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「日銀探訪」第5回:業務局国庫業務課長 小室昇

国の金庫番、年2000兆円の出し入れ管理=業務局国庫業務課(1)〔日銀探訪〕(2012年10月29日掲載)

業務局国庫業務課長の写真

政府は、国民や企業に対して年金や公共事業費などを支払う一方、国税や厚生年金保険料などを受け入れている。こうした資金は国庫金と呼ばれ、国庫からの出し入れ(受け払い)は、日銀法に基づき、すべて日銀が管理している。受け払いの件数は年に4億6000万件に上り、金額は2000兆円にも及ぶ。日銀は、これだけの処理を毎日1円たりとも間違えずにこなしており、その大部分の業務を担っているのが今回紹介する業務局国庫業務課だ。

同課は、国債の元利金の支払いや、選挙の立候補者などが国に寄託する供託金、国が入札を実施する際に応札者が差し入れる保証金の受け払いなどを行う国庫業務、年金や公共事業費の送金や振り込みなどを担当する国庫送金業務、主に国税などの納付に関する書類の読み取り作業に携わる国庫計理業務の、3グループから成る。課員数は70人弱だが、国庫金支払件数では2011年度の約3億1000万件のうち、9割以上を同課が処理。受け入れは、光学式の読み取り装置を使った読み取り件数でみると、2011年度では全国約3000万件の約3割を手掛けた。

国庫金の支払いの中で最もウエートが大きいのが年金だ。支払日は偶数月の15日と決まっているが、そのたびごとに4000万件もの大量のデータを処理しなければいけないという。お年寄りの生活に直結する事務作業だけに、間違いは許されない。同課の小室昇課長は「国庫金の取り扱いには神経を使うが、国のインフラを支える仕事なので、とてもやりがいがある」と話す。国庫業務課については、3回にわたってリポートする。

「国庫業務課の機能は、大きく言って三つある。まず、営業店としての位置付け。国庫金の受け払いは本店、支店のほか、国民の利便性を確保する観点から、金融機関にも事務をお願いしている。この文脈でみれば、本店も一つの営業店だ。次に、事務集中センターとしての役割。日銀は、政府の方針に基づき、2000年に国庫金事務の電子化プロジェクトを開始した。当時は、国庫金支払いの約3割が、官庁からの書面による振り込み依頼だったが、現在は9割以上が電子化されている。財務省の会計センターが各官庁の振り込みデータを取りまとめて伝送してくるので、国庫業務課では、これらの振り込みデータを、金融機関を結ぶ決済システムである『全銀システム』を通じて各金融機関に送ると同時に、日銀内に置かれている政府預金から必要な金額を引き落とし、金融機関の日銀当座預金に入金する。電子化が進んだ結果、本店に事務が集中する形となった。さらに、本店には豊富な経験を積んだ人材がいるので、総務課や統括課と連絡を取りながら、支店や代理店を適切にサポートしていくサポートセンターともなっている」「国庫金の支払いについて、もう少し具体的に説明すると、年金や公共事業費、失業保険給付金などのうち、ウエートが大きいのが年金で、件数で全体の7割くらいを占めている。年金の支払日は偶数月の15日で、この日は4000万件を超える支払いを処理する。現在、この分については磁気テープでデータの受け渡しを行っている。手順を説明すると、まず厚生労働省から支払日の数日前に全体の受給者のデータが入った磁気テープをもらう。そのテープをシステム情報局で、依頼先となる約120の金融機関ごとに分割。特定の日に国庫業務課の窓口から金融機関に一斉に交付し、受給者の口座への振り込みを依頼する。15日になると、各金融機関が受給者の口座に入金する。金融機関とも協力しつつ、間違いがないように入念に作業を行っている。窓口で授受する磁気テープは金融機関に前回交付したものの返却なども含めると300巻を超えるため、毀損(きそん)したり誤交付したりしないか神経を使う事務だが、国のインフラを支える仕事なので、とてもやりがいがある」

