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【挨拶】全国信用組合大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2022年10月21日

1.はじめに

本日は、全国信用組合大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。

信用組合は、中小企業・小規模事業者や住民が「相互扶助」の精神に基づき協同して事業を行う金融機関であり、わが国経済を支えていくために不可欠な存在です。この間、新型コロナウイルス感染症の拡大という未曾有の事態を経験するもとでも、一貫して、地域社会や人びとの生活に身近に寄り添いながら支援を続けてこられました。あらためて皆様の日頃のご尽力に対し、日本銀行を代表し、深く敬意を表します。

本日は、はじめに、最近の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、金融システム面の話題についてお話しします。

2.経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営

はじめに、経済情勢についてお話しします。

わが国の景気は、資源価格上昇の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直しています。個人消費は、感染症の影響を受けているものの、緩やかに増加しています。輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加しています。企業収益は全体として高水準で推移しており、そのもとで、設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。9月短観における今年度の企業の設備投資計画では、2桁の高い伸びが見込まれています。先行きのわが国経済は、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみています。

物価面では、本日公表された9月の生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、+3.0%となっています。先行きは、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想しています。

リスク要因については、引き続き、内外の感染症の動向やその影響、今後のウクライナ情勢の展開、資源価格や海外の経済・物価動向など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があります。

こうした中で、日本銀行としては、わが国の経済をしっかりとサポートし、賃金の上昇を伴うかたちで、「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現できるよう、金融緩和を実施していく考えです。

3.金融システム面の話題

次に、金融システム面の話題です。

わが国の金融システムは、感染症拡大以降、供給制約やエネルギー・原材料価格の上昇、地政学的リスクの顕在化といった様々なストレス局面が継続する中にあっても、全体として安定性を維持しています。こうしたもとで、信用組合を取り巻く環境や課題について、3点申し述べたいと思います。

1点目は、感染症やエネルギー・原材料価格の上昇の影響を受けた地域企業に対する支援についてです。

感染症拡大以降の企業金融の動向を振り返ってみると、経済・社会活動の水準低下により大きな影響を受けた飲食・宿泊など対面型サービスを中心に、地域金融機関は、実質無利子・無担保融資など政府の施策も活用し、積極的な資金繰り支援を行ってきました。こうしたご努力が奏功した結果、足もとまで企業は全体として手元流動性を厚めに確保しており、倒産件数も引き続き低位で推移しています。

もっとも、今後は、経済活動の再開が進む一方で、コロナ関連融資の返済が本格化していきます。さらに、最近のエネルギーや原材料価格の上昇は、より幅広い業種に影響を及ぼす可能性があります。感染症の影響に加えて、輸入物価の上昇の影響や価格転嫁の進捗など、それぞれの取引先企業の特性や財務状況に応じて、一層きめ細かな与信管理を継続していくことが求められます。こうした局面では、中小企業や個人事業者の実情を身近でよく理解し、寄り添いながら支援を行う信用組合の役割がますます重要になってくるものと期待しています。

2点目は、中期的な視点に立った地域の課題解決や地域経済の活性化の取り組みについてです。

このまま感染症の影響が和らぎ、経済活動の再開が一段と進んでいけば、企業は、コロナ関連融資の返済を行いつつ、本業での「稼ぐ力」、すなわち、営業キャッシュフローの改善を図っていくことが喫緊の課題となります。さらに、地域企業は、感染症拡大以前から、地域経済が人口減少や高齢化など構造的な要因の影響を強く受けるもとで、様々な課題に直面しています。例えば、人口減少に伴い地元商圏が縮小するもとで新たな販路や人材獲得が課題となっているほか、高齢化した経営者の事業承継問題やデジタル化の加速への対応なども求められています。また、気候変動問題は、サプライチェーン全体を通じた取り組みが重要であり、地域の中小企業や小規模事業者にとっても避けて通れない課題となりつつあります。

こうした課題に対して、信用組合業界におかれては、クラウドファンディングサービスの「MOTTAINAIみらい」を通じた事業者支援や、人材マッチングを目的とした「しんくみ新現役交流会」の開催など、様々な取り組みを進められています。金融面にとどまらず、こうした非資金面での支援を組み合わせた多面的な取り組みが鍵になってくると考えられます。

3点目は、信用組合自身の経営基盤の強化についてです。

先ほど申し上げたように、地域経済を取り巻く環境が厳しさを増す中で、信用組合が、将来にわたって地域経済をしっかりと支え、金融仲介機能を円滑に発揮していくためには、自身の経営基盤の強化を図っていくことが重要です。

日本銀行の「地域金融強化のための特別当座預金制度」は、こうした地域金融機関による前向きな経営基盤強化の取り組みを支援する観点から導入したものです。制度開始の初年度は、多くの信用組合から、系統中央機関である全国信用協同組合連合会を通じて、本制度の利用がありました。引き続き、経営基盤強化に向けた積極的な取り組みが進捗していると聞いており、心強く感じているところです。今後も、経費削減と収益力強化の両面から、粘り強く取り組まれていくことを期待しています。

4.おわりに

最後になりましたが、今後の信用組合業界の皆様方のご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。