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金融経済月報(基本的見解1)(1999年10月)2

  1. 本「基本的見解」は、10月13日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、10月13日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

1999年10月15日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp9910.pdf 705KB)から入手できます。


 わが国の景気は下げ止まっており、足許、輸出や生産面には持ち直しの動きがみられる。しかし、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない。

 最終需要面をみると、設備投資は、引き続き減少基調にあり、個人消費も、厳しい雇用・所得環境が続くもとで、全体としては回復感に乏しい状態が続いている。また、これまで持ち直し傾向にあった住宅投資も、このところ頭打ちとなっている。一方、公共投資は増加しているほか、純輸出(輸出−輸入)も、輸出の伸びに支えられ増加を続けている。

 このような最終需要の動向や、在庫調整が引き続き進捗しているもとで、鉱工業生産は、増加している。また、企業収益も改善しつつあり、こうした動きを背景に、企業の業況感の改善が続いている。もっとも、収益や業況感の改善は、設備・雇用過剰感が根強く、借入金返済等による財務体質改善が強く意識されるもとで、必ずしも積極的な企業行動に繋がっていない。

 今後の経済情勢については、日本銀行による金融緩和措置などによる金融環境全般の改善や政府による一連の経済対策が、引き続き下支え効果を発揮していくことが期待される。また、アジアをはじめとする海外景気の回復が生産面に及ぼすプラス効果も当面継続するとみられる。しかし、他方で、住宅投資は、先行指標の動きからみて、今後緩やかな減少に転じる可能性が高いほか、これまでの発注状況からみて公共投資の増加も一服すると考えられる。また、企業部門では、慎重な売上計画のもと、リストラの強化により収益改善を図る動きが続くものとみられる。こうした企業リストラは、生産性の向上に繋がると期待される一方、短期的には、設備投資の抑制に働くほか、雇用・所得環境の悪化などを通じて家計支出にもマイナスの影響を及ぼしている。また、このところの円高は、当面企業収益の減少要因として作用するとみられる。これらを踏まえると、民間需要の速やかな自律的回復は依然として期待しにくい状況にある。今後は、このような点に留意しつつ、経済情勢全般の動向を注意深くみていくとともに、経済の中期的な成長力確保に向けた構造改革を、円滑に進めていくことが重要と考えられる。

 物価面をみると、輸入物価は、原油など国際商品市況が上昇しているものの、足許については、円高の進行に伴い、幾分下落している。国内卸売物価は、石油製品等一部市況関連商品の上昇に加え、在庫調整の進捗もあって、横這いの動きとなっている。また、消費者物価も、引き続き横這いで推移している。企業向けサービス価格は下落が続いているが、そのテンポは鈍化している。先行きについても、既往の原油価格上昇の転嫁が暫く続くこと等から、物価は当面、概ね横這いで推移していくものと考えられる。しかし、民間需要の回復に支えられた需給ギャップの本格的な縮小は当面見込み難く、賃金の軟化が続いていることなども考慮すると、物価に対する潜在的な低下圧力は、引き続き残存するものと考えられる。

 金融面をみると、短期金融市場では、オーバーナイト物金利が引き続きゼロ%に近い水準で推移しており、オーバーナイト資金の確保に対する懸念は払拭された状況が続いている。ターム物金利をみると、年末を越えない期間の短いものが既往ボトム圏内で推移している一方で、年末越えとなるものについては、「コンピューター2000年問題」の影響から、幾分高めで推移している。

 ジャパン・プレミアムは、年末越えとなる取引について若干生じているが、期間の短い取引では、ほぼ解消された状態が続いている。

 長期国債流通利回りは、8月下旬以降は軟化傾向を辿り、一時1.6%前後まで低下したが、その後は若干戻し、最近では1.7%台となっている。この間、国債と民間債(金融債、社債)の流通利回りスプレッドは、一頃に比べかなり低い水準で、安定して推移している。

 株価は、米国株価の軟調や急激な円高の動きなどを受けて、9月下旬には一時1万6千円台まで下落したが、その後は米国株価の持ち直しや円相場の落ち着きを背景に反発に転じ、足許では1万8千円前後で推移している。

 円の対米ドル相場は、9月中旬および下旬には一時103円台まで急激な円高が進んだが、その後は若干戻し、足許では106〜107円台で推移している。

 コール市場残高は、6月中旬以降、横這い圏内での推移が続いている。これまでのところ資金決済面で支障が生じるといった事態はみられていないが、今後ともその動向を注視していく必要がある。

 金融の量的側面をみると、民間銀行は、基本的に慎重な融資姿勢を維持している。ただ、民間銀行自身を巡る資金繰り面や自己資本面からの制約は緩和されており、そうしたもとで、大手行などでは、融資先の信用力などを見きわめつつ、徐々に融資を回復させようとする姿勢にある。

 しかし、企業の資金需要面をみると、設備投資などの実体経済活動に伴う資金需要が低迷を続けているほか、企業が手許資金を取り崩して借入金を圧縮する動きもみられている。この結果、民間の資金需要は引き続き減退しており、民間銀行貸出は弱含みで推移している。社債、CP等の発行は落ち着いた動きとなっている。

 マネーサプライ(M2+CD)は、上述のような民間の資金需要の減退などを受けて、前年比3%台半ばと、伸び率がやや鈍化している。

 以上のような金融環境のもとで、企業金融を巡る逼迫感は和らいでいる。
今後、投資家のリスクテイク姿勢や民間銀行の融資態度の変化がどのように進み、実体経済活動にどのような影響を与えていくか、十分注目していく必要がある。

以上