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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策熊本県金融経済懇談会における挨拶要旨

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日本銀行政策委員会審議委員 小枝 淳子
2026年10月15日

1.はじめに

日本銀行の小枝です。まず、令和8年熊本地震で被災されたすべての方に心よりお見舞い申し上げます。また、復旧・復興に向けた関係者の皆様のご尽力に深い敬意を表します。地震から2か月半程が経ちましたが、今なおその影響が各所に残る状況と拝察します。そうしたなか、本日は、熊本県の行政および金融・経済界を代表される皆様と意見交換の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。また、日頃より、熊本支店の円滑な業務運営に多大なご協力を頂いておりますこと、この場をお借りして御礼申し上げます。

本日は、最初に私から、経済・物価の現状と先行き、日本銀行の金融政策運営などについてご説明し、その後、皆様から熊本県経済の動向に関するお話や、日本銀行の政策・業務運営に対するご意見をお伺いできればと存じます。

2.経済・物価の現状と見通し

経済や物価を取り巻く3つの視点

本日は、まず経済や物価を取り巻く状況として、最近私が特に意識している3つの視点を挙げてから、経済・物価の現状と見通しについてお話していきたいと思います。

まず一つ目は、AIです。ここ数か月、あるいは半年ほどのフロンティアAIの進展を振り返っても目を見張るものがあります。わが国にとってAIは、短期的には、外需も含めた関連需要の拡大と、物価への上振れ圧力につながりうるとみていますが、私たちの経済・物価に中長期的に多面的な影響を与えうると思いますので、後ほどもう少し言及したいと思います。

二つ目は、地政学リスクです。一昔前に比べ、近年は、2022年春頃のウクライナ情勢や今年春の中東情勢など、地政学リスクが顕在化する頻度が増しているように思います。その度に、原油価格等の国際商品市況は大きく上昇しました(図表1左)。さらに、為替レートをみると、近年は、いわゆる「有事の円高」といわれる為替の動きはみられにくくなっているように思います(図表1右)。今年の春に中東情勢が緊迫化した際には、原油高騰がみられたなか、円安基調が続きました。図表2左をご覧ください。こうした市況や為替要因によって、輸入物価は大きく変動していることがわかります。近年は、地政学リスクの顕在化を起因とする市況要因によって輸入物価の高騰がみられているほか、為替要因についても、輸入物価を押し上げる方向性がみられるように思います。エネルギーと食料を輸入に依存しているわが国では、国内企業物価(図表2右)の上昇も伴いやすい地合いにあります1。このようなことから、地政学リスクの高まりに伴う物価上昇リスクには、以前よりも注意を払う必要があると考えています。国際比較の観点からみても、地政学的なショックに対し、わが国では物価上昇がみられやすい傾向があると思います2。

同時に、地政学リスクの顕在化によって生じうる交易条件の悪化や供給制約の高まり等が経済に与える影響についても、確認する必要があります。もっとも、今年の中東情勢については、石油備蓄の利用や代替調達も進むなか深刻な供給制約はみられておらず、当初の想定以上にすそ野が広いAI関連需要も支えになっていて、景気減速懸念については、一頃より低下しているとみています。

三つ目は、自然災害リスクです。わが国は、関係者の皆様の長年のご尽力により、地震などの自然災害への対応・復旧能力を蓄積してきました。もっとも、気候変動が続くなかで、グローバルにみても猛暑が深刻化するとともに、水害につながりうる豪雨も頻発・激化しています。また、わが国でも、線状降水帯などによる記録的大雨や、それに伴う水害が発生しています。自然災害リスクには高いレジリエンシーを持つ3といわれるわが国ですが、地域によっては人口減少やインフラの老朽化もみられるなかで、長期的なレジリエンシーをいかに確保していくかは、将来において、わが国の経済の底堅さを左右しうる重要な論点だと思います。

  1. 国内企業物価の価格転嫁ペースについては、過去の展望レポートBOXでも多くの分析が提供されています。最近の例としては、2026年7月BOX3や2026年4月BOX2をご参照ください。
  2. 国際比較として、例えばCaldara, Dario, Sarah Conlisk, Matteo Iacoviello, and Maddie Penn (2026), "Do geopolitical risks raise or lower inflation?" Journal of International Economics, 159, 104188のFig. 8等をご参照ください。
  3. わが国の自然災害リスクの高さと対応力の高さについては、例えばInternational Monetary Fund (2022), "Japan: 2022 Article IV Consultation ―Staff Report," IMF Country Report No. 22/99でも言及されています。水害に関する分析については、例えば、日銀レビュー2022-J-4もご参照ください。

