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金融経済月報(基本的見解1)(1999年11月)2

  1. 本「基本的見解」は、11月12日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、11月12日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

1999年11月16日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp9911.pdf 533KB)から入手できます。


 わが国の景気は、足許、輸出や生産を中心に、下げ止まりから持ち直しに転じつつある。しかしながら、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない。

 最終需要面をみると、設備投資は、減少テンポを緩めつつも、基調としてはなお減少を続けており、個人消費も、雇用・所得環境に目立った改善がみられない中で、回復感に乏しい状態が続いている。住宅投資は、このところ頭打ちとなっており、公共投資の増加もほぼ一服したものとみられる。一方、純輸出(実質輸出−実質輸入)は、海外景気の好転を背景に一段と増加している。

 このような最終需要の動向や、在庫調整が引き続き進捗しているもとで、鉱工業生産は、増加を続けている。また、企業収益も改善しつつあり、こうした動きを背景に、企業の業況感の改善が続いている。雇用面でも、一部指標には雇用者数の減少に歯止めが掛かりつつあることを示唆するものもみられる。もっとも、収益や業況感の改善は、設備・雇用過剰感がなお強く、借入金返済等による財務体質改善が強く意識されるもとで、必ずしも積極的な企業行動には繋がっていない。また、企業が人件費抑制スタンスを堅持する中で、家計の所得環境は引き続き厳しい状況にある。

 今後の経済情勢については、日本銀行による金融緩和措置などによる金融環境全般の改善や今般発表された経済対策を含めた政府による一連の経済対策が、引き続き下支え効果を発揮していくことが期待される。また、アジアをはじめとする海外景気の回復が生産面に及ぼすプラス効果も当面継続するとみられる。しかし、住宅投資は、暫く頭打ちの状況が続く可能性が高い。また、企業部門では、慎重な売上見通しのもとで、リストラにより収益改善を図る動きが続くものとみられる。こうした企業リストラは、企業部門ひいては経済全体の中期的な成長力を高めていく上で避けて通れないものの、短期的には、設備投資の抑制に働くほか、雇用・所得環境の改善を遅らせることで、家計支出にもマイナスの影響を及ぼしている。また、このところの円高は、当面企業収益の減少要因として作用するとみられる。これらを踏まえると、生産等の経済活動の好転が今後企業・家計の所得面に徐々にプラスの影響を及ぼしていくとしても、民間需要の速やかな自律的回復は依然として期待しにくい状況にある。したがって、景気が持ち直しに転じつつあるとはいえ、今後の展開については、なお注意深くみていくことが必要である。また、民間需要の立ち直りを促すような構造改革を進めていくことも重要と考えられる。

 物価面をみると、輸入物価は、原油など国際商品市況の既往の上昇を受けて、足許では、幾分上昇している。国内卸売物価は、電気機器等の下落が続いているものの、石油製品等一部市況関連商品の上昇等から、横這いの動きとなっている。また、消費者物価も、引き続き横這いで推移している。企業向けサービス価格は小幅の下落が続いている。先行きについても、一部の財・サービス価格の下落が続いているものの、既往の原油価格上昇の転嫁が暫く続くこと等から、物価は当面、概ね横這いで推移していくものと考えられる。しかし、民間需要の回復に支えられた需給ギャップの本格的な縮小は当面見込み難く、賃金の軟化傾向が続いていることなども考慮すると、物価に対する潜在的な低下圧力は、引き続き残存するものと考えられる。

 金融面をみると、短期金融市場では、オーバーナイト物金利が引き続きゼロ%に近い水準で推移しており、オーバーナイト資金の確保に対する懸念は払拭された状況が続いている。この間、コール市場残高は、6月中旬以降、横這い圏内での推移が続いている。

 ターム物金利をみると、年末を越えない期間の短いものが引き続き既往ボトム圏内で推移している一方で、年末越えとなるものについては、「コンピューター2000年問題」の影響から、上昇している。

 ジャパン・プレミアムも、期間の短い取引ではほぼ解消された状態が続いているが、年末越えとなる取引については、引き続き若干のプレミアムが生じている。

 長期国債流通利回りは、10月下旬には一時1.9%前後まで上昇したが、その後は低下し、最近では再び1.7%台となっている。この間、国債と民間債(金融債、社債)の流通利回りスプレッドは、一時は縮小傾向に一服感がみられていたが、最近では、低格付のものを中心に再び縮小傾向が目立っている。

 株価は、10月中は米国株価の軟調を受けてやや下落したが、その後は米国株価の反発を背景に上昇に転じ、足許では1万8千円台前半で推移している。

 円の対米ドル相場は、最近では概ね104〜106円台で推移している。

 金融の量的側面をみると、民間銀行は、基本的に慎重な融資姿勢を維持している。ただ、民間銀行自身を巡る資金繰り面や自己資本面からの制約は緩和されており、そうしたもとで、大手行などでは、融資先の信用力などを見きわめつつ、徐々に融資を回復させようとする姿勢を強めている。

 しかし、企業の資金需要面をみると、設備投資などの実体経済活動に伴う資金需要が低迷を続けているほか、企業が手許資金を取り崩して借入金を圧縮する動きもみられている。この結果、民間の資金需要は引き続き低迷しており、民間銀行貸出は弱含みで推移している。社債の発行も、落ち着いた動きとなっている。この間、CPの発行は、年末を控えて増加してきている。

 マネーサプライ(M2+CD)は、上述のような民間の資金需要の低迷などを受けて、前年比3%台前半と、伸び率がやや鈍化している。

 以上のような金融環境のもとで、企業金融を巡る逼迫感は和らいでいる。

 今後、投資家のリスクテイク姿勢や民間銀行の融資態度の変化がどのように進み、実体経済活動にどのような影響を与えていくか、十分注目していく必要がある。

以上