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「日銀探訪」第22回:金融機構局金融データ課長 田口哲也

革新的取り組み、一般職がリードする=金融機構局金融データ課(1)〔日銀探訪〕(2014年6月25日掲載)

金融機構局金融データ課長の写真

データベース整備など定型業務中心で、主に一般職によって支えられている職場でありながら、革新的な取り組みを続けている部署が、日銀金融機構局内にある。今回取り上げる金融データ課がそれだ。世界で普及しつつある、財務諸表などのデータ収集に使われるXBRLというコンピューター言語の実用化に、金融庁などと並んで、日本でいち早く取り組んだ実績も持つ。課長は「各時代の最新技術を取り入れながら、現場力に裏打ちされて、さまざまな高度化を図ってきた奥の深い職場と感じている」と話す。

課員数は30人弱で、このうち3分の2程度が一般職の女性という。日銀のプルーデンス(信用秩序維持)政策を、データとITの面から支えている部署だ。田口課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「課の概要を説明すると、課員数は課長以下30人弱で、このうちの3分の2に当たる20人ほどが一般職の女性。IT総務、金融データベース、XBRL、預貸金統計の4グループで構成されている。金融機関と常に接している第一線窓口の一つで、定型業務中心ではあるが、データベース整備など各時代の最新技術も取り入れながら、現場力に裏打ちされ、さまざまな高度化を図ってきた奥の深い職場だ」

「業務の大きな柱の一つが、金融機関に関わるデータベースの整備。日銀は、1928年の考査部設置以来、金融機関の業務と財産の状況に関する基本的な資料の収集に取り組んできた。具体的に言うと、バランスシートの月次試算表である『月末日計表』、決算期ごとの『業務報告書』や『決算状況表』などは、当時から報告していただいている。60年代半ばには、世間に先駆けて大型コンピューターを導入した。また、91年に稼働を開始した初代の『金融データベースシステム』は、当時の最新技術を用いたもので、ITの専門家からは『これだけ巨大なデータベースをつくるのは、米政府など世界でもごく一握りの機関だけだ』と言われたほど。現行の同システムには、当課が所管するものだけで延べ2万数千項目、約800万系列のデータが蓄積されている。古いものだと、30年以上前のデータも残っている」

「これらのデータは、考査やオフサイトモニタリング、『金融システムレポート』の執筆などに生かされており、質が高く正確であることが重要だ。近年は、ある程度はシステムを用いてデータのチェックができるようになってきたが、まだまだ不十分。担当者は、システムによるチェックでは見過ごされがちな数字の不整合に気付く勘を研ぎ澄ましている。最近、当課の担当者が決算関連の計数に疑問を持ったのがきっかけで、その金融機関の過去数年におよぶディスクロージャー誌の訂正につながった事例があった。決算発表時期や考査立ち入り期間前などは、局内関係部署の職員がデータを心待ちにしている。内容を丹念に精査する一方で、一刻も早くデータベースに格納するという、難しい課題を両立させていかなければならない」「日銀は、金融機関との間のデータ授受の手段として、インターネット以前のパソコン通信の時代から、安全で使いやすい専用の『考査オンラインシステム』の整備に取り組んできた。現行の同システムは、仮想専用線や暗号化技術を用いて開発され、04年に稼働開始した。銀行や信用金庫、証券会社など約500金融機関と接続し、各種定例報告資料の提出や、考査に際しての事前提出資料の受け渡し、日銀からの金融機関宛ての書類の配布などに欠かせないインフラとなっている。このため、システム障害防止やセキュリティー確保に気を使っているほか、金融機関側の送受信作業の負担を軽減する取り組みも行っている」

世界に先駆けデータ収集の新技術導入=金融機構局金融データ課(2)〔日銀探訪〕(2014年6月26日掲載)

企業の財務情報などを電子化し、会計処理やデータの比較・分析を行いやすくすることを目指して米国で考案されたのが、XBRLと呼ばれるコンピューター言語だ。日銀は、財務・金融データのやりとりで世界的に普及が進むこのXBRLの実用化に、日本で最初に取り組んだ組織の一つ。2003年に、同方式による金融機関などからのデータ収集の実証実験を開始した。13年春までに、500以上の金融機関が、バランスシートの月次試算表や決算状況表といった定例報告計表のほとんどを、XBRL形式で提出するようになったという。金融データ課の田口哲也課長は「日銀がXBRL実用化の先駆け的存在であることは世界的に認められており、各種公的機関への助言や国際大会での講演などを求められる機会も多い」と話す。

XBRLデータの生成に必要なツールのほとんどは日銀が開発し、金融機関に無償で配布している。こうした開発作業を行内のITの専門部署やIT企業に頼り切りとせず、金融データ課の一般職の女性たちが主体となって進めているところがユニークな点だ。

「質が高く、正確なデータを収集するには、何よりも金融機関の協力が不可欠。そこでデータの報告については、金融機関自身のリスク管理や経営管理にも役立ち、かつ金融機関にとって負担の少ないものであるのが理想と考えている。当課は、データ収集方法改善の一環として、10年ほど前からXBRLの実用化に取り組んできた」

「データを正確に集計したり、比較したりするには、データの定義や質がそろっている必要がある。例えば、個々の勘定科目や自己資本比率のような報告指標の会計上・規制上の定義のみならず、より実務レベルで、数字が全角なのか半角なのか、小数点以下の処理はどうするのかなど、さまざまなことの定義を統一しなければならない。これを可能とする技術がXBRL。米証券取引委員会(SEC)や日本の金融庁、東証などが、データ報告のツールとして採用済みのほか、近年はEUや中国なども熱心に導入に向けて取り組んでおり、グローバルスタンダードな技術の一つになっている」

