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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営

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愛媛県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 中曽 宏
2015年3月9日

目次

1.はじめに

日本銀行の中曽でございます。本日は、当地の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃より日本銀行松山支店の様々な業務運営にご協力を頂いております。この場をお借りして改めて厚くお礼申し上げます。

日本銀行は、日本経済が長年続いたデフレから脱却し、持続的に成長することが何よりも大事だと考えています。その実現のため、一昨年の4月、「量的・質的金融緩和」を導入し、昨年10月末にはその拡大を決定しました。そのもとで、日本経済は2%の「物価安定の目標」の実現に向け、着実に歩を進めています。しかし、「2年程度で2%を実現することは難しいのではないか」とか、「無理に物価上昇を起こせば、却って生活が苦しくなるのではないか」といったご質問を頂くこともあります。本日は、わが国の経済情勢についてお話しした後、日本銀行の金融政策運営と物価情勢についてご説明することを通じて、こうした疑問にもお答えしたいと考えています。

2.内外経済の現状と先行きの見方

はじめに、わが国経済の現状についてお話しします。日本経済は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の規模が大きかった自動車や家電など耐久消費財を中心に、駆け込み需要の反動の影響がやや長引きました。もっとも、最近では、企業・家計の両部門で所得から支出へという前向きな循環がしっかりと働くもとで、わが国経済は緩やかな回復基調を続けています。以下、海外部門、家計部門、企業部門の順に、最近の状況と先行きの見通しをお話ししたいと思います。

海外経済とわが国の輸出

まず、輸出の前提となる海外経済については、一部に緩慢さは残っていますが、先進国を中心に回復しています。先行きも、原油価格の下落が世界経済全体としてはプラスに働くなかで、先進国を中心に緩やかな回復を続け、その好影響が次第に新興国・資源国経済にも及んでいくとみています。この点、1月に公表されたIMFの世界経済見通しをみると、これまでの成長率下振れから先行き見通しも下方修正されていますが、2014年に+3.3%の伸びとなった後、2015年は+3.5%、2016年は+3.7%と、緩やかに成長率を高めていくとの姿は維持されています(図表1)。わが国の輸出は、為替円安にもかかわらず弱めの動きを続けてきましたが、最近は2四半期連続で増加するなど、持ち直しています(図表2)。為替円安による数量増加効果が漸く出てきたようです。先行きについても、海外経済が緩やかな回復を続けるなかで、輸出は緩やかに増加していくとみています。

雇用・所得環境と家計支出

次に、家計部門ですが、雇用・所得面をみると、労働需給は着実な改善を続けています。すなわち、失業率は構造失業率並みの3%台半ばまで低下しているほか、有効求人倍率は1.14倍と1992年4月以来の高水準となっています(図表3)。こうした労働需給のタイト化を背景に、1人当たりの名目賃金は振れを伴いながらも緩やかに上昇しています(図表4)。以上の雇用・賃金情勢を反映して、雇用者所得は緩やかに増加しています。

こうした雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は、一部で改善の動きに鈍さがみられますが、全体としては底堅く推移しています(図表5)。また、駆け込み需要の規模が大きかった住宅投資も、下げ止まりつつあります。この間、昨年の夏頃から慎重化の動きが続いていた消費者マインドも、最近では下げ止まっています(図表6)。

先行きも、今春闘での賃上げが期待できるなど、雇用・所得環境は着実に改善していくと考えています。そのもとで、個人消費は引き続き底堅く推移し、住宅投資も底堅さを取り戻していくとみています。

企業収益と設備投資動向

最後に、企業部門です。企業収益は、これまでの為替円安の効果もあって、改善を続けています。法人企業統計で全規模全産業ベースの売上高経常利益率をみると、このところ売上の増加を伴いながら5%程度に達しており、リーマンショック前を上回る高水準となっています(図表7)。先行きの企業収益は、これまでの原油価格下落や為替円安も押し上げに寄与してくるなかで、改善傾向を続けていくとみています。

このように企業収益が改善するなかで、設備投資は緩やかな増加基調にあります(図表8)。先行きの設備投資については、(1)設備過剰感が後退していること、(2)雇用情勢のタイト化から省力化投資が見込まれること、(3)為替円安が進むなか、国内の設備投資ウエイトを高める動きがみられることなどを背景に、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな改善基調を続けるとみています。実際、最後の点については、先の1月の支店長会議でも、為替円安を背景に生産や設備投資面で国内拠点を強化する例が報告されました。

