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「日銀探訪」第31回:金融市場局市場企画課長 新見明久

市場感覚、国際金融規制の議論に生かす=金融市場局市場企画課(1)〔日銀探訪〕(2015年4月22日掲載)

金融市場局市場企画課長の写真

日銀にとって、金融市場の効率性や安定性の向上を図ることは、金融政策運営の面からも、金融機関の健全性を確保するプルーデンス(信用秩序維持)政策の観点からも、重要課題だ。今回取り上げる金融市場局市場企画課は、金融市場の制度設計や市場インフラの整備が主業務。現在は、国債取引の決済期間短縮化や新日銀ネットへの対応などの決済システムの高度化のほか、レポ・証券貸借規制などの国際金融規制への対応も手掛けている。市場参加者や内外の金融当局と連携しつつ、市場の整備に知恵を絞る毎日だ。新見明久課長は「リーマン・ショック以降、金融システムと実体経済、市場の連関を意識したマクロプルーデンスの考え方が広がり、市場企画課の課員も国際金融規制の議論への参加が求められるようになった」と話す。

同課のもう一つの業務の柱が、金融調節を行う際に担保や買い入れの対象となる社債、手形などの選定と管理。具体的には、これらの債務を発行する民間企業の信用力を独自に審査し、格付け要件なども加味しつつ、適格担保や買い入れ適格銘柄の選定を行っている。新見課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「課は、国内の金融・資本市場の整備に携わる市場整備グループと、信用判定と担保選定に関わる信用リスク管理グループで構成。人員数は、それぞれ約10人、約20人で、合わせて約30人が在籍している。このうち市場整備グループは、金融市場の取引の効率化・安定化を図り、市場の機能度を高めていく観点から、市場参加者に働き掛けたり、その取り組みをサポートしたりしながら、市場インフラの整備に当たっている。市場実務に関する知識や調査・分析力はもとより、外部環境の変化や市場参加者のニーズを的確に把握する力、市場関係者や内外金融当局とのコミュニケーション力、粘り強く着実に案件を推進する能力が求められる」

「これまでの市場整備は、その時々の金融調節手段や適格担保運営に関連した案件が多かった。具体的には、担保や買い入れの対象となる証券化商品の拡大に合わせて証券化市場の整備を進めたり、シンジケートローン債権の適格担保化を機に同市場の統計を整備したりといった例が挙げられる。しかしここ数年、市場とプルーデンス政策の相互連関が意識されるようになり、案件の幅が一段と広がった。これは、リーマン・ショック以降に国際金融規制が質的に変化し、マクロプルーデンス政策が重視されるようになったためだ」

「こうした変化に伴い、新たな国際金融規制の設計や実施作業で、市場の構造や取引実務に関する知識、市場機能への影響についての理解など、マーケット感覚がより求められるようになった。このため、当課の課員も国際金融規制に関わる国際会議に参加する機会が増えた。具体例を挙げると、金融安定理事会(FSB)の下で、レポ・証券貸借取引の規制や指標金利改革に関する国際的議論に参加している。市場整備の担当者が、わが国を代表して国際交渉の最前線に立つというのは、従来はあまり考えられなかったのではないか」「リーマン・ショック以降、決済システム高度化や金融規制改革などの案件を中心に、中長期の時間軸で対応する案件が増加している。例えば、国債取引の決済期間を、約定日の翌々営業日(Tプラス2)から翌営業日(Tプラス1)に短縮化するための議論は2009年から始まったが、最終ゴールは『17年以降の速やかな実施を目指す』とされている。FSBのレポ・証券貸借規制も、議論への参加は11年からで、各国での規制実施は17年の想定。長期的な計画と視座を持ち、関係者との信頼関係を構築しながら、粘り強く案件を進めることが大切だ。その際、マネジメントによる適切な案件管理はもとより、現在の担当者が次の担当者にうまく案件を引き継ぐことも不可欠。新しい担当者がその案件の重さを実感すればやりがいを覚えるだろうし、プロジェクトが実現したときの達成感も格別なものとなるだろう」

