【概要説明】 通貨及び金融の調節に関する報告書 参議院財政金融委員会における概要説明
日本銀行総裁 植田 和男
2025年6月3日
はじめに
日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、最近の経済金融情勢と日本銀行の金融政策運営について、詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。
経済金融情勢
まず、最近の経済金融情勢について、ご説明致します。
わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。輸出や鉱工業生産は、一部に米国の関税引き上げに伴う駆け込みの動きがみられますが、基調としては横ばい圏内の動きを続けています。企業収益は改善傾向にあり、業況感は良好な水準を維持しています。こうしたもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にあります。個人消費は、物価上昇の影響などから消費者マインドに弱さがみられるものの、雇用・所得環境の改善を背景に緩やかな増加基調を維持しています。先行きについては、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられます。その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれます。
物価面をみると、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、既往の輸入物価上昇や米などの食料品価格上昇の影響もあって、足もとでは3%台半ばとなっています。先行きについては、これまで物価上昇率を押し上げてきた既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられます。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられます。
こうした見通しを巡るリスク要因としては様々なものがありますが、とくに、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要があります。この間、わが国の金融システムは、全体として安定性を維持しています。内外の実体経済や国際金融市場が調整する状況を想定しても、わが国の金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどを踏まえると、全体として相応の頑健性を有していると判断しています。
金融政策運営
次に、金融政策運営について、ご説明申し上げます。
日本銀行は、5月の金融政策決定会合において、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0.5%程度で推移するよう促す」という金融市場調節方針を維持することを決定しました。先行きについては、現在の実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえますと、「展望レポート」でお示しした経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、こうした見通しが実現していくかについては、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要と考えています。
今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営して参ります。
ありがとうございました。
