金融経済月報(基本的見解1)(2000年 4月)2
- 本「基本的見解」は、4月10日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
- 本稿は、4月10日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。
2000年 4月12日
日本銀行
日本銀行から
以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0004.pdf 597KB)から入手できます。
わが国の景気は、持ち直しの動きが明確化している。民間需要面でも、設備投資が緩やかながら増加に転じるなど、一部に回復の動きがみられ始めている。
最終需要面をみると、外生需要の面では、純輸出(実質輸出−実質輸入)が海外景気の好転を背景に増加傾向を辿っているほか、公共投資も補正予算の執行に伴い増加に転じつつある。一方、国内民間需要の面では、住宅投資は緩やかに減少しており、個人消費も、雇用・所得環境に目立った改善がみられない中で、回復感に乏しい状態が続いている。しかし、設備投資は、緩やかながらも増加に転じている。
このような最終需要の動向のもとで、鉱工業生産は増加し、企業の収益や業況感も改善を続けている。企業部門全体としては、設備・雇用過剰感がなお強く、借入金返済等による財務体質改善が強く意識されているが、成長性の高い分野を中心に、設備投資増額など積極的な行動に転じる企業が徐々に増えている。雇用面では、雇用者数・賃金の両面でこれまでの減少傾向に歯止めが掛かりつつあるものの、企業が人件費抑制スタンスを堅持する中で、家計の所得環境は引き続き厳しい状況にある。
今後の経済情勢については、当面公共投資が増加するほか、日本銀行による金融緩和措置などによる良好な金融環境も、引き続き下支え効果を発揮していくことが期待される。また、海外景気の回復を背景に純輸出の増加が続くとともに、企業の収益や業況感が改善し続けるもとで、設備投資も緩やかに増加するものとみられる。もっとも、住宅投資の緩やかな減少が続くとみられるほか、企業の人件費抑制スタンスに大きな変化がみられないことから、家計の所得環境が好転し個人消費が立ち直るには、なお時間を要するものと考えられる。また、企業の売上げ見通しが引き続き慎重であるだけに、設備投資の持続性や広がりについては、なお注意深くみていくことが必要である。
物価面をみると、輸入物価は、基調としては、原油等国際商品市況を映じて、上昇している。国内卸売物価は、電気機器等の下落が続いているものの、原油価格上昇を受けた石油・化学製品の上昇等から、横這いの動きとなっている。消費者物価は、民間サービス価格がやや強含んでいるものの、これまでの円高から輸入製品価格が低下しているため、幾分弱含みで推移している。企業向けサービス価格は、小幅の下落が続いている。
先行きについては、国内の需給バランスの緩やかな改善や原油価格上昇分の転嫁が、物価に対し上昇方向に作用する一方、技術進歩を背景とする機械類の趨勢的な下落や、これまでの円高による輸入製品価格の低下が下落方向に作用することから、総じてみれば物価は概ね横這いで推移するものと考えられる。需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力については、民間需要の一部に回復の動きが出ていることから、一頃に比べ後退しているものの、引き続き留意していく必要がある。
金融面をみると、短期金融市場では、オーバーナイト物金利は、ゼロ%に近い水準で推移しており、オーバーナイト資金の確保に対する懸念は払拭された状況が続いている。この間、コール市場残高は、3月末にかけて若干増加したが、その後は再び減少した。
ターム物金利は、年度末にあたる3月末にかけて幾分強含んだが、4月入り後はやや軟化している。ジャパン・プレミアムは、ほぼ解消された状態が続いている。
長期国債流通利回りは、3月中旬に若干水準を切り上げ、その後1.8%台で推移していたが、3月末以降はやや軟化し、最近では再び1.7%台となっている。この間、国債と民間債(金融債、社債)の流通利回りスプレッドは、低格付のものを中心に、引き続き縮小傾向を辿っている。
株価は、3月中旬にかけて一時1万9千円近傍まで軟化したが、その後は上昇に転じ、最近では2万円台で推移している。
円の対米ドル相場は、3月末にかけて円高方向への動きが強まったが、4月入り後は、105円をはさんでの値動きとなっている。
金融の量的側面をみると、民間銀行は、基本的に慎重な融資姿勢を維持している。ただ、民間銀行自身を巡る資金繰り面や自己資本面からの制約は緩和されており、そうしたもとで、大手行などでは、融資先の信用力などを見きわめつつ、融資を回復させようとする姿勢を強めている。
しかし、企業の資金需要面をみると、設備投資などの実体経済活動に伴う資金需要が低迷を続けているほか、企業はバランスシート調整の一環として、借入金を圧縮していくスタンスを維持している。この結果、民間の資金需要は引き続き低迷しており、民間銀行貸出は弱含みで推移している。社債やCPの発行も、落ち着いた動きとなっている。
上述のような状況を受けて、マネーサプライ(M2+CD)は、伸び率の鈍化傾向が続いている。
以上のような環境のもとで、企業金融には緩和感が広がりつつあり、企業からみた金融機関の貸出姿勢も厳しさが後退している。今後とも、こうした企業金融を巡る環境の改善傾向が、実体経済活動にどのような影響を与えていくのか、見守っていくことが必要である。
以上