1日40万件読み取り、1円も違えず処理=業務局国庫業務課(2)〔日銀探訪〕(2012年10月30日掲載)

前回は年金などの国庫金支払いをめぐる苦労について取り上げたが、今回は国税や厚生年金保険料など国庫金の受け入れ事務に焦点を当てる。国庫金受け入れも、税の納付期限などに絡み、事務が集中する日が存在する。特に、報酬から差し引いて支払われる源泉所得税の納付は7月中旬のある1日に集中することが多く、普段の10倍程度の件数に膨れ上がるため、同課にとってその処理は「年間で一番緊張する仕事」(小室昇課長)となる。この日は、他の不急の事務はすべて止め、課員総出で機械をつかって納付書の読み取り作業を行うという。

中には機械で読み取れない不鮮明な数字などもあり、手作業での確認が必要となる場合がある。しかし、読み取れずに納税処理ができなければ、納税者に迷惑がかかる上、国庫の資金繰りにも影響が及びかねない。したがってそういう場合でも、金融機関や官庁と密に連絡を取り、内容を詳細に確認しながら、当日中に処理している。

「国庫金受け入れ件数で一番多いのは国税で、全体の約6割を占める。以下、厚生年金保険料、労働保険料、交通反則金と続く。金融機関の窓口での納付が基本だが、口座引き落としによる納付もある。2004年には、インターネットや現金自動預払機(ATM)経由で納付できる電子納付を導入した。各官庁や金融機関などが意欲的に取り組んでいることもあり、電子納付は徐々に伸びている」

「国庫金の受け入れのみをお願いしている金融機関の店舗を歳入代理店と呼び、全国に4万以上ある。この代理店が国庫金を受け入れると、翌々営業日に日銀本店やその地区の支店に納付書を送ってくる。ここに書かれている数字を、光学式文字読み取り装置(OCR)で読み込み、データ化して国の会計別に経理すると同時に、データを官庁に通知する。厚生年金保険料は月末、国税の源泉所得税は(給与などを)支払った月の翌月10日と、おのおの納付期限が決まっており、納付書は受け入れの翌々営業日に運ばれてくるので、毎月の月初第2営業日ごろと12日ごろに事務量が急増する」

「中でも、年間で最も事務量が増えるのが7月12日ごろだ。7月は、通常の源泉納付に加え、給与の支払い対象者10人未満の事業者が源泉所得税を半年分まとめて納付できる特例の納期も来る。さらに労働保険料第1期分の納付や3月期決算企業の配当金支払いに関わる源泉納付もあるので、かなり事務量が増える。本店で取り扱う物量は、通常では1日平均3万~4万件だが、7月中旬のピークは1日で30万~40万件近くなることもある。その日は、ミカン箱サイズの段ボール箱で300~400箱くらいの納付書が金融機関から次々と運ばれてくる。年間で一番緊張する仕事だ」

「この日に向けては、事前準備を入念に行うとともに、当日は不急の事務は一切ストップして、課員総出で取りかかる。夕方に当日の国庫金がいくら入ったか経理できないと、国庫の資金繰りなどにも影響が出てしまうので、当日中に処理できるよう体制を組んでいる。機械ですべて読み取れればいいが、納付書の中には、汚れていたり、数字が記入枠からはみ出ていたりするものがある。そういったものは、エラーとして必ず検出される。エラーが出たら、原票などと突き合わせながら、手作業で数字をチェックして修正する。どうしても読み取れない場合は、一つ一つ、窓口納付された金融機関に電話をかけて、いくらで受け入れたのか調査してもらう。国民からお預かりしているお金なので、1円たりとも間違いがないように正確・迅速に処理しなければならないし、そうすることで政府の銀行としての役割を果たしていく責任がある。誤った金額で納付処理を行うと国民に迷惑がかかることになる」「物量の事前予想も非常に大切だ。電子納付の普及状況や納付日を含む曜日構成、最近の制度変更などを踏まえ、全体のトレンドを見ながら毎月、翌月分を予想する。特に、国庫金の納付期限が休日に当たる場合、期限は休日明けの翌営業日に延ばされるが、人間の心理からして、休日前に納める人が意外と多い。その場合、われわれの事務処理の山が二つに分かれてしまう。こういう事態が7月の最ピーク時に起きると、事前にしっかり予想して体制を組まなければ、処理できない事態になりかねない」

