このページの本文へ移動

【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策

English

青森県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 石田 浩二
2013年9月11日

目次

I.はじめに

日本銀行の石田でございます。当地にも甚大な被害をもたらした東日本大震災から、本日でちょうど2年半となります。まずは、震災で犠牲となられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。また、この間の復旧・復興に対する関係者のご尽力に、心から敬意を表します。

本日は、青森県の行政および経済界を代表される皆様に、ご多忙のところお集まりいただきありがとうございます。また、皆様には、日頃より、日本銀行青森支店の業務運営に多大なご協力をいただき、この場をお借りして御礼申し上げます。

この金融経済懇談会は、日本銀行の政策委員が各地を訪問し、金融経済情勢や金融政策についてご説明申し上げるとともに、各地の経済・金融の現状や日本銀行の政策に対するご意見などを拝聴させていただく機会として開催しております。本日は、まず私の方から、日本銀行の金融政策とわが国の経済・物価情勢についてお話しさせていただき、その後、皆様から当地の実情に即したお話やご意見などを拝聴させていただきたいと思っております。

II.日本銀行の金融政策

1.「物価安定の目標」の導入と政府・日本銀行の共同声明

日本銀行は、本年1月の金融政策決定会合において、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率で2%とすることを決定しました。また、同時に、政府との共同声明を公表し、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現に向けて、政府と日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組むことを文書で明確にしました(図表1)。共同声明の中で、日本銀行は、「物価安定の目標」のもとで金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指すとしている一方、政府は、機動的なマクロ経済政策運営に努めるとともに、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取り組みを具体化し、これを強力に推進することに加え、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進するとしています。

2.量的・質的金融緩和

次に、デフレ脱却を目指した現在の日本銀行の金融政策についてお話しします。

日本銀行は、本年4月初の金融政策決定会合において、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するため、「量的・質的金融緩和」を導入しました(図表2)。この新しい金融政策では、量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標をそれまでの無担保コールレート・オーバーナイト物から、中央銀行が直接供給するお金の総量であるマネタリーベース(日本銀行券発行高と貨幣流通高、日銀当座預金の合計値)に変更しています。そのうえで、そのマネタリーベースを年間約60〜70兆円に相当するペースで増加させています。マネタリーベースを増加させる手段は、主に長期国債の買入れであり、日本銀行の長期国債保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行っています。なお、買入れる長期国債の平均残存期間も、従来の3年弱から、国債発行残高の平均並みの7年程度に延長しています。

また、国債の買入れ以外にも、資産価格のリスクプレミアムに働きかける観点から、ETF(指数連動型上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)について、保有残高がそれぞれ年間約1兆円・約300億円増加するよう買入れを行っています。この「量的・質的金融緩和」については、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続することとしています。また、その際、経済・物価情勢について、上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくこととしています。

以上が「量的・質的金融緩和」の基本的なフレームワークです。4月初に導入してからほぼ5か月が経過しましたが、この間、マネタリーベースは3月末の146兆円から8月末には177兆円まで拡大しており、本年末の200兆円に向けて順調に積み上がってきています(図表3)。また、長期国債の保有残高についても、3月末の91兆円から足もとでは123兆円まで増加しており、本年末の140兆円に向けて、こちらも順調に積み上げが進んでいます。

3.貸出支援基金

こうした「量的・質的金融緩和」に加えて、日本銀行では、強力な金融緩和の効果を一段と浸透させることを目指して「貸出支援基金」を設定・運営しています(図表4)。

貸出支援基金による貸付けには、「成長基盤強化を支援するための資金供給」と「貸出増加を支援するための資金供給」の2つがあります。前者の成長基盤強化支援は、わが国の成長力強化を支援することを目指し、民間金融機関による成長基盤強化に向けた融資や投資の取り組みに応じ、長期かつ低利の資金を金融機関に供給するというものです。一方、後者の貸出増加支援は、金融機関の一段と積極的な行動と企業や家計の前向きな資金需要の増加を促す観点から、金融機関の貸出増加額について、希望に応じてその全額を低利・長期で無制限に資金供給するというものです。足もとの貸付残高は、両者合わせて7兆円を上回っており、金融機関による企業の前向きな資金需要の掘り起こしを後押ししています。

