注力しており、「学びやすい兵庫」、「子どもを産み育てやすい兵庫」、「住みやすい兵庫」、「働きやすい兵庫」の4本柱からなる「若者・Z世代応援パッケージ」を通じて、若年層の県内定着を促進しています。また、豊かな自然と歌舞伎などの伝統文化が脈々と息づく但馬地域の「芸術文化観光専門職大学」では、地域資源を活用したユニークな人材教育を進めており、日本全国から学生が集まっています。新卒人材が県内に根付く動きにつながっており、持続的な地域活性化の一翼を担っています。

これらの取り組みにより、兵庫県経済がより豊かに成長していかれることを期待しています。

日本銀行神戸支店は、1927年に設立されて以来、阪神・淡路大震災など様々な危機を乗り越えて、来たる2027年に開設100周年を迎えます。これからも地域の第一線で中央銀行業務を遂行するとともに、関係する皆様との意見交換などを通じて、兵庫県経済の発展に貢献できるよう努めてまいります。

ご清聴、ありがとうございました。