生産は、昨年4〜6月、7〜9月と2四半期連続で減少しましたが、その後在庫調整が進捗したこともあり、10〜12月は増加に転じ、1月も引き続き増加しました(図表9)。先行きも最終需要の増加を背景に、生産は緩やかに増加していくと考えています。

このように、わが国経済は、家計・企業の両部門において、所得から支出へという前向きの好循環メカニズムが作用するなかで、緩やかな回復基調を続けています。先行きも、これまでの原油価格の下落や政府による経済対策なども景気の押し上げ要因となるなかで、こうした前向きなメカニズムが働き続けていくことから、わが国経済は緩やかな回復基調を続けていくとみています。日本銀行・政策委員会が1月に公表した「展望レポート」の中間評価における実質GDPの見通しで申し上げると、2014年度は−0.5%となった後、2015年度は+2.1%、2016年度は+1.6%と、0%台前半ないし半ば程度とみられる潜在成長率を上回る成長を続けると予想しています(図表10)。

3.わが国の物価情勢と金融政策運営

続いて、金融政策運営とわが国の物価情勢についてお話しします。

冒頭にお話ししたとおり、日本銀行は、2年程度の期間を念頭に、できるだけ早期に2%の「物価安定の目標」を実現するため、2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入し、昨年10月末にはそれを拡大しました。

「量的・質的金融緩和」の狙い

「量的・質的金融緩和」の効果の波及メカニズムを改めて整理しますと、日本銀行が2%の実現に向けて強いコミットメントを示すことで、人々のデフレマインドを転換し、予想物価上昇率を引き上げることを効果の起点にしています。同時に、巨額の国債買入れによって名目金利に低下圧力を加えることで実質金利の低下を促し、設備投資など民間需要を刺激します。そして、これは予想物価上昇率の引き上げとあいまって、実際の消費者物価の上昇につながります。

それでは、なぜ需要喚起だけでなく、予想物価上昇率の引き上げが必要なのでしょうか。それは、日本銀行が最終的に目指す物価の安定は、一時的に達成すればよいものではなく、持続的なものでなければならないからです。すなわち、需要を喚起すればその間は物価が上昇し、一時的に2%を達成することは可能かもしれませんが、人々が低い物価上昇率を前提に意思決定や経済活動を行っている場合、2%を安定的に持続することはできません。しかし、中長期的な予想物価上昇率が2%まで上昇し、人々が2%の物価上昇を前提に意思決定や経済活動を行う世界では、物価は景気循環や商品市況の変動などで一時的に上下に振れても、最終的には2%に戻ってくることが期待できる状態になります。すなわち、ある程度の期間を均してみれば、物価は2%を中心とした動きになります。したがって、2%の「物価安定の目標」を安定的に持続するには、予想物価上昇率が2%に上がり、そこでアンカーされる必要があるということです。

「量的・質的金融緩和」の拡大

こうした狙いのもと、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮し、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比は、この政策を導入する直前の−0.5%から、昨年夏場にかけて1%台前半まで上昇してきました(図表11)。その間、人々の予想物価上昇率は全体として上昇し、デフレマインドの転換は着実に進んできたと思います(図表12)。

ところが、昨年の夏場以降、消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きに加え、原油価格の大幅な下落もあって、消費者物価の前年比上昇率はプラス幅が縮小してきました(前掲図表11)。こうした状況が続くと、せっかくここまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがあります。このリスクが顕現化すると、予想物価上昇率の上昇を起点とする「量的・質的金融緩和」の効果波及メカニズムが働かなくなってしまいます。そこで、こうしたリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するため、昨年10月、日本銀行は「量的・質的金融緩和」を拡大しました。

そもそも、原油価格の下落は、短期的には物価上昇率を引き下げますが、日本のような原油輸入国では、経済活動に好影響を与え、やや長い目でみると物価を押し上げる方向に働きます。エネルギー価格が下落して企業の収益や家計の購買力が高まる、いわゆる交易条件の改善がもたらされるためです。2013年度の日本の原油輸入額は15兆円弱でしたので、昨年夏頃までの1バレル100ドル程度から最近の50ドル程度まで下がると、ごく単純に計算して年間7兆円を上回る所得移転が国内にもたらされることになります。このため、原油価格の下落は、やや長い目でみると経済活動に好影響を与え、物価を押し上げる方向に働きます。原油価格下落の影響だけをみると、一旦下がったインフレ率は、やがてその影響が剥落するにつれて上がっていくことになるということです。