経済動向

こうした3つの視点も踏まえつつ、まず、海外経済の動向についてみてまいります。世界経済は、引き続き強いAIないしIT関連需要がけん引しているとみています。特に、米国経済は、これは名目世界GDPの4分の1ほどを占める規模感ですが、AI関連設備投資で大きな伸びがみられています(図表3左)。また、グローバルなITサプライチェーンで重要な役割を担うNIEsやASEANでは、輸出が大幅増加するなど(図表3右)、中東情勢の影響を受けつつも成長を続けています。

次に国内経済の動向についてです。全体としてみれば、企業収益の水準は引き続き高く、今月公表された直近の短観をみると、業況判断も大幅な悪化は確認されていないもと、設備投資も総じてみれば緩やかな増加傾向にあるとみています(図表4、5)。人材確保・人手不足(図表8右)も背景に賃金の伸びも継続しているなか(図表6)、今年も春の賃金改定がしっかりとした水準で着地しました。図表7をご覧ください。消費については、マインドの悪化も一服していて、インバウンド消費を除く消費活動指数をみても、これまでのところ、中東情勢を受けた家計の実質所得や個人消費への明確な下押しは確認されていないと思います。このような状況で、需給ギャップは引き続きプラス(図表8左)となっており、潜在成長率についても、生産性の安定した寄与もあって底堅くみえます(図表9右)。このように、経済の状況は総じてみれば、引き続き悪くないとみています。

もっとも、図表9左で、実質GDPの前年比寄与をみると、足もとは、民間需要にやや弱めの動きがみられます。これは統計作成上のテクニカルな点が主因と考えていますが、資材価格の高騰の影響等を受けた建設・住宅投資の動きも反映しています。伸びがみられる実質純輸出についても、輸出拡大より輸入減少からの寄与が大きいことには注意が必要です。理屈では円安は輸出競争力拡大を伴うと考えられますが、足もとをみると実際には、輸出増加分よりも、中東情勢を受けた石油関連製品の輸入減少が大きい状況です。

国内物価動向

次に物価動向についてお話しします。図表10をご覧ください。足もとではCPI前年比の上昇幅拡大の兆しもみられています。輸入物価の高い伸びを背景に活発なBtoBの価格転嫁がみられるなか(前掲図表2右)、価格を上げても消費者がついてくると企業が判断した品目については、上昇幅もしっかりついて上がっていると思います。例えば、サービス項目として扱われる外食のすしがこのところ前年比を押し上げています。これは堅調なインバウンド需要を背景に、円安に伴う輸入食材価格の上昇を転嫁する動きも反映されているとみています。

こうしたなか、幅広い価格上昇が続いていて、500以上ある財・サービス品目のうち7割超で前年比での価格上昇がみられています(図表11右)。図表11左をご覧ください。これは一品目一票と申しますか、CPIバスケットのウエイトを考慮していない品目別前年比の分布ですが、ゼロ近傍でみられていた山が低くなり、重心が右に移動していることがわかります。なお、2026年度入り後の状況について、月次データで品目別前年比を確認すると、直近の中央値は2%台前半と、概ね前年度並みの水準となっています。

「賃金と物価の相互参照」については、物価も賃金も緩やかに上がっていくなか、労働生産性の上昇も反映されて、実質賃金も上がって消費も伸びていく状態であると、これまでも申し上げてきました。こうした相互参照については、物価から賃金、賃金から物価、両方向の波及を踏まえつつ、二次的波及や持続性の観点からも多角的にみていくことを意識しています。まず、物価から賃金への波及については、物価動向が賃上げの要因の一つではあるものの、企業業績も大きい要因で、これを賃金改定にあたって最も重視する要素として挙げる声が多いです4。したがって、物価から賃金への波及が続くためには、緩やかな経済成長やしっかりとした企業業績の継続が重要だと思います。一方で、賃金から物価への波及については、所得から消費への波及といった需要サイドに加えて、人件費上昇に伴う価格転嫁の進展といった供給サイドからも、確認していくことが必要だと思います。

