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【概要説明】通貨及び金融の調節に関する報告書参議院財政金融委員会における概要説明

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日本銀行総裁 黒田 東彦
2018年5月22日

はじめに

日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、わが国経済の動向と日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

わが国の経済金融情勢

まず、わが国の経済金融情勢についてご説明いたします。

わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大しています。企業部門では、輸出と生産が、海外経済の着実な成長などを背景に、増加基調にあります。そうしたもとで、企業の収益や業況感は改善基調を維持し、設備投資も増加傾向を続けています。家計部門では、雇用・所得環境が着実な改善を続けています。失業率が2%台半ばまで低下するなど、労働需給の引き締まりが続いているほか、今春の賃金改定交渉において5年連続となるベースアップが多くの企業で実現するなど、賃金も緩やかに増加しています。こうしたもとで、個人消費は、振れを伴いながらも、緩やかに増加しています。

先行きのわが国経済は、2018年度は、海外経済が着実な成長を続けるもとで、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、潜在成長率を上回る成長を続けるとみられます。2019年度から2020年度にかけては、設備投資の循環的な減速や消費税率引き上げの影響を背景に、成長ペースは鈍化するものの、外需に支えられて、景気の拡大基調が続くと見込まれます。こうした中心的な見通しに対する先行きのリスクについてみると、2018年度は概ね上下にバランスしていますが、2019年度以降は、海外経済の動向を巡る不確実性などから、下振れリスクの方が大きいと考えています。

物価面では、企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっていることなどを背景に、エネルギー価格の影響を除いてみると、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べて、弱めの動きが続いています。もっとも、マクロ的な需給ギャップが改善を続けるもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、中長期的な予想物価上昇率も高まるとみられます。この結果、消費者物価の前年比は、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。このように、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けており、先行きについては、中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に、下振れリスクの方が大きいと考えられます。

金融政策運営

次に、金融政策運営について、ご説明申し上げます。

日本銀行は、2016年9月に導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもとで、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促しています。4月末の金融政策決定会合では、短期政策金利を-0.1%、10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度とする金融市場調節方針の維持を決定しました。わが国の長短金利の動向をみますと、こうした金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが形成されています。

現在、わが国では、内外需要がいずれも増加基調を辿り、息の長い景気回復が続いています。しかしながら、2%の「物価安定の目標」の実現にはなお距離があります。また、経済・物価の先行きの見通しに関する不確実性についても注意深く点検していくことが必要な情勢です。こうしたもとで、日本銀行としては、「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、現在の強力な金融緩和を粘り強く進めていくことが適切であると考えています。

ありがとうございました。