4.金融市場の状況

以上のような強力な金融緩和政策のもとで、わが国の金融環境は大幅に緩和した状態となっています(図表5)。企業の資金調達コストをみると、金融機関の貸出金利は足もと大幅に低下しています。また、CP発行レートは、日銀当座預金への付利レートである0.1%前後まで低下しているほか、社債流通利回りの対国債スプレッドも、総じてタイトな状況が続いております。また、資金供給面でも、企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いています。

長期金利の水準については、昨年末以降、日本銀行の大規模な金融緩和に対する期待が高まるなか、日銀当座預金への付利撤廃に関する期待も一部織り込まれるかたちで、4月初までに大幅に低下してきました。4月初の「量的・質的金融緩和」の導入以降は、逆に、付利撤廃に関する期待の剥落による中期ゾーン金利の水準訂正に加え、いわゆる「期待で買って、現実で売る」動きがみられたため、イールドカーブ全体が上昇しました。さらに、5月中旬以降は、米国における量的緩和政策の変更への思惑が米国長期金利を上昇させ、わが国の長期金利にも上方への強い圧力を与えてきています。現在、わが国の10年物国債の金利は0.7%台で推移しており、絶対水準としては4月初の緩和前に比べて上昇しています。しかしながら、米国金利の上昇がドイツや英国の金利を押し上げているのに対し、わが国の金利は足もと横ばい圏内で低位に止まっており、日本銀行による強力な金融緩和が長期金利の上昇圧力を強く抑え込んでいることが分かります(図表6)。

このような極めて緩和的な金融環境のもとで、振れを伴いながらも為替は円安方向で推移し、株価も基調的に上昇してきています。銀行貸出も、大手行の貸出姿勢が積極化してきているなかで、残高の前年比増加率も月を追って拡大してきています(図表7)。また、昨日公表された8月のマネーストックをみると、広義流動性の前年比伸び率が+3.5%と、2007年3月以来の高い伸びとなっており、特に今年度入り後は、金銭の信託や投資信託の伸びが加速しています。経済主体におけるポートフォリオリバランスの動きはまだ緒に就いたばかりですが、これまでの緩和効果がじわじわと染み出し始めてきている姿もうかがわれ、今後の動向に注目していきたいと考えています。

III.経済・物価情勢

1.わが国経済の現況

(1)経済情勢

次に、経済・物価情勢についてお話します。

まず、わが国の景気の現状ですが、日本銀行では、「緩やかに回復している」と判断しております。今週月曜に発表された4〜6月期の実質GDP成長率(二次速報値)は年率換算で+3.8%となり、3四半期連続のプラス成長となりました(図表8)。一次速報値(年率換算+2.6%)からも、設備投資や在庫投資が上振れるかたちで大幅に上方修正されました。内訳をみると、内需については、公共投資が増加を続けるなか、個人消費が高めの伸びとなったほか、設備投資も2011年10〜12月期以来のプラスに転じています。また、外需についても、為替円安等による輸出の伸びからプラス寄与となっています。

個別の経済指標をみても、総じて改善を示しています(図表9)。個人消費関連では、様々な販売統計等がありますが、需要・供給両側の消費関連指標を合成した消費総合指数をみると、足もと堅調に推移しています。実質輸出については、単月の振れはみられますが、為替の動向や米国経済の緩やかな回復などの要因が上向きのモメンタムを作り出しており、自動車関連財や資本財・部品などを中心に持ち直し傾向にあります。鉱工業生産も、これらの内外需要の動向を反映して、緩やかに増加しています。

企業収益をみると、上場企業の2013年度業績は大幅な増益見通しとなっており、2000年度以降のピークだった2007年度に近いレベルまで回復する見通しとなっています(図表10)。7月下旬から8月上旬にかけて発表された上場企業の4〜6月期の決算をみても、内需関連の業種が総じて堅調だったほか、為替の効果や自動車・スマートフォン関連の需要の拡大に支えられて増収・増益となった先が多くみられました。そうしたもとで、今年度の設備投資計画は増加計画となっており、労働需給も有効求人倍率が上昇しているなど緩やかな改善が続いています。