「当課では、定例報告計表のXBRL化に際して、この技術になじみのない金融機関の担当者でも取り組みやすいように、一般的なフォーマットからXBRLフォーマットに簡単に変換できるツールも開発し、金融機関に無償で提供した。XBRLが普及すれば、金融をめぐるデータの流れがより円滑になると期待している。この方式が、日銀への報告だけではなく、金融機関自身のさまざまな内部の会計処理にも使われていくことを期待している」 「XBRLに関わる開発作業のほとんどは、当課の一般職の担当者が主体的に進めてきた。この点は、内外の他の関係当局と大きく異なるところ。金融規制や会計基準はしばしば変更されるため、データの報告計表のフォーマットも猫の目のように変わる。これに対応するには小回りの利く開発体制が必要ということで、現在の形に行き着いた。高度な専門知識を駆使して、複雑な報告計表の書式を頭の中で『データモデル』として捉え、XBRLフォーマットで表現し直すという、かなり知的な作業が必要になるが、一般職の職員がよく対応してくれている。さらに、自分たちでマニュアルや設計書などの整備を進め、人事ローテーションの中で担当者が代わったとしても、ノウハウを的確に引き継げるような仕組みを構築してくれている」

貸出関連統計、内外からアクセス急増=金融機構局金融データ課(3)〔日銀探訪〕(2014年6月27日掲載)

日銀は、金融機関などから定期的に入手する財務・金融データを集計し、統計の形で公表している。これらは従来、アナリストや研究者、マスコミなどによって利用されてきたが、昨年4月の量的・質的金融緩和の導入以降、特に金融機関の貸し出しやバランスシートの状況に関する統計への関心が高まっているという。

リーマン・ショックと世界金融危機を経て、世界の金融当局者や専門家の間では、データ不足で事態を正確に把握できなかったことが危機の深刻化につながったとの反省から、金融データの重要性が改めて強調されるようになった。金融データ課の田口哲也課長は「金融規制やリスク分析手法の進化に応えられるように、データの収集・蓄積手段や利用環境の高度化を行内外に働き掛けていくことも、当課の重要な役目」と話す。

「日銀の主な金融統計には、調査統計局所管のものと、金融機構局所管のものがある。調統局の金融統計は、マネーストックや資金循環統計など、主にマネーの量や経済における全体的なお金の流れを分析する目的で整備されてきた。これに対し、金融機構局の統計は、もともとは金融機関の指導やモニタリングのために定期的に報告を受けてきたデータをまとめたものが多い」

「代表格は月次ベースの『貸出・預金動向』。昨年の量的・質的金融緩和の導入以降、貸し出しがどれだけ伸びたかを点検するための代表的統計の一つとして、改めて行内外で注目度が高まっており、総裁など日銀幹部が講演や会見などで言及する機会も増えている。日銀のホームページのアクセス件数をチェックすると、この統計の英語版資料が短観や物価統計に次ぐアクセス件数を稼いだ月も見られるなど、世界的に関心を集めていることが分かる」

「銀行・信用金庫のうち、貸出残高の多い上位50行庫を対象に四半期ごとに実施している『主要銀行貸出動向アンケート調査』も、最近注目度が高い。短観の貸出態度判断DIが借り手の企業側の見方を調査しているのに対し、当課の調査は貸し手である金融機関側の見方に焦点を当てている。両調査を照らし合わせることで、貸し出しが増えているのは資金需要の増加によるものか、それとも金融機関の積極的な営業攻勢によるところが大きいのか、といった掘り下げた解釈が可能になる」

「貸し出しをめぐる競争激化は『貸出約定平均金利』の趨勢的低下からも読み取れるため、近年、この統計は金融機関の収益環境の厳しさを物語る指標として使われることが多い。また、法定利率を決める際の参照金利に採用されるケースも増えている。このほか、『民間金融機関の資産・負債』という統計は、データの種類が多いこともあってホームページの検索サイトでのみ提供しているので、従来はアナリストや研究者などが主な利用者だった。しかし、金融機関の国内債、株式、外債などの保有残高が分かる速報性の高い統計である上、貸し出しの伸びを国内・海外別に把握できる点も注目を集め、最近は報道で取り上げられる機会が増えてきた」

「金融機構局は、極めて高い機密保持が必要な情報を扱っている。情報管理も、当課の重要な仕事の一つだ。具体的には、考査や国際会議のためにパソコンなどの機器を銀行外に持ち出す場合、所定のルールにのっとって、管理責任者がその都度許可するかどうか決める。また、返却を受けた機器を他の職員に回す場合は、使用者本人にデータを削除させた上で、さらに当課の担当者が念入りにチェックして、機密情報を残さないよう万全を期している。各種データベースや文書管理システムについては、個々の職員ごとに、所属部署や担当事務に応じて、アクセス可能なデータや文書をきめ細かく制御している」「課の運営に当たっては、女性が主力の職場でもあるので、フレックス勤務制の導入など、各人各様のワークライフバランスを尊重した職場づくりを心掛けている。また、マニュアル整備などノウハウの見える化に加え、職場勉強会の開催なども通じて、組織的にスキルの底上げに努めている。当課は、データサービスやITサポートの提供窓口の性格も有することから、課員に対しては、金融機関の方々など相手の立場を尊重した親身な対応や、責任ある事務処理をお願いしている。各グループの管理・監督者に対しては、それぞれの立場でアンテナを高くして、新たな目で仕事の見直しや高度化に取り組むよう、期待している」

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