電子化進み、不測の事態への対応課題に=業務局国庫業務課(3)〔日銀探訪〕(2012年10月31日掲載)

事務の電子化が進み機械に任せる仕事が増えている裏側で、不測の事態が発生した際の対応力をどう維持していくかが、業務局各課が抱える共通の課題となっている。特に国庫業務課は、日銀の各支店に加え、日銀の代理で国庫金の出し入れ事務を行う金融機関店舗(一般代理店)500店余り、国庫金の受け入れ事務のみを代理で行う金融機関店舗(歳入代理店)4万店から相談を受ける立場にある。電子化が進んで本店で処理する事務が増加した結果、たまに支店や代理店がそういった事務を行うことになると、国庫業務課に対応の仕方を問い合わせてくるケースが増えたという。

小室昇課長は「電子化の進展に伴ってどういう仕事がレアケースとなっているかを課員に洗い出させ、影響が大きいものから順次、勉強会を開いたり、机上訓練をおこなったりしている」と説明。そういった事務を処理するノウハウはいつ使うことになるか分からないので、忘れることがないように注意を払っているという。

「官庁が、国庫金の振り込み依頼に関する書類を日銀の本支店や代理店に持ち込んでいた時代は、事務的にも手間がかかったし、市中金融機関にある受取人口座への入金も当日中は難しく、だいたい2~3日かかっていた。今は官庁から支払いのデータが送信されてきたら、これを(金融機関を結ぶ決済システムである)全銀システムを利用して各金融機関に送るので、基本的にはその日のうちに受取人口座に入金できる。電子化により、処理の迅速化が非常に進み、国民の利便性も高まった。しかし一方で、ボタンを押せば事務処理ができるため、その内容がブラックボックス化してきている傾向がある。障害や災害の発生など、想定していなかったトラブルが起きた際に、対応できないといったことにならないようにしていくのが課題だ」

「また、レアケースの例としては、現在は電子化されてめったに見ることがなくなった株式や国債の現物が持ち込まれたときの対応が挙げられる。日銀は政府が保有する有価証券の保管業務を引き受けているが、選挙の立候補者などが国に財産の一部を寄託する供託という制度に基づき、たまに株式や国債の現物が持ち込まれることがある。そういった際に間違えずにきっちり処理しないと、大きな影響が出てしまう。めったに起きない事務を処理するノウハウは、いつ使うことになるか分からないので、課員には常に磨きをかけるよう努力させている」

「支店や代理店からの問い合わせは増加傾向にあると感じる。従来は支店や代理店で通常業務として行ってきたものの中に、電子化の進展で手掛ける機会が減ってきているものがある。少量多品種化が進んでいるわけだ。そのため、これまで以上に本支店および代理店間の連携が重要となる」

「課の運営で心掛けていることは三点ある。一点目は円滑、確実に事務処理するということで、具体的にはブラックボックス化している事務やレアケースになった事務について、仕組みや背景を課員がしっかり理解するよう、常に心掛けて指導している。二点目は、現場からの提案を絶えず行っていくことだ。以前に在籍していた企画部門において想像していたことが、実施の現場では違うと感じることがある。そういった気付きは大切にしたい。三点目は課員への感謝。課の運営が円滑なのは、課の一人一人が責任感を持って仕事に取り組んでいるからだと思っている」次回は、11月中旬をめどに国債業務課を取り上げる。

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
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