(2)物価情勢

消費者物価指数(除く生鮮食品)については、6月に1年2か月ぶりにプラスに転じたあと、7月はプラス幅を拡大し、前年比+0.7%となっております(図表11)。東京都区部の8月の消費者物価指数(同)も前年比+0.4%となっており、小幅ながらも7月の+0.3%から伸び率を高めています。

全国の消費者物価指数の中身をみると、足もとではガソリンや電気代などエネルギー関連が全体の押し上げに寄与しており、食料工業製品も、輸入価格の上昇によるコスト高を販売価格に転嫁する動きが一部でみられています。また、最近の変化には、そうしたエネルギー関連の押し上げだけでなく、個人消費が底堅く推移するもとで幅広い品目に改善の動きがみられており、このことは除く食料・エネルギーでみた消費者物価が徐々に下げ止まりつつあることに表れています。

(3)当面の見通しと課題

イ.見通し

以上が経済・物価情勢の現状ですが、当面の見通しについて見てみますと、まず、景気については、国内需要の底堅さと海外経済の持ち直しを背景に、緩やかな回復を続けていくとみられます。具体的には、輸出については、米国を中心に海外経済が徐々に持ち直していくなかで、昨年以降の為替相場の動向による押し上げ効果が次第に明確になっていくことから、緩やかに増加していくことが期待されます。一方、国内需要をみると、公共投資は、緊急経済対策に基づく2012年度補正予算や公共投資に厚めの配分となっている2013年度当初予算、さらには復興予算の増額方針に支えられて、引き続き増加傾向をたどるとみられます。住宅投資については、先ほど述べた4〜6月期のGDP統計ではマイナスとなっていましたが、先行指標である新設住宅着工戸数をみると、4〜6月期は前期比+9.3%とはっきり増加しています。震災後の被災住宅の再建が続くなかで、低金利の効果や消費税率引き上げ前の駆け込み需要もあることから、先行きは進捗ベースでもしっかりと増加に転じていくと考えられます。また、設備投資も、企業収益が改善を続けるなかで、緩やかな増加基調をたどると考えられるほか、個人消費についても、雇用・所得環境の改善に支えられて、引き続き底堅く推移するとみられます。こうした動きのもとで、鉱工業生産は緩やかな増加を続けていくとみられます。

物価については、引き続き消費者物価の前年比プラス幅が拡大していくとみています。景気回復に伴い需給バランス改善の影響が次第にはっきりとしていくなかで、当面は、最近の為替相場や原油価格の動きを映じ、石油製品が押し上げに作用するほか、電気代も引き続き電力会社の値上げが見込まれるため、はっきりとした前年比プラスが続くと考えられます。また、先ほど食料工業製品でコスト高を転嫁する動きがみられていると申し上げましたが、パソコンやバックなどの輸入品も、メーカー出荷価格や小売価格の引き上げを図る動きがみられています。物価の先行きを占ううえで、企業の価格設定行動の変化は大きな注目点となりますが、今後、個人消費が底堅く推移し、企業の価格引き上げの動きが積極化してくれば、価格上昇が徐々に拡がっていく可能性があるとみています。

ロ.当面の課題

わが国経済がこうした見通しのとおり展開していくためには、生産の水準がしっかりと上昇していくかどうかが課題になるとみています。足もとでは、鉱工業生産のレベルは、依然として前年上期の水準を下回っています。これは、輸出の増加ペースが鈍いことによるとみられますが、その結果として、設備投資の増加に弾みがつきにくく、これがまた生産の伸びを抑えるという構図となっています。

従来、わが国経済の回復は輸出が牽引役となるパターンがほとんどでした。今回の回復局面では、内需に対応する個人消費や住宅投資、公共投資が引っ張っていますが、そろそろ輸出がしっかりと牽引役になる必要があります。足もと輸出の改善ペースが鈍い背景として、一部業種における競争力の低下や震災以降加速した海外生産移管、部品の現地調達の拡充などの構造要因が影響している面もあると考えられます。しかしながら、今後、わが国経済が安定した回復経路に復していくためには、輸出の持ち直しが必要であり、その点から海外経済の動向がカギになると考えています。