なお、賃上げに際し、人手の確保という要素を重視しているという声も聞かれます。人手不足に関連したM&Aや廃業の実態や、人材確保競争のなかで転職を伴う賃上げといった賃金動向の多面性について、産業や規模等によって異なる企業ダイナミクスと合わせてみていくことは、企業の賃金・価格設定行動をとらえる観点からも今後欠かせないと考えています。

  1. 4詳細は、2025年の厚生労働省の賃金引上げ等の実態に関する調査結果をご参照ください。

経済・物価の見通し

次に、経済・物価の見通しやリスクバランスについて議論いたします。日本銀行では、9人の政策委員が、展望レポート公表月の金融政策決定会合で、経済・物価の見通しを、各自独立に示しています。直近7月時点(図表12)におけるリスクバランスをみると、経済についてはバランスしている一方で、物価については、引き続き2026、2027年度とも上振れリスクが大きくなっています。中東情勢の影響に加えて、円安やグローバルな強いAI関連需要からの物価上昇リスクにも注意が払われています。

AIについては、短期的には、AI関連輸出や省人化投資は需要を喚起する方向で働きますし、強いグローバルなAI関連需要は物価上昇圧力になっているとみています。また、交易条件の観点からは、足もとではAI関連輸出が、その悪化を抑制する方向で働いているとみているものの、AI需要の拡大は、関連する財・サービスの輸入増加にもつながり得ます。AI関連については、今後、輸出・輸入の双方の動向に注意を払っていく必要があると思います。

さらに、これは既にいろいろな方が議論されておりますが、AIは、我々の労働環境についても大きな影響を与えると思います。労働代替性という論点からは、短観をみると新卒採用は増えており足もとではっきりとした影響は窺われませんが、そもそも人手不足感のある日本では、現時点では、労働代替性が比較的ポジティブに受け止められているかもしれません。また、マクロの生産性に与える影響も重要な論点です。AI関連のサイバー攻撃が、負の生産性ショックとなりうることには留意が必要なものの、AIが人手不足を補う投資や生産性向上を後押しできるか、潜在成長率の上昇に貢献しうるかについては、金融政策スタンスを考える上でも注目度が高いと思います。

3.金融政策運営

金融環境と様々な経済主体

日本銀行は、政策金利を、9月の決定会合で1.25%へ引き上げました(図表13)。金利の環境としては、以前は極めて低かった長期金利についても、世界的に金利上昇がみられるなか、最近は上昇しています(図表15)。

政策金利の変更に伴う金融環境の変化や、経済・物価への影響については、丁寧に確認していくことが重要と考えています。そうした観点から、今回も、各経済主体の足もとの状況について私見を述べたいと思います。政府部門の動向については、以前お示しした見解から特に変更ございませんので、以下家計と企業について言及します。全体としてみれば、わが国の金融環境は、緩和的な状況が続いているとみています。

家計については、その負債の大部分を占める住宅ローンの多くは、短期プライムレート等に連動する変動金利型で、これを現役世帯が抱えています。ライフサイクルの傾向として、住宅購入を行う20代、30代は比較的賃金の伸びが高く、また、40代、50代になるにつれ、利子を生む金融資産も積み増されていきます。こうしたもと、足もとの金利上昇が、総合的にみて現役世帯の消費を必ずしも冷やすわけではないと考えていますが、これまでの政策金利の引き上げが家計の行動に及ぼす影響については、丁寧に確認していきたいと思います。

企業については、図表14で資金繰りや金融機関の貸出態度をみても大きな変化はみられておらず、資金調達環境は、総じてみれば引き続き良好であると判断しています。資金需要については、9月短観で設備投資計画をみると、全体としては引き続きしっかりとしています(前掲図表5右)。中小の非製造業については弱めの動きもみられるものの、大きな悪化は確認されていない状況です。そのほかのアンケート調査をみると、国内設備投資計画を押し下げる主な要因としては、これまでのところ、金利上昇よりも、「工事費高騰に伴う見直し」や「投資内容の精査・無駄の見直し」、「工期の遅れ」が指摘されています5。