したがって、原油価格が下落して実際のインフレ率が低下したとしても、それが予想物価上昇率に影響を与えず、物価が基調的に2%に向かっているのであれば、金融政策で対応する必要はありません。逆に、原油価格の下落が中長期的な予想物価上昇率に影響を与え、先行き2%の実現が難しくなるとみられる場合には、金融政策による対応が必要になります。以上申し上げたとおり、日本銀行は、原油価格の下落に機械的に対応して追加緩和を行ったわけではありません。原油価格の下落などによって消費者物価の前年比上昇率が伸び悩むなかで、デフレマインドの転換が遅延するリスクが顕現化し、基調的な物価の動きに悪影響が及ぶことを未然に防ぐために行ったものです。

物価の基調的な動きの把握

このように、金融政策を運営する上では、物価の基調的な動きを正しく捉えることが、非常に重要なポイントとなります。それでは、物価の基調的な動きはどのように把握すればよいのでしょうか。現実の物価には商品市況など一時的な変動も反映されますが、物価の基調は需給ギャップと中長期的な予想物価上昇率によって規定されます。そこで、物価の基調的な動きを捉えるためには、まずは、これら2つの要素を把握することが重要になります。中長期的な予想物価上昇率については、物価連動国債から把握できるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)といった市場指標や、企業・家計・エコノミストなどへのサーベイ調査など数値で表されるものだけではありません。予想物価上昇率は言い換えると人々の物価観、すなわち「人々がどの程度の物価上昇を前提として意思決定や経済行動を行うか」ということですので、それは企業の価格設定行動や労使の賃金交渉、家計の消費パターンなど日々の経済活動に表れてきます。昨年の春闘で物価の上昇を前提として久方ぶりにベアが実施されたことや、消費者が単なる低価格指向ではなく、少々高くても値段に見合うものであれば購入するようになり、企業の価格設定スタンスにもそれに合わせた変化がみられることは、予想物価上昇率の上昇、すなわちデフレマインドの転換が着実に進捗している証左と言えます。

物価指数を点検する上でも、物価の基調を捉えるためには、単一の指数だけでなく、様々な指数をみていくことが必要になります。日本銀行では、消費者物価指数の総合、除く生鮮食品(いわゆるコア)、除く食料・エネルギー(いわゆるコアコア)のほか、価格変動率の高い品目を控除した刈込平均値、上昇・下落品目比率など様々な指数を点検していますし、必要に応じてその構成品目まで遡って分析を行っています。また、日本銀行は、物価見通しを示す際には、物価の基調を良くトレースする指標として、消費者物価指数(除く生鮮食品)を使っています。ただ、この指数にはエネルギー価格が含まれており、現局面のように原油価格が大幅に下落している時には、一時的に押し下げられるため、これだけでは物価の基調を評価しづらくなります。このため、1月の「展望レポート」の中間評価では、先行きの消費者物価指数(除く生鮮食品)の見通しに加えて、この見通しに対するエネルギー価格の寄与度の試算値を示しました。

先行きの物価情勢と金融政策運営

以上を踏まえた上で、先行きの物価情勢についてお話しします。日本銀行・政策委員会が1月に公表した「展望レポート」中間評価の見通しでは、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比は、2014年度+0.9%の後、2015年度はこれまでの原油価格の大幅下落の影響から+1.0%にとどまる見通しです(前掲図表10)。しかし、物価の基調は着実に高まっていくとみています。すなわち、物価の基調を規定する需給ギャップは、わが国経済が基調として潜在成長率を上回る成長を続けるもとで、改善を続けていくとみています。また、予想物価上昇率も着実に高まっていくと考えています。実際、今年の春闘にあたっては、労働組合から昨年を上回る賃上げ要求が出され、経営者側も賃上げに前向きな姿勢を示しています。人々の働き方が多様化していることもあって、賃上げはベアや賞与、各種手当など様々な形態を取ることが考えられますが、どのような形にせよ、現実に賃金が上がってくると、人々のデフレマインドの転換はさらに進捗すると考えています。また、原油価格下落の影響は、前年比でみると1年経つと剥落します。したがって、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比は、来年度前半は既往の原油価格下落の影響から低めの伸びとなりますが、原油価格が現状程度の水準から先行き緩やかに上昇していくという前提にたてば、来年度後半は原油価格の影響が剥落するに伴って伸び率を高めていき、2015年度を中心とする期間に2%程度に達するとみています。その後、2016年度は、引き続き潜在成長率を上回る成長となり、需給ギャップのプラス幅が拡大するなかで、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比は+2.2%となる見通しです。このところ原油価格は大きく変動していますので、その動向によっては、2%に達する時期が多少前後する可能性はあると思いますが、重要なのは物価の基調だと考えています。

