このページの本文へ移動

【概要説明】通貨及び金融の調節に関する報告書参議院財政金融委員会における概要説明

English

日本銀行総裁 黒田 東彦
2019年5月9日

はじめに

日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、わが国経済の動向と日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

わが国の経済金融情勢

まず、わが国の経済金融情勢についてご説明いたします。

わが国の景気は、輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、基調としては緩やかに拡大しています。やや詳しくみますと、わが国の輸出や生産は、中国向けの資本財やIT関連財を中心に、足もと弱めの動きとなっています。もっとも、国内需要は、堅調な動きが続いています。企業収益は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じて良好な水準を維持するもとで、設備投資は増加傾向を続けています。また、個人消費も、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しています。先行きのわが国経済も、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、基調としては緩やかな拡大を続けるとみています。なお、先行きのリスクについてみると、保護主義的な動きの帰趨や中国経済の動向、IT関連財のグローバルな調整の進捗度合いなど、海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きいと考えています。

物価面をみると、消費者物価の前年比はプラスで推移していますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています。もっとも、最近では、企業において、原材料価格や人件費の上昇を価格に反映させる動きが増えています。今後とも、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けるもとで、こうした動きが拡がっていけば、人々の予想物価上昇率も徐々に高まっていくとみています。このように、「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されており、消費者物価の前年比は、先行き、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えています。

金融政策運営

次に、金融政策運営について、ご説明申し上げます。

日本銀行は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもとで、強力な金融緩和を推進しています。このうち、長短金利操作については、「物価安定の目標」の実現のために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促すよう、短期政策金利を-0.1%、10年物国債金利をゼロ%程度とする「金融市場調節方針」を掲げ、市場において国債の買入れを実施しています。

現状、わが国の経済は基調として緩やかな拡大を続け、物価も、既に「持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなっていますが、2%の「物価安定の目標」の実現には、なお時間がかかることが見込まれます。また、海外経済の動向をはじめ、経済・物価の先行きを巡る不確実性が大きい状況が続いています。こうした認識のもと、日本銀行は、「物価安定の目標」の実現に向けて、強力な金融緩和を粘り強く続けていくという政策運営方針をより明確に示していくことが重要だと考えています。このため、先月には、昨年7月に導入した「政策金利のフォワードガイダンス」を明確化し、「海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」こととしました。また、円滑な資金供給や市場機能の確保に資するよう、日本銀行適格担保の拡充などの諸措置を講じることとしました。こうした対応は、強力な金融緩和の継続に対する信認を高め、「物価安定の目標」の実現をより確かなものにするとともに、金融市場の安定にも繋がると考えています。

日本銀行としては、今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえながら、適切な政策運営に努めていく方針です。

ありがとうございました。