  1. 5詳細は、2026年度の日本政策投資銀行の全国設備投資計画調査の結果をご参照ください。

中立金利

金融政策運営においては、実質ベースの自然利子率を名目ベースに引き直した中立金利を考慮することも重要だと思います。中立金利は、経済・物価に対して緩和的にも引き締め的にも作用しない中立的な金利水準のことを指します。

中立金利は直接観察できるものではありませんが、一つのシンプルな候補として、長い目でみて「自然利子率≒潜在成長率」が成り立つと仮定して、それに2%のインフレ目標を加えた値があると思います。潜在成長率が小幅のプラスで推移していることを踏まえると、この数字は現在2%を超えているという見方もあるかと思います。また、中立金利の別の候補として、短期金利の収束値が挙げられると思います。少しテクニカルな話となるかもしれませんが、標準的な金利モデルでは、短期金利は長期的に特定の平均水準に戻る性質がある(mean reverting)と仮定することがよくあります。わが国では、長年、非伝統的金融政策のもとでゼロ%近傍の低金利が続きましたので、こうした時代を含めて推計すると、モデル上、短期金利の収束値は低く出てきます。一方で、プラスの金利環境への移行が生じるなかでは、この収束値は、以前より高い位置に切り上がっている可能性が相応にあると思います。このようなことを考慮して、私としては、中立金利の水準は、推計レンジの下限の目安である1%よりは相応に上であると考えています6。

なお、長期金利は、理論的には、将来の政策金利の予想と、リスクプレミアムあるいはタームプレミアムで形成されると考えられます。したがって、仮に政策金利が中立金利に近づいていると市場が認識し、将来の政策金利の予想が定まってくれば、長期ゾーンにおける金利変動は、リスクプレミアムが主導することになると思います。この点、財政要因やインフレリスク、そして機関投資家の金利目線等がリスクプレミアムに与える影響については注視していきたいと考えています。リスクプレミアムには、様々な要因が関係してきます。例えば、インフレ要因については、原油価格が高騰した際に世界の債券価格にインフレ懸念が織り込まれ、それがわが国の長期金利の押し上げに寄与することもあり得ます。また、需給要因には、財政要因とも関連する国債供給側の現状と見通しに加え、金利上昇に伴って増加しうる安全資産への需要や中央銀行のバランスシートの変化などが含まれます。一般に、中央銀行の国債保有の変化が長期金利に与える影響7は、アクティブな拡大期よりパッシブな縮小期のほうが小さい可能性は相応にあると考えておりますが、日本銀行のバランスシート縮小にかかる取組みについては後程言及します。

  1. 6中立金利には「経済・物価に対して緩和的にも引き締め的にも作用しない」というマクロの均衡の概念が入ってくるので、その水準を検討するには、実質ベースで考えることも必要だと思います。日本銀行が公表しているレンジは実質ベースの自然利子率(詳細については、日銀レビュー2026-J-5をご参照ください)で、-0.9%程度から+0.5%程度の範囲内としています。なお、これに2%のインフレ目標を加えることで名目ベースに直すと、中立金利のレンジは+1.1%程度から+2.5%程度の範囲になります。
  2. 7日銀レビュー2026-J-11では、2024年夏から2026年夏頃までの日本銀行の国債買入れ減額が長期金利に与えた影響を分析しています。この時期は、基調的な物価上昇率の上昇などファンダメンタルズの変化等もみられた時期であり、分析結果をみるとこの間の長期金利の上昇について、国債買入れの減額がリスクプレミアムの拡大を通じて及ぼしている影響は、さほど大きくないことが示唆されます。

物価目標の達成状況

さて、基調的なインフレ率を捉えるための指標には、様々なもの(図表16、17)がありますが、私は、この一年ほど、総じてみれば2%ぐらいと申し上げ、その定着度を確認し続けてきました。CPIについては、先ほど図表11のところで言及した通り、幅広い価格上昇が数年間は続いていて、品目別前年比の分布をみても定着が進んできているようにみえます。賃金も、全体的には安定的な上昇がみられています。このようなことから、わが国の物価上昇率は、以前より持続的なものに定着しつつあるように思います。

定着度を考える上では、マクロ経済の需給両面からみていくことも必要です。需要面については、わが国は、大きな外部ショックに対し、内需が大きく落ち込み物価の伸びも弱まったという経験をもつため、米国の通商政策や中東情勢を受けて、内需が弱含むリスクを私は相応に意識していました。しかし、このような外部ショックに対して、わが国経済は底堅さをみせていると思います。供給面については、地政学リスクや気候変動リスクの顕在化によって生じうる物価上昇リスクを以前より意識するようになっています。

