【挨拶】 全国信用組合大会における挨拶
日本銀行総裁 植田 和男
(代読 日本銀行副総裁 内田 眞一)
2026年10月16日
1.はじめに
本日は、全国信用組合大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。
まず、令和8年熊本地震や大雨などの災害によりお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。
信用組合は、「相互扶助」の理念に基づく協同組織金融機関として、中小企業・小規模事業者、また、地域の勤労者や住民の方々に寄り添い、わが国経済の発展に大きく貢献してこられました。あらためまして、皆様の日頃のご尽力に対して、日本銀行を代表して深く敬意を表します。
本日は、はじめに、最近の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、信用組合を取り巻く環境と課題についてお話しします。
2.経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営
まず、経済・物価情勢についてです。
わが国の景気は、中東情勢の影響もあって一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。グローバルなAI関連需要の堅調な増加などを背景に、輸出は緩やかながらも増加に転じており、企業収益は高水準で推移しています。私どもの9月短観の結果をみますと、企業の業況感も、良好な水準となっています。こうしたもとで、設備投資は、建設コスト上昇の影響を受けつつも、緩やかな増加傾向にあります。個人消費は、家計マインドになお弱さがみられるものの、雇用・所得環境の改善を背景に底堅く推移しています。
物価面では、原油高や為替円安に加え、AI関連需要拡大の影響から、国内企業物価は前年比で高い伸びが続いています。生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、企業間取引における価格上昇圧力が消費者段階にも波及し始めているほか、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きも続いており、このところプラス幅が緩やかに拡大しています。こうしたなか、中長期の予想物価上昇率は引き続き上昇しており、消費者物価の基調的な上昇率は2%に近づいています。
このように、わが国の経済・物価は、「展望レポート」で示してきた中心的な見通しに概ね沿って推移しています。
中心的な見通しに対するリスク要因としては様々なものがありますが、中東情勢やAI関連需要の拡大、為替相場の変動がわが国の経済・物価に及ぼす影響には引き続き留意が必要であり、基調的な物価上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクがあります。
この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。実質金利は短中期ゾーンを中心になお低い水準となっています。企業等の資金需要は増加しており、金融機関の貸出態度も引き続き積極的です。CP・社債市場でも良好な発行環境が続いています。
以上の経済・物価動向やリスク要因、金融環境を踏まえ、先月、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現という観点から、金融緩和の度合いを調整することが適切と判断し、政策金利を1.25%程度に引き上げることを決定しました。足もとの実質金利の水準や企業の資金需要、金融機関の貸出態度などを踏まえると、政策金利の変更後も、緩和的な金融環境は維持されるため、引き続き経済活動をしっかりとサポートしていくと考えています。
今後の金融政策運営については、基調的な物価上昇率が2%に近づいているなか、現在の金融環境が緩和的であることを踏まえると、経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、調整のタイミングやペースについては、経済・物価の中心的な見通しが実現する確度やリスクを点検しながら、検討していく方針です。その際には、基調的な物価上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクが顕在化し、それがその後の経済に悪影響を及ぼすことがないよう、基調的な物価上昇率を2%程度の水準で安定させていくという観点が、これまでよりも重要になってきていると考えています。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、適切に金融政策を運営してまいります。
3.信用組合を取り巻く環境と課題
次に、信用組合を取り巻く環境と課題について、3点お話ししたいと思います。
1点目は、取引先が抱える様々な経営課題への支援の高度化です。地域経済は人口減少や高齢化といった構造的な課題を抱えており、そこで活動する中小・零細事業者も、営業基盤の縮小、人手不足や後継者不足、さらには原材料調達コストの上昇といった課題に直面しています。こうした環境のもとで、取引先が収益の持続性を確保していくためには、経営改善、DX推進、販路拡大、事業承継、創業・起業といった多岐にわたる支援が必要とされています。
信用組合では、コンサルティングやビジネス・人材のマッチングを行いつつ、様々な資金需要に応える形で「地域密着型金融」を推進し、取引先の課題の解決を支援されてきました。先行きについても、業界全体で先進事例や業務ノウハウを共有する枠組みの構築が進められているほか、本年導入された企業価値担保権の活用を検討しているとの声も聞かれます。こうした新たな手法も活用しつつ、様々な課題に直面する取引先への支援を高度化していくことを期待しています。
2点目は、金融仲介機能を発揮する前提となる預金戦略についてです。信用組合全体でみた預金残高は、ひと頃に比べて増加しており、高水準で推移しています。もっとも、少子高齢化や他の金融資産への資金シフトの影響も受けており、競争環境も踏まえた預金戦略の構築がこれまで以上に重要性を増しています。現在進められている業界共通のバンキングアプリの導入に向けた取り組みはこの一例だと思います。加えて、金利感応度や粘着性といった預金基盤の属性を把握し、資産サイドの運用戦略と一体的に考える枠組みを整備するなど、個々の信用組合における取り組みも、適切な経営判断を行っていくうえで重要になると考えています。
3点目は、フロンティアAI等の技術革新に伴うサイバーリスクの高まりへの対応です。共同システムにおける対応といった形で業界全体として取り組みが進められていますが、個々の信用組合においても、重要な経営課題として位置づけ、技術負債の解消やBCPなどの対応を整えるとともに、中長期的な視点からの検討も進めていただきたいと考えています。
4.おわりに
最後に、信用組合業界の皆様の今後のますますのご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。