先行きの金融政策運営については、2%の「物価安定の目標」の実現を目指して、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。もちろん、物価の基調的な動きに変化が生じ、2%の「物価安定の目標」の早期実現のために必要になれば、調整を行う方針です。

2%実現後の地方経済

さて、以上申し上げてきたように、日本銀行は「量的・質的金融緩和」を続けることで、2%の「物価安定の目標」を実現出来ると考えています。これに対して、「物価だけ上がって、生活は苦しくなるのではないか」といった質問を頂くことがあります。そこで、なぜ2%を目指す必要があるのか、お話ししておきたいと思います。

デフレのもとでは、現金や預金は持っているだけで実質的な価値が増えていきます。したがって、実際に投資するよりも、現金や預金を貯めておくことが相対的に有利な投資となります。デフレ経済が長引いた結果、設備や研究開発への投資が抑制され、日本経済は成長力を削がれてしまい、活力を失っていきました。日本の潜在成長率が趨勢的に低下してきたのは、こうして設備投資が抑制されてきたことが一因です(図表13)。しかし、2%の「物価安定の目標」が持続する経済では、状況は大きく変わります。すなわち、現金や預金を手元に置いておくだけでは、その実質的な価値は目減りしていきますので、企業は設備や研究開発への投資、人材の確保や育成などに手元資金を有効活用していく必要が出てきます。また、新たな事業分野への挑戦など、前向きな動きも増えてくるでしょう。こうした動きは、各企業の競争力や生産性向上につながるものですし、ひいては日本経済の活力を再び取り戻し、成長力を高めることになります。そのなかで、所得・支出・生産の前向きな好循環メカニズムを伴いながら、日本経済全体が拡大していくことが期待できます。すなわち、日本銀行が目指しているのは、物価だけが上がる世界ではなく、企業収益や賃金の増加を伴いながら経済が拡大し、そのなかで2%の「物価安定の目標」が実現される世界です。

現在、日本経済は長年続いたデフレから漸く抜けだそうとしている過程にあり、経済情勢改善の成果は均一にもたらされていると言うよりも、大企業と中小企業、都市部と地方などばらつきが大きいのが実情だと思います。今後は、経済の前向きの循環メカニズムが作用しながら経済全体が成長していくもとで、企業収益や雇用者所得もさらに拡大し、回復の実感が拡がっていくものと考えています。

もちろん、2%の「物価安定の目標」が実現すれば、それだけで地方経済が抱えている課題が解決し、成長率が高まるわけではありません。地方経済においては、人口減少と高齢化が都市部よりも早く進行していますので、そうしたなかでいかに成長率を高めていくか、そのための中長期的な取り組みが必要です。すなわち、経済成長率は人口の増加率と1人当たりの付加価値の伸び率で決まってきます。このうち人口増加率をみると、人口が増加している都道府県は、2013年10月までの1年間では東京都や愛知県など8都県にとどまっています。加えて、相対的に地方の方が65歳以上の老年人口の割合が高く、15歳から64歳までの生産年齢人口の割合が低くなっています。また、1人当たりの付加価値については賃金に反映されると考えられますが、都道府県別にみると賃金が全国平均よりも高いのは大都市圏の5都府県(東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府)にとどまっています。

