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山一證券について破産申立てが行われた場合における同社にかかる日本銀行法第38条第2項に基づく貸付けの運営に関する件

1999年6月16日
(議決日 1999年5月28日)
日本銀行政策委員会

山一證券が平成9年11月24日に廃業・解散の方針を決定して以降、日本銀行は、わが国金融・証券業界に対する信認の低下や内外市場の混乱を回避し、金融システム全体の安定を確保する観点から、同社に対し、顧客財産の返還、内外の既約定取引の決済、海外業務からの撤退等に要する資金を、同社の主要取引銀行であった富士銀行を経由して、日本銀行法第38条第2項(旧日本銀行法第25条)に基づき、供給してきた。

その後、山一證券においては、廃業・解散のための法的手続に目途がつかない中で、事業の整理に伴う損失や保有資産の価格変動等により、多額の債務超過に陥る可能性が高まる一方、平成11年5月中には、顧客財産の返還を含めた通常の取引等にかかる決済が基本的に終了する見通しとなった。

以上のような事情を踏まえ、本委員会は、平成11年5月28日、山一證券について破産申立てが行われた場合における本件資金供給に関する日本銀行の対応について、下記の趣旨の決定を行った。

  1. 富士銀行は本件資金供給に関する貸倒リスク等を一切負担しないとの当初の条件に基づき、日本銀行の富士銀行に対する貸付けについては、次のように取扱うこと。
    1. (1)貸付けの最終期限は、本件資金供給に関し富士銀行が山一證券に対して有する貸付債権の第三者への譲渡その他の事由により、本件資金供給が終了した日とする。
    2. (2)本件資金供給に関し富士銀行が山一證券に対して有する貸付債権にかかる回収金、債権譲渡代金等は全て返済に充てさせる。
    3. (3)本件資金供給に関し富士銀行が山一證券に対して有する貸付債権につき、元本額を超える回収等がなされた場合の当該元本超過額を除き、貸付利息は徴求しない。
  2. 日本銀行が山一證券に対し供給した資金につき、同社保有資産からできる限りの回収を図るため、富士銀行に対し、同行が山一證券に対して有する貸付債権に関し、山一證券に対する預金債務との相殺、担保品の処分、破産債権の届出等、破産手続の中で債権者に認められている権利を適切に行使するよう指示すること。

なお、本件決定後、山一證券は、平成11年6月1日夕刻に、裁判所に対し自ら破産の申立てを行い、翌2日午前、同社に対する破産宣告がなされた。日本銀行は、こうした事態に対する日本銀行としての見解につき、以下のとおり、総裁談話を発表した。


1999年6月2日
日本銀行

総裁談話

  1. 本日、山一證券より、東京地方裁判所から破産宣告を受けた旨の報告があった。山一證券が、こうした事態に立ち至ったことは、日本銀行としても誠に残念かつ遺憾である。
  2. 日本銀行は、平成9年11月24日に山一證券が廃業および解散の方針を決定して以降、日本銀行法第38条(旧法第25条)に基づき、主力取引銀行とも協力しつつ、同社の顧客財産の返還、内外の既約定取引の決済、海外業務からの撤退等に必要な資金を供給してきた。
  3. 山一證券の廃業・解散方針の決定当時、株価やアジア通貨の不安定な動き、相次ぐ金融機関の経営破綻を背景に、わが国金融システムを巡る環境が急激に厳しくなっており、また、景気も減速局面が続き、企業の景況感も慎重なものとなっていた。こうした中で、内外市場において広範な業務展開を行い、多数の顧客を擁していた山一證券の経営行詰まりにより、同社の内外市場での取引が約定どおりに履行されないこととなれば、内外市場の著しい混乱を招き、金融システム全体の安定が損なわれることが強く懸念された。
  4. このような点を踏まえ、日本銀行は、山一證券の廃業への過程において、約定済み取引等の円滑な履行を確保することが、わが国金融・証券業界に対する信認の低下や内外市場の混乱を回避し、金融システム全体の安定を確保するために、極めて重要であると考え、臨時異例の措置として、必要資金の供給に踏み切ったものである。山一證券からは、これまでに、通常の取引等にかかる決済は基本的に終了していると聞いており、日本銀行としては、山一證券への資金供給の目的は、既に十分に達成されたものと認識している。
  5. 今般、山一證券に対し破産宣告がなされたことを受け、日本銀行としては、今後、破産手続の中で適切に権利を行使することにより、山一證券に供給した資金の回収に努めていく所存である。
  6. 本件資金供給については、平成9年11月24日付大蔵大臣談話において、「本件の最終処理も含め、証券会社の破綻処理のあり方に関しては、寄託証券補償基金制度の法制化、同基金の財務基盤の充実、機能の強化等を図り、十全の処理体制を整備すべく適切に対処いたしたい」とされており、日本銀行資金の最終的な回収には懸念はないものと考えている。政府におかれては、大蔵大臣談話の趣旨に沿って、本件の最終処理を適切に実現されるよう、日本銀行として強く期待するものである。