今後の利上げについて

今後の利上げについては、中立金利の推計レンジを念頭に置きつつ、経済・物価の状況をみながら、政策金利を適時に調整していくべきだと考えています。この点、経済・物価の動向や金融環境の確認にあたっては、プラスの金利が経済活動の前提となるなかで、分析の視野を広げ解像度も上げることも重要です。そのうえで、これまでのところ、緩和的な金融環境が続くもと、物価上昇リスクが相応にあることを踏まえれば、利上げに過度に慎重になることはないと考えています。

バランスシートの正常化

金融政策の主役はあくまでも政策金利でありますが、日本銀行では、長年続いた非伝統的金融政策のもとで、極めて大きくなったバランスシートについても、正常化を進めています。バランスシートの大きさについては図表18をご覧ください。

2024年に開始された国債買入れの減額は、非伝統的金融政策のもとで大規模化した国債買入れ額を徐々に減らしていく形式をとっており、これは日本銀行が保有している国債の償還規模が非常に大きいことを考慮したものです。6月の決定会合では、2027年3月までは原則として毎四半期2,000億円程度ずつ減額し、2027年4月以降は月間2兆円程度の買入れを行うことを決定しました(図表19)。来年度以降は、減額開始当初と比べると小さくなった買入れ規模を一定に保ちつつ、引き続き償還を安定的に進めていくことになり、少なくとも数年間は償還額が買入れ額を大きく上回る状況が続くことになります。引き続きバランスシートが極めて大きい状況を軽視せず、バランスシートの正常化を粛々と進める必要があると思いますので、丁寧かつしっかりとみていきたいと考えています。

4.熊本の経済

最後に、熊本県経済について、お話しいたします。

熊本県では、平成28年熊本地震以降、令和2年7月豪雨、令和7年8月豪雨と、甚大な災害に幾度も見舞われてきたなかで、本年7月には、震度7を観測する地震が発生しました。今回は、皆さまの10年前の教訓が随所に活かされたと伺っております。熊本支店によると、企業からは、設備や建物の耐震化・免震化のほか、BCPの策定が被害を抑えることにつながったとの声が多く聞かれました。断水のなかで、あらかじめ災害時に備えておいた井戸が役立った、との声も聞かれました。先ほど申し上げたとおり、自然災害に見舞われやすいわが国にとって、こうした熊本の経験が広く共有されることが大切であるように思います。

今後、熊本県がより長い目でみて成長し、新たな創造的復興を実現していくためには、熊本が益々魅力的な場所となり、人や組織を惹きつけていくことが大切であるように思います。熊本はまさにこの方向に進んでいるように感じます。例えば、この10年間の大きな成果の一つである半導体産業の集積をみますと、昨年3月に熊本県が策定した「くまもとサイエンスパーク推進ビジョン」では、台湾のサイエンスパークを参考にしつつ、自然環境と調和した熊本に合った形での「分散型サイエンスパーク」を構築し、立地企業間や大学・研究機関との共同研究など、有機的なつながりを図ることが基本理念として掲げられています。県内外の関係者が緊密に連携し、このビジョンに沿った取組みが進められることなどを通じて、熊本県が東アジアを代表する産学官連携拠点としての存在感を示し、「新生シリコンアイランド九州」を牽引していくことが期待されます。

また、熊本の魅力を益々高めるという観点では、1次産業や3次産業も重要です。熊本は、全国有数の農業県であり、青果物、コメはもちろん、畜産物、水産物など多様な1次産品を誇ります。3次産業でも、阿蘇・天草をはじめとする豊かな自然、歴史ある観光資源に加え(図表20)、医療や教育面でも充実しています。これらの強みを活かすことにより、より多様な人材、ひいては企業を惹きつけることができるのではないかと思います。

この度の地震も、大きな困難を伴うものではありますが、官民挙げての取組みにより、創造的復興を力強く進められていくことを心より祈念しております。日本銀行としましても、熊本県の持続的な成長に向けて注力されている関係者の方々を、業務を通じてしっかりサポートしてまいりたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。