2.海外経済の動向

(1)欧州

ユーロ圏経済は、これまでギリシャやポルトガル、スペイン等を巻き込んだ欧州債務問題により大きく下押しされていましたが、足もとではようやく底入れしており、消費者・企業のマインドも改善するなど持ち直しに向かう兆しが出てきています(図表12)。一部の国々は依然として不安定な要因を抱えていますが、投資家のリスク回避姿勢は後退し、金融機関の状況も改善してきています。当面、大きな期待はできませんが、少なくとも世界経済の大きなマイナス要因とはならなくなっている状況です。

(2)米国

米国経済は、財政面からの下押し圧力を受けつつも、堅調な民需を背景に緩やかな回復基調が続いています(図表13)。個人消費は、雇用情勢が改善傾向をたどり、住宅価格など資産価格が上昇するもとで、緩やかな増加基調が続いています。先行きも、こうした回復傾向が続くとみられますが、このような状況を受けて、米国連邦準備制度理事会(FRB)はこれまでの資産買入れを段階的に縮小する方針であり、長期金利が上昇してきています。今後さらに金利が上昇していく可能性があるもとで、自動車と並んで米国の成長エンジンとされる住宅投資等への影響について注視していく必要があるとみています。

(3)新興国・資源国

これまで成長の牽引役であった中国は、重要な貿易相手である欧州の不調や、製造業における過剰設備問題による減速等を背景に成長率が低下してきており、内需主導の安定成長に向けてソフトランディングを目指している状況にあります(図表14)。また、その他の新興国・資源国では、これまで中国の高い成長や先進国の金融緩和政策の恩恵を受けてきましたが、足もとでは中国経済の減速や、米国の量的緩和政策の変更に関する思惑等により、金融面・貿易面・商品市況面などから強い下押し圧力がかかっている状況にあります。

(4)当面の課題

米国FRBによる資産買入れの段階的縮小に向けた動きは、米国経済が回復してきたからこそ実施されるものであり、米国にとっては自然な政策と言えます。しかし、それに伴う米国の長期金利の上昇は、各国の長期金利の上昇を招くおそれがあり、その場合はそれらの国々の景気に抑制的に働きます。

新興国においては、米国の量的緩和等によってこれまで大量の資金が流入し、それが各国の成長を促してきた面がありましたが、これが流出に転じると、通貨や株価、債券の下落やインフレの上昇を招き、経済成長にマイナスの影響を与えるおそれがあります。これらマイナスの影響と米国経済が成長することによるプラスの波及効果を比べてネットプラスかマイナスか、今後、注目していきたいと思います。また、資本移動の今後の展開については、新興国における双子の赤字解消やインフレ対策、構造改革に向けた取り組みも影響するとみられるため、そうした取り組みの動向についても注意する必要があると思っています。

IV.デフレ脱却に向けて

1.来年度以降の展望

2014年度から2015年度にかけては、日本銀行が公表した「経済・物価情勢の展望」、いわゆる「展望レポート」で示した中心的見通しに沿って推移していくとみています(図表15)。すなわち、わが国の経済は、基調的には潜在成長率を上回る成長が続き、物価については、消費税率引き上げの直接的な影響を除くベースでみると、マクロ的な需給バランスの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを反映して上昇傾向をたどり、2015年度までの見通し期間の後半にかけて消費者物価の伸び率は「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高い、というものです。

2.デフレ脱却に向けて

このように、日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を実現するため、強力な金融緩和政策を行っているところですが、政府・日銀の共同声明にもあるとおり、それにより物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現していかなければなりません。

多くの人々は、デフレから脱却することによって景気が良くなる、暮らしが楽になると考えています。しかしながら、デフレ脱却を目指し、物価が上がっていった時、所得がこれに見合って増えていかなければ、一時的に経済が成長するとしても持続することはできません。家計の実質購買力が低下することで消費が落ち込み、景気は悪くなってしまいます。これではデフレ脱却を目指す意味がありません。