日本全体として人口が減少していくなかで、地方だけが人口を増やしていくことは簡単ではありません。だとすれば、まずは、地方に立地する企業の生産性を引き上げ、企業が産み出す付加価値を高めていくことが必要です。実際、地方においては、第1次産業の6次産業化、商品のブランド化、歴史・文化や自然環境といった観光資源の活用など、大都市圏とは違った形で付加価値を増やす取り組みが可能だと思います。生産性が上昇すれば、その分賃金を引き上げることも可能になります。こうして賃金が上昇してくれば、もともと地方は、職住接近や子供を育てやすい環境など人を惹きつける魅力に富んでいるので、人口の地方回帰という好循環につなげていくことも可能だと思います。

さきほどお話ししたとおり、2%の「物価安定の目標」が安定的に持続する経済では、現金や預金を手元に置いておくよりも、投資や人材育成などに有効活用することが有利になります。日本銀行としては、出来るだけ早期にこうした世界を実現し、企業の前向きな取り組みを後押ししていきたいと考えています。また、日本銀行では、この1月に「成長基盤強化を支援するための資金供給」および「貸出増加を支援するための資金供給」について、その期限を1年間延長するとともに、前者の総枠を引き上げることを決定しました。同時に、これまで利用対象外であった信用組合や農業協同組合など日本銀行の非取引先金融機関が、各々の系統中央機関を通じてこれらの資金供給制度を利用し得る枠組みを導入することを決定しました。これらの制度が、地域経済発展のためにも大いに利用されることを期待しております。

4.おわりに

最後に愛媛県経済の現状等についてお話しします。

愛媛県の景気の現状については、個人消費の持ち直しの動きにやや鈍さがみられていますが、企業の生産活動は高水準を維持しているほか、雇用や所得環境も着実な改善がみられているなど、全体として、所得から支出へという前向きな景気循環メカニズムが働いている点は、全国と同様であると判断しております。

また、原油価格の下落などもあって、企業収益は総じて底堅さを維持しています。もっとも、さきほども触れたように、景気回復の実感という点では、業種や企業規模によってばらつきがあることも確かです。特に、為替円安の影響に関しては、造船・海運のほか、グローバルに事業展開を行っている製造業では受注や収益の大幅な改善がみられる一方、紙・パルプや中小・零細の非製造業の多くでは仕入価格の上昇などから業況感の改善は緩やかなものにとどまっています。

愛媛県でも、地域経済の底上げを図る様々な取り組みが行われています。ブランド化による販売戦略が成功し見事な復活を遂げた「今治タオル」の事例が有名ですが、最近も、造船業における大型ドックの新設、製造・研究開発拠点の高度化を図るなかでの県内拠点重点化といった企業自身の前向きな動きのみならず、企業が行政や金融機関と連携して販路拡大を図る動きも積極化しています。関係者が一体となった取り組みは、地域経済の生産性上昇に大きく寄与すると思います。

なかでも、観光分野においては、昨年、しまなみ海道周辺を舞台にした「瀬戸内しまのわ2014」や道後温泉での「道後オンセナート」など、既存の観光資源にサイクリングやアートといった新たな趣向を加えて、地域の魅力やアピールを高める意欲的な取り組みが行われました。また、国際的にも良く知られた観光ガイドである「ミシュラン・グリーンガイド」のウェブ版では四国の特集が組まれました。インバウンドの観光客が大都市圏や北海道・沖縄などに偏りがちななかで、国内の観光客のみならず、海外にも地域の魅力をアピールしていくことは、地域経済の底上げにも大いに貢献していくと期待されます。

さらに、西条市の地域再生計画「四国経済を牽引する総合6次産業都市推進計画」が四国で唯一、地方創生のモデルとして認定されました。地方創生については、2015年度中に、県や市町村がそれぞれ「人口ビジョン」や「地方版総合戦略」を策定することとなっていますが、全国を上回るスピードで少子高齢化が進展する愛媛県においても、地域経済の生産性を高め、働き盛り・子育て層の人口流入を促していくために、地域産業の高付加価値化を促す踏み込んだ施策の実行が求められると思います。

今後、行政と民間がさらに連携を深めながら、具体的な取り組みに関する検討が進められていくものと思いますが、日本銀行松山支店もこうした検討に少しでも貢献できるよう地域経済の分析を進めていきたいと考えています。

最後になりましたが、当地経済のますますの発展を心より祈念し、挨拶の言葉とさせて頂きます。

ご清聴ありがとうございました。