オペ実施に欠かせない企業の信用力審査=金融市場局市場企画課(2)〔日銀探訪〕(2015年4月23日掲載)

日銀は「銀行の銀行」として、金融機関に対し金融市場調節(オペ)などで貸し出しを行うが、「最後の貸し手」として金融システムの安定維持を図るために融資する場合を除き、担保を取ることとなる。金融機関は担保として、国債や地方債以外にも、社債や手形などの民間企業債務を差し入れることができる。これらの民間企業債務を発行する企業の信用力を審査するのが、金融市場局市場企画課の主要業務の一つだ。新見明久課長は「企業の信用力判断はバンキング業務の原点」と指摘。「中央銀行が民間企業の信用力を判断する責任の重さは、いつの時代にも変わらない」としつつも、政策手段の枠組みの変化や会計基準の変更などに対応する柔軟さも必要と話す。

審査は、財務・収益データを使った定量分析をベースに、金融機関から入手した情報などに基づく定性的な分析も加味。各社を同じように審査するのではなく、財務状況や事業のリスクの大きさなどに応じてめりはりを付けているという。

「日銀は、日々のオペを通じて取引先金融機関に信用供与を行う場合、担保として国債や地方債などのほか、民間企業の社債や手形などを受け入れている。また、リーマン・ショック以降、社債やコマーシャルペーパー(CP)などをオペの買い入れの対象とした。こういった形で民間企業の信用リスクを引き受けるに当たっては、債務を発行する企業の信用力を独自に審査する『信用判定』を行っている。担保管理ラインは、信用判定の結果に民間格付け機関による格付けも加味して適格銘柄を選定。担保として受け入れた債券の時価情報の管理も行う。一方、買い入れ管理ラインは、買い入れオペが実施される都度、信用判定結果に格付けや残存期間などの要件を加味して適格銘柄を選び、オペ先に通知する。信用判定が全体の事務の起点だが、担保管理、買い入れ管理とは事務の流れの中でつながっている。担当者間の情報共有と連携が非常に重要だ」

「信用判定は、民間企業債務の担保差し入れや買い入れを希望する取引先金融機関からの依頼に基づいて実施。原則として年に1回更新する。具体的には、財務・収益データに基づく定量分析をベースに、定性的な情報も勘案して、企業の信用力を総合的に判断している。定性情報の多くは、信用判定を依頼してきた金融機関から入手するが、必要に応じて日銀考査で収集した情報も使うほか、民間格付け機関の見方も活用する」

「現在の信用判定の骨格は、商業手形の再割引制度の下で1950年代に固まった。その後、会計制度の変更などに応じて、判定手法は時代とともに見直されてきた。例えば、現在は国際会計基準(IFRS)を採用する企業が増えているので、のれんの計上方法など、会計基準の変更に伴う影響を十分に理解して対応しなければならない。オペ手段や適格担保の拡充といった政策の枠組みの変化に、機動的かつ柔軟に対応する必要もある。民間企業債務の適格担保の範囲は、その時々の金融経済情勢などを踏まえ、手形やCP、社債から、資産担保証券(ABS)や資産担保CP(ABCP)、不動産投資法人債(REIT債)にまで拡大されてきた。このため信用判定の領域も、事業法人から、証券化商品や不動産投資法人の信用力にまで広がった。格付け会社への出向経験者、公認会計士、会計事務所からの出向者などを集めてスタッフを充実し、新たな審査ノウハウの取得・蓄積に努めている」「信用判定を行うに当たっては、民間格付け機関による格付けなどの市場情報も有用だが、日銀自らが信用力判断の『目線』を持ち、それがぶれないように、スキルに磨きをかけて、しっかりと継承していくことがとても大切だ」

債券市場参加者との対話がより重要に=金融市場局市場企画課(3)〔日銀探訪〕(2015年4月24日掲載)

日銀は2013年4月に導入した「量的・質的金融緩和」の下で、市場に与える影響にも留意しながら広範な金融資産を買い入れている。このため日銀は、市場参加者との「対話」を強化し、市場動向の正確な把握に努める方針を打ち出している。具体的には、大量の国債買い入れが債券市場にどのような影響を及ぼしているかを把握するため、市場参加者に債券市場の機能度などについて尋ねる「債券市場サーベイ」を2月から開始。債券市場参加者との意見交換会も創設する。これらを所管する金融市場局市場企画課の新見明久課長は「日銀の主たるオペの場が短期金融市場から国債市場に移ってきていることを念頭に置き、取り組んでいきたい」と話す。「市場との対話」を含め、同課が直面する当面の課題について話を聞いた。

「日銀は、量的・質的金融緩和政策を進めるに当たり、市場参加者との間で、金融市場調節や市場取引全般に関して、密接な対話を行ってきている。2月には、債券市場参加者との新たな対話のツールとして『債券市場サーベイ』を開始した。これは、市場参加者から見た債券市場の機能度や金利見通しなどを、四半期ごとに調査するものだ。また、08年から実施している『東京短期金融市場サーベイ』も、これまでは調査から公表まで半年程度かかっていたが、公表を大幅に早期化した。市場関連のサーベイは、市場参加者との対話のツールとして、できるだけ早く公表するよう努めていく」

「市場参加者との対話の場も一層充実させていきたい。金融市場局は13年以降、『市場参加者との意見交換会』を適宜開催してきたが、よりきめ細かな対話を行う観点から、参加者を比較的少人数のグループに分けた『債券市場参加者会合』も創設する。同会合では債券市場サーベイを有益に活用していきたい。海外主要中銀も、非伝統的金融政策の実施に歩調を合わせて、金融市場の参加者との対話充実に努めており、その動きは参考になる」

「二つ目の課題はレポ市場の整備。レポ取引は、資金や証券の運用・調達を行うための主要な取引手段で、わが国の市場規模は100兆円を超える水準にまで拡大した。レポ市場について、さらなる発展に向けた取り組みが内外で進められている。20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議や金融安定理事会(FSB)では、レポ・証券貸借取引の安定性や透明性を一段と高めるために、さまざまな議論が行われてきている。わが国のレポ市場整備も、国際的な議論やルールを踏まえて適切に進めていく必要がある」

「一方、国内では、国債取引について約定日の翌営業日決済化(Tプラス1)実現に向けた取り組みが進められているが、そのためにはレポ市場での資金取引を即日化する必要がある。現在Tプラス1で決済されているレポ取引がすべて即日決済に移行した場合、単純計算ではコール市場を上回り、東京短期金融市場で最大の即日の資金市場となる可能性がある。つまり、国債の決済期間短縮化は、決済リスクの削減だけでなく、市場整備の観点からも、レポ市場に大きな変革をもたらし得る重要な取り組みだ」

「日本におけるレポ取引は、現金を担保に債券を貸借する『現担レポ』が主流だが、海外では売買形式が一般的。そこで、レポ市場の即日決済化を進める過程で売買形式である『新現先』に移行する方針が決められた。われわれとしても、レポ市場の国際化に資する流れを後押ししていきたい」

「課題の三つ目は、災害などの発生時の業務継続計画(BCP)。金融市場局としては、災害時に金融機関同士のネットワーク機能をいかに維持していくかという、市場レベルのBCPを重視している。日本では、2000年代半ばから短期金融市場、証券市場、外為市場のそれぞれでBCP整備が本格化し、10年からは3市場合同訓練を毎年開催している。今後、より実践的な市場レベルBCP体制の整備に努めていく考えだ」「当課は、それぞれの担当にかなりの専門性が求められるため、ともすれば仕事の関心が偏ってしまう。課員には、担当分野だけにとどまらない広い視野と関心をいつも持ちながら仕事に取り組み、情報共有と連携でチームとしての力を引き出す楽しさも味わってほしいと思っている」

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