わが国の経済は、ようやく緩やかに回復しているという状況であり、景気の前向きな循環メカニズムが働き始めている極めて重要な時期にあります。そうしたなか、先行き2014年度からは消費者物価の上昇幅が大きくなることが見込まれており、足もとの景気回復を安定的な成長軌道に乗せていくためには、名目所得がしっかりと増加していく必要があります(図表16)。

それが可能となるためには、まずは、景気の前向きな勢いを保つとともに、企業収益の水準が全体として十分高まっていくことが前提となります。そのうえで、わが国経済の将来に対する懸念を払拭し、成長期待を確保する必要があります。そのためには、共同声明にあるように、日本銀行がしっかりと強力な金融緩和を実施し、「物価安定の目標」の達成を目指す一方、政府においては、機動的な財政出動と成長戦略の確実な実行、財政に対する信認の確保が極めて重要です。

消費支出が安定的に拡大するためには、所得増加の源泉は、元々変動する特別給与よりも、名目賃金の4分の3を占め、変動が少なく安定的とされる所定内賃金の増加がより効果的であり、望ましいと言えます。この観点から、21世紀に入ってからほとんど実施されなかったベースアップが2014年度からできる限り幅広く復活・実施されることが極めて意味あるものと考えます。

わが国では、長年にわたり所得の停滞が続き、物価が上がらないという状況のもとで、デフレマインドが定着してきたのだと思います。この先、経済が成長し、物価が上昇し、それに対して所得がしっかり増加していくという実績が出てくれば、人々のデフレマインドが転換し、真のデフレ脱却に大きく近づくものと考えております。

V.おわりに ― 青森県経済について ―

最後に、青森県の経済について、お話しさせていただきます。

当地の景気は、横ばい圏内の動きとなっているものの、一部に持ち直しの動きがみられている、とみています。8月初の時点で判断を上方修正させていますが、これは、個人消費など内需が底堅く推移するなかで、生産全体として明るさがうかがわれることを踏まえたものです。こうした県内の金融経済情勢については、毎月青森支店の方から公表させていただいておりますので、私の方からは、もう少し中長期の視点から、当地経済の成長・発展についてお話したいと思います。

当地経済の活力の維持・向上を考えるうえでは、やはり基幹産業である第一次産業と資源豊富な観光分野の強化という点が挙げられると思います。政府では、今年6月に日本経済の再生に向けた“第3の矢”に当たる「日本再興戦略」について閣議決定しましたが、その中で、農林水産業については、加工・流通部門までを取り込んで6次産業化を推進することで付加価値を高め、成長産業として強化していく方向性が打ち出されています。また、観光についても、急速に成長するアジアをはじめとする世界の観光需要を取り込むことによって、地域経済の活性化につなげていくことが謳われております。

当地では、農業をはじめとする第1次産業は地元経済を支える優位産業・基幹産業であり、観光についても「ねぶた祭り」や「十和田湖・奥入瀬」、「白神山地」、さらには今年5月に三陸復興国立公園に指定された蕪島・種差海岸など豊かな資源を有しています(図表17)。こうした地域経済のポテンシャルを最大限活かし、強みを伸ばしていくことができれば、人口減少や少子高齢化が進む中にあっても、自立・活性化した地域経済の確立に繋げていくことができると思います。

青森支店からの報告や県の経済白書を拝見させていただくと、既に農業を軸とした産業と地域コミュニティの再構築や、産業基盤の強化に向けた具体的な取り組みが行われていると認識しています。こうした一つ一つの取り組みを成果に結び付け、地域の発展につなげていくことが肝要と思われます。先行きは2015年度末の北海道新幹線の開業や、バイオマス発電などの再生可能エネルギー関連の拡大に伴う経済効果も期待されております。東日本大震災による被害を乗り越えて、当地の経済がますます成長・発展していくことを期待しまして、私からの話を終わらせていただきます。

ご清